第十二話 え? なんでこの編成なんスか? ~後編~
美麗が選んだのはバニラだった。超ド真ん中。
また俺たちはイスに座って食べている。俺の右前に美麗、左前に香月がいる。
「おいしいわ」
「でしょー! 私ここのソフトクリーム好きなんだ~」
「うむ、たしかにうまい」
美麗は相変わらず優雅にソフトクリームを食べている。
「二人で遊んでいたの?」
美麗が俺を見ながら聞いてきた。
「まぁ二人っちゃ二人だが、その前は乃々・愛玖・あと靖斗もいた」
「う、うん」
俺はちゃんと事実を伝えているぞっ。
「そう」
香月は食べるとあんなにぱぁ~っと幸せオーラ出すというのに、美麗は淡々と食べている。おいしいとは言ってるけどよぉ。
「美麗も塾大変だなー。俺ただでさえ夏休みは部活でつぶれまくってるって思ってんのに、美麗はさらに習い事だろー?」
「ほんとだよー。美麗ちゃん大丈夫? 無理してない?」
「大丈夫よ」
美麗の力強いお言葉が響きました。
「美麗って将来どんなやつになるんだろな。賢くてオーラがあって習い事頑張ってて」
「ほんとだよぉ。遠い世界の人になっちゃいそう」
「どういうことかしら」
「だからー。美麗すごい人になって俺たちでは届かない世界に行っちゃいそーみたいな?」
「よくわからないわ」
さすがの美麗である。
「でも私たちは自慢できるよね! こんなすごい美麗ちゃんと一緒の部活してましたーって!」
「美麗が超有名になったら、ぜひ俺たちのことを思い出してくれよな!」
「忘れないわ」
美麗のすばらしい記憶力なら問題ないだろう。
「だって……」
そこで俺を見てくる美麗。
「忘れていないもの」
そしてほんの少し笑ってくる美麗。
(げっ! まさか俺が幼稚園時代のあれを完全に忘れてることを根に持ってんのかっ!?)
「えっ? なになに?」
「雪が昔のわたくしのことを忘れていたからよ」
「え~、雪作くんが美麗ちゃんのことを忘れてるなんてあるのー?」
「お、俺は美麗と違って記憶力は普通レベルじゃいっ」
美麗はおいしそうに食べている。俺はコーンの部分も食べきった。パリパリしてうま。
「私は美麗ちゃんのことも雪作くんのことも小学生のときからしか知らないけど、美麗ちゃんは雪作くんのことをもっと前から知ってるんだよね?」
「幼稚園に入る前から遊んでいるわ」
「うわ~すごーい。幼稚園に入る前の雪作くんってどんなだったの?」
「そこら中で飛んで跳ねて転んでいたわ」
「おいぃなんでそんなことまで覚えてんだよ!」
「あは、雪作くんらしいねー!」
笑う香月、ちょっと笑う美麗、おいぃ顔の俺。
「雪作くんは、その時の美麗ちゃんのこと覚えてないの?」
「覚えてるわけねーだろ、幼稚園のときですらあんま覚えてねーっつーのにっ」
おい俺を見ながら食べるな美麗。
「ちょっとも覚えてないの? ちょっとくらいは覚えてない?」
「んーむむ、なんかあるっけー……?」
俺は頑張って思い出そうとしてみた。香月がソフトクリームを食べきった。
(なんか思い出せ、思い出せ、思い出せ……)
はっ。
(きたぁーーー!!)
「思い出した! 幼稚園入る前の美麗!」
「ほんと? なになに?」
美麗はコーンの部分に差し掛かった。
「俺ん家のテレビの前に二人で横に並んで座ってて、なんか肩ぶつけあってぼよんぼよんしてた! 歌番組かなんかで、テレビの人の動きをまねてとかそんな感じだった気がする!」
俺はドヤ顔で美麗を見た。
「覚えているわ」
「覚えてんのかーい!」
美麗恐ろしすぎ。
「わーかわいいなー! やっぱり小さいときから仲良しなんだね!」
「父さん母さん同士が仲いいし、家隣だしでな」
もう一体何年前なんだよ。十年以上前のことだぜ?
「けんかとかしたことあるの?」
「ないー……よなぁ美麗?」
「ないわ」
美麗にけんか売るとか、無謀にも程がある。
「それもすごいねっ。お互いに不満なところとか、まったくないの?」
「ないわ」
美麗超速攻すぎる!
「雪作くんは? 美麗ちゃんの不満なところっ」
「な、ないない。美麗は超完璧なんだから、不満なところなんてあるわけがない」
「その割には要望がある気がするけど」
「そっ、それはそれだっ! 不満だからじゃなくてだな、こう、なんかこう、よりよい美麗の一面を、こう……こうっ!」
うまく言葉が出てこないので、身振り手振りでアピールした。
「てかっ、美麗ほんとに俺に不満なとこねーのかよ。俺みたいな一般ピーポー相手によぉ」
「ないわ」
かーっ。美麗のこの破壊力の高さよ!
