第十二話 え? なんでこの編成なんスか? ~中編~
俺が先にでかい公園のベンチ前に着いた。さすが俺の愛車だぜっ。でもすぐに靖斗も自転車に乗ってやってきた。黒から紫色にグラデーションしてるマウンテンバイク。
「やあ」
「うぃー」
今日の靖斗は深い青系だ。
「稲波が僕に何の用なんだろう」
「時間あったら遊んでやったらどうだ?」
「遊ぶのはいいけど、学校では普通にしゃべりかけてきてるから、誘うなら直接言ってくれてもいいんだと思うけどな」
「それについては同感。ま、乙女心ってやつなんスかね? by愛玖」
「斉名?」
俺たちは自転車をベンチの横に立たせて座った。
「ああそうだ雪作、聞いてくれ」
「ん? なんだ?」
ベンチで俺の左に座ってる靖斗は手をひざについてこっちを見てきた。
「……振られたよ。古河原に」
「お、あ、ああ、そうか」
でもすぐに視線が外れた。
「特に接点もなかったしね、仕方ないよ」
靖斗はちょっと笑った。
「つい強がってまた告白するなんて言っちゃったけどさ。うまくいきそうにないよなぁ」
美麗がいつものテンションでばっさり断ってきたら、ダメージもありそうだ。
「雪作は古河原と仲がいいだろ? 古河原にだれか好きな人がいるとか、そんな話は聞いたことないか?」
「うぉ、い、いくら俺が美麗と仲いいからって、あの美麗からそんな話を俺にしてくると思うか? あの美麗だぜ美麗」
「はは、それもそうか。だったら、純粋に僕は恋愛するに値しないっていうことかな」
靖斗は背もたれに深くもたれた。
「はー、結構くるもんだね。自分に自信がなくなってきたよ」
ここはでかい公園なので、主に小学生たちがあちこちで遊んでいるのが見える。この付近はベンチくらいしかないから俺たちだけなんだが。
それからは普通の話をしながら待っていたら、遠くから三人組が歩いてくるのが見えた。愛玖が手を振っているので俺も振り返した。
「まだ他に人がいたのかい?」
「詳細は後で乃々から聞いてくれっ。みんな電話で呼び出され組」
俺と靖斗は三人組を眺めていた。
三人組がやってきて、見るからに乃々が緊張してるのがわかる。
「やあ」
「おー」
「こんにちはっ」
乃々は張り手をしていない。
「稲波が僕に用があるんだって? なにかな」
「じゃ、あたしたちは帰るから」
「か! 帰るな!」
「の、乃々ちゃん頑張って!」
「そんな!」
「じゃ靖斗、またなー」
「雪作ー!」
「もう帰るのか? わかった、またな」
乃々は超うるうる目で俺たちを見つめていたが、俺たちは構わず背を向けて歩き出した。
「さーて、あたしは帰ってアイス食べよ」
「ほ、本当に帰っちゃってよかったのかな?」
「んまぁ背水の陣ってやつにさせるのも悪くないかもな」
「ちょっと心配だけど……でも乃々ちゃんの勇気次第だよね」
「そーそ。じゃあたし帰るー、じゃねー」
「ばいばいっ」
「またなー」
愛玖は手をちょっと上げて帰っていった。
「さてっと。香月はこの後のご予定は?」
「特にないよ。雪作くんは?」
「俺も別に」
香月とは部活やクラスでしゃべってきたが、そういや外で歩くのってあまりないよな。愛玖や乃々とかよりかは多いと思うけどさ。
「あ、ねぇ雪作くん、私たちもアイス食べよっか! ソフトクリームっ」
「お? うし、食べるかっ」
香月の提案によってソフトクリームを食べることが決定。
やってきたのは地域の直売所だ。建物はなかなかのでかさがあって、地元住民たちによる地元住民たちのための直売所っ。野菜や果物が安いと評判らしい。今日もなかなかのお客さんの数がやってきているようだ。
「ここのソフトクリームかー。俺まだ食べたことなかったなー」
「ほんと? おいしいよ~。すいませーん」
「あいいらっしゃいな!」
アイスクリームコーナーで香月が声をかけると、笑顔な野菜たちが描かれた緑色エプロン装備のおばちゃんが現れた。
「雪作くんどれにするー? 私いちごにしようかなー」
なるほど、バニラ・いちご・メロン・チョコ……お!
