第3話

「ち、父上! そ、その腕は……どうなされたのですか!!」


 幸光が驚くのも無理はない。何しろ最強の剣士として強い憧れを抱いていた父の左腕がないのだから。


「よく聞け。お前に修行を課す。今からお前は都『京楽』へ迎いそこで闇祓いとなる。そしえこの世の闇を祓う。幾千の義を果たせ。それがお前の成すべきことだ」


「で、ですが父上を置いて行くなど……」


「俺を心配するのは一人前になってからするんだな」


 霧鳴は幸光の頭をわしゃわしゃと撫でた。

 いくら厳しいことを言おうと霧鳴にとって幸光は大切な子供なのだ。子供が強くなるというのは霧鳴にとってとても嬉しいことだった。


 未だ未熟とはいえ幸光はよく育った。霧鳴の異常とも言える修行によく耐え、技を覚えてきた。手慣れ相手だろうと引けを取ることはないだろう。しかし、その優しい性格のためか殺すという行為に抵抗がある。それが後々どんな結果をもたらすことになるのか……。


「父上………はい! 自分は闇祓いとなり何百、何千の人々を救えるよう努力します!」


「うむ、では行け幸光! お前の義を果たしてこい!」


 幸光は早々に荷造りを終え、家を出た。

 霧鳴は幸光が出たのを確認すると亡き妻、椿の仏壇に手を合わせた。


「椿……俺たちの子供は強く育った。あいつの運命がどうなるのか俺にはさっぱり分からない。だが、あいつにはその運命を切り拓く力があるはずだ。俺はそれに賭けてみたんだよ」


 心なしか仏壇からはあたたかな光が漏れているようだった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る