「いいなーそんなに仲いい人が隣に住んでるってー。なんか憧れちゃうなー」
香月が手を組んでその上にあごを乗せている。
「いーだろー。あの美麗が隣の家に住んでんだぜーヘッヘッヘー」
俺は自慢してみた。美麗はコーンをもうそろそろ食べ終わりそう。
「美麗ちゃんも雪作くんが隣に住んでてよかった?」
あ、美麗こっち見てきた。
「ええ」
もーまたそこで美麗スマイル出るぅー。美麗はバニラソフトクリームを食べきった。どこからともなく花柄のハンカチが取り出されお口ふきふきしてる。
「ごちそーさまでしたっ」
「ごちそうさまでしたー」
「ごちそうさまでした」
俺の号令とともにごちそうさまでしたが行われた。
「ね、雪作くんからは美麗ちゃんのことをいっぱいすごいすごいって言ってるけど、美麗ちゃんは雪作くんのすごいところ、どこかある?」
「も、もちろんあるよな美麗!」
「そうね……」
どぅぉ~美麗が考え込んでやがるぅー。そんな考え込まないと浮かばないレベルなのか俺はーっ。
「たくさん浮かぶのだけれど、どれから話せばいいのか迷うわ」
「み、美麗ぃ~……!」
まさかのそっちのパターンだった。
「え! 雪作くんってそんなにすごいの!?」
「すごいわい!」
香月にツッコミを入れたら香月は笑っていた。
「まず優しいわ。少しでも人のためになればと思って行動をしてくれているわ」
「そ、そんな大したもんじゃー」
「面倒見もいいわ。一真や後輩をよく面倒見て、慕われていると思うわ」
「やりたいようにやってるだけだけどなー?」
「それとともに信頼されているとも思うわ。物事に真摯に取り組んでいるから、わたくしも雪のことは信頼しているわ」
「そ、そりゃ大げさなんじゃっ」
「面倒なことにもまじめに取り組んでいるわ。練習も頑張っているわ」
「それは~、美麗に負けじとー……?」
「相手に合わせて的確に行動をしていると思うわ。友達が多そうなのもそういうところじゃないかしら」
「あいや、少なくはないとは思うけど、でも美麗だって多そうだし?」
「知識が幅広いわ。わたくしが知らないこともよく知っているわ」
「おいおいマンガやアニメの話を塾の勉強の知識と並べるなよっ」
「手先も割と器用なんじゃないかしら。一真と作り上げた工作はしっかり作られていると思うわ」
「男の友情は時として力の限界を超える!」
「言い回しが多彩だから、頭の回転も速いんじゃないかしら」
「それは単にかっこつけて言いたい漢の
「お父さんもお母さんも雪のことを褒めているわ。いいお友達を持ったと言っているわ」
「そりゃえがった」
「わたくしがお願いしたことも素直に聞いてく」
「ちょ、ちょっと美麗ちゃんすとーっぷ!」
おっと香月のストップが入ったっ。
「わかった、わかったよぉ、終わらなさそうだからすとーっぷっ」
「そう」
美麗は香月を見ている。
「てか美麗どんっだけ俺褒めてんだよ! どう考えても美麗には遠く及ばないこの俺が! 一体どこのどんなとこにそんな褒められる要素があるってんだー!」
「説明したわ」
がくっ。俺はテーブルに突っ伏した。
「あははっ、でもよかったね、雪作くん!」
「まぁ、悪くはない、けどさー、はは」
美麗はちょっと笑っていた。
「それじゃあそろそろ帰ろっかなっ」
「ん? おー」
香月は立ち上がった。
「今日はいっぱいしゃべって楽しかったねっ。またね!」
「じゃなー」
「また会いましょう」
俺と美麗は手をちょこっと上げた。香月は手をふりふりして去っていった。
そしてこのテーブルには俺と美麗の二人。直売所ってことで辺りはにぎわってるけど。
「……んじゃ美麗、帰るか」
「ええ」
俺たちも立ち上がった。んで俺は自転車を取りに行かねば。
登下校はたくさんしているが、私服で並んで歩くってのはそんなにないと思う。まぁそれでも他の友達よりかは多いんだろうけど。
「美麗カバン」
俺は美麗が持っていたカバンを奪って押している自転車のステアリングに引っ掛けた。
「ありがとう」
「どういたまして」
うん、ツッコミはなかった。たぶんとうもころしって言ってもツッコまれないだろう。
「夏ってあちーよなー」
「そうね」
こんな当たり前すぎる話を出しても、美麗はいつもの返事しかしてくれないだろう。
「美麗は季節でどれが好きだ?」
「夏かしら」
「お、夏か。なんでだ?」
美麗の溜め。
「雪と最も遊べるから、かしら」
おぉぅ。
「そ、そんな理由かよっ」
「だめかしら」
「超いいです」
なんか今日の美麗はやたらめったらよいしょし倒してきてるなー。いや気分はいいけどさ。
「雪はどの季節が好きなのかしら」
「俺? やっぱ春だな! すべての始まりって感じで花見とかにぎやかだし!」
「そう」
なんか、こう、ぱぁーっとした感じがよくね!?
「きょ、今日はやたらと美麗よいしょしてくるなーふはは」
「そうかしら」
「そうじゃいっ。いつもはええそう美麗だというのにっ」
「思ったことを言っただけだけど」
「そうなんだろうけどさぁぁっ。んまぁこれからもよいしょしてくれ」
「ええ」
今日も美麗とおしゃべりする時間が流れていった。
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