「じゃ俺マーブルかなっ」
「いちごとマーブルひとつずつー」
「あいよ!」
香月はうきうきしているようだ。
「まいどあり!」
香月はいちごソフトクリームを、俺はマーブルソフトクリームを手に入れた!
「表のイスのところで食べようよ」
「おぅ」
直売所の出入り口近くに多数設置されているイスとテーブル。アイス以外にもすぐ食べられる物がいろいろ売ってるから、ここで食べる人をたまに見かける。
「いーたーだーきーまーすっ」
「いただきまーす」
俺たちはアイスをぱくりした。
「ん~っ、おいしい~」
「おぅ、濃厚だぜっ!」
バニラとチョコのおいしさが口の中に広がっていくぅ~!
「ここのソフトクリーム食べないと夏は終われないよー」
「そんなに好きなのか?」
「うん! 昔からここに通ってるよー。昔は味の種類が少なかったんだよ?」
「へー」
香月は幸せそうにアイスを食べている。
前にある通りを眺めてると、車や人が行き交ってるし、こっちに入ってくる人たちも結構いて、やっぱここ人気なんだなぁと改めて実感。
俺も家族でたまに来ることがある。
「それにしても、乃々ちゃん大丈夫かなぁ」
「なるようになるさっ」
マーブルうま。
「もしだめだったら、乃々ちゃん落ち込むんだろうなぁ」
「その分おっけーだったら喜ぶだろう」
「そ、そうだけどぉ」
香月は両手でいちごソフトのコーン部分を握っている。
「……ゆ、雪作くんはぁ、告白したことないって言ってたけど……」
香月が語り出した。
「す、好きな女の子も、いないの?」
「好きなやつ、か……ピンとこないんだよなー。だからいないんじゃないかな」
「ピンときてないっていうことは……もしかしたら、ピンときてないけど好きな子はいる、なんていうこともあるかもしれないの、かも?」
ピンときてなくても、ねぇ。
「そんなことってあんのか?」
「わ、私もよくわからないけど。でも知らない間に好きになってることってあるでしょ? 例えばこのソフトクリームみたいに」
ふむ。なんとなくわかるような気がする。
「んじゃ香月もだれか好きな人がすでにいるってことか?」
「えええっ!? そ、それはないと思うけどなぁ」
「んだよ自分から言い出しといてよぉ」
「だって、男の子とそんなにしゃべらないし、意識して男の子を見たことも、ないと思うんだけどなぁ……」
なんか俺、香月とこんな話しちまってる。
「俺とめっちゃしゃべってんじゃん」
「ゆ、雪作くんは吹奏楽部だもん。橋上くんとはほとんどしゃべったことないと思うよ?」
「ふーん」
さっきのあいさつは自然な感じだったけどな?
「あ、あはは、なにしゃべってるのかな、私たちっ」
「ほんとほんと……ん!?」
俺はぼさーっと道側を眺めていたら! あの歩き方、あのたたずまい……遠目でも見てわかるぞあのオーラ!
「おい香月っ、あれ美麗じゃね!?」
「えっ?」
たくさんの人や車たちの存在感を消すかのごとくあのオーラの流れ!
「あ、ほんとだ! いこっ!」
「おうっ」
俺と香月は立ち上がり、急いで美麗のところへ向かった。
「美麗ちゃーん!」
香月の声に反応した美麗。こっち向いた。今日は水色のブラウスに水色のスカート。白いカバンを持ってる。
「やあ美麗っ」
「こんにちは」
香月ちょっとぜーぜー。
「はぁはぁ。アイス食べてたら雪作くんが美麗ちゃんを見つけてっ」
「美麗のオーラ半端ないからな」
「そう」
ちょこっと美麗は笑ってる。
「こんなとこでなにしてんだ?」
「塾の帰りよ」
「美麗ちゃん夏休みも忙しそう~」
「美麗は俺たちが見えてないとこでも美麗美麗しているんだな」
「どういうことかしら」
「あぁいや、遠くで歩いてる姿も美麗美麗してたなと思って」
「よくわからないわ」
いつでもどこでもどんなときも美麗は美麗だった。
「美麗ちゃん塾の帰りなら、一緒にソフトクリーム食べない? おいしいよ~」
香月ぱくり。見るからにおいしそうな表情をしている。
「わかったわ」
「おーし美麗もソフトクリームだーっ」
俺たちは再び直売所のところへ戻った。
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