第2話

「はっ……父上、稽古をお願いします!」


「まだ休めぇい!」


「いだっ! はい、分かりました!」


 霧鳴の一撃で気を失った幸光は家で休養を取っていた。なぜかげんこつを落とされた幸光は元気よくまた布団に戻った。


「父上、自分の意志が弱いというのは特にどこが弱いのでしょう」


「刀を振るう理由はなぜだと思う?」


 幸光は紅蓮のように赤く光る刀身を手入れしながら問う。その刀身を見る目は全盛期の霧鳴を思わせる鋭い眼光だ。


「助けるためです。自らの手で救える人すべてを助けるためです」


「あぁ、その通りだ。しかし、刀を振るうのはもう1つ意味がある」


「それは一体……」


 霧鳴は立ち上がり、普段持つはずのない己の刀を持った。決して有名な刀鍛冶が作ったわけではない。その刃は悪を捉えそれを両断するために鍛えられた。闇討ち刀。目的を持った刃は迷いなく悪を両断するだろう。


「父上、どこに? 自分もお伴します」


「刀は殺すための武器でもある」


 霧鳴はそう言うと扉をピシャリと締めた。

 残された幸光は長時間の修行の疲れから深い睡眠に入ってしまった。


◇◇◇◇


 家からしばらく離れると歩みを止めた。


「いつまで隠れているつもりだ。俺の家族に悪意を向けるということがどういうことが理解しているのか?」


 暗い夜の中、漆黒から1人の男が現れた。

 闇から現れた男は年齢の読みにくい顔立ちをしていた。武器は何も所持していないように見えた。しかし、男が何かを握る仕草をすると闇から刀が現れた。

 夜の暗い中でもわかるほどに漆黒の刀が男の手にはあった。


「天羽 霧鳴。貴方が1番であったことは知っている。故に貴方を殺すべきだと判断したのだ」


「俺を知っているのか。ならば貴様の名は龍泉 神楽だな」


「っ……なぜ私の名前を? 貴方が闇祓いだったのは過去のことだ。その貴方になぜ情報が?」


 闇祓い。それは世にはびこる闇を祓うための組織。霧鳴は闇祓いに所属し、強さ、人格において最も優れていた。それ故に1番であった。

 最も信頼されていた男に必要な情報が流れてこない、そんなことはあるわけがない。世界で起きている闇祓いに関する問題は全て流れてくるのだ。それが安寧の光、公式の組織から流れてくるものかはわからない。


「俺が元闇祓い・1番それを知った上で来たのだろう? それならば刀を抜け。俺は守るために戦い守るために殺す」


「貴方の同僚……3番と4番はとても弱かった。弱すぎて殺しまった」


 3番と4番それは友人だった。

 番号を与えられる。それは名誉なことで誰もがなれるわけではない。龍泉が弱いと言い放ったのは龍泉から見て弱かった。龍泉の方が強かった。その事実は変わらないだろう。


「そうか。それはあいつらが修行不足であったからだろう」


「非情な男だな」


「同情というのは時に非情よりも残酷なものだ」


 龍泉は漆黒の刀を構え、霧鳴は柄に手をかけた。静寂が両者の空間を包み込んだ。

 そして刹那、空間が揺れた。


「霧鳴。貴方は自らの腕が消えてることに気づいているか?」


 龍泉は霧鳴の後ろに立っていた。そしてその左腕はぽとりと地に落ちた。噴き出る血しぶきの中、霧鳴は後ろを向いた。


「ならば問おう。貴様のその首は繋がっているか?」


「何を言っ……」


 龍泉の首は音もなく地に落ちた。


「天羽流・炎閃居合」


 天羽流。それは1つの流派として確立された対人剣術。鞘から抜き出す瞬間に炎を噴射し居合の速度を爆発的に上げる。

 そして霧鳴のような至高に至るとされる者が振るう居合は炎を置き去りにする。


 ゴォウッ!


 霧鳴が刀を振るったと思われる空間に炎が現れ、消えた。これが霧鳴を闇祓い・1番とした所以である。


「見事……。私の分身とはいえ首を切り落とすとは。だがそれほどの闇祓いの片腕を斬り落とすことができたのはいい収穫だ。私はここらで退散するとしよう」


 龍泉の斬られた体と首は闇に消えた。


「これは一刻も早く向かわせなければならんな」


 霧鳴は斬られた腕から噴き出る血を無理やり止めると、家に帰った。

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