第三話 一学期が終わり燃える夏休みへ ~中編~
問題自体は一学期に習った範囲の復習みたいな感じだが、応用問題が出てくるとTINPUNKANPUN。
ちらっと美麗を見るもいつもの普通美麗。てことは授業やテスト受けてるときも普通美麗なのか。
美麗の花柄鉛筆で書かれていく音が聞こえてくる。うーん俺は今美麗と一緒に宿題をしているのか。
もちろんこんだけ一緒にいてりゃ初めてってわけじゃないが、一年に一回あるかどうかというレベルだ。昔はもうちょっと一緒にしてたかも。
美麗のことなので、楽しいと返してくれるだろうと信じてはいるが、一応……。
「なぁ美麗?」
「なに?」
「俺と一緒に宿題すんの、楽しいか?」
「ええ」
だと思った。
「ほんとに楽しいか?」
「楽しいわ」
んぬー。
「た、楽しいんならさ、もっとこう、ぱーっと楽しい感じを全面アピールしていただいても! ほらほら! たのしぃ~って!」
俺は両腕を上げてにかーっと笑った。
「雪はそういうわたくしを強く望んでいるのかしら?」
「いえ美麗は美麗のままで大丈夫です」
美麗は口元だけちょっぴり笑って、宿題を続けている。
「はい、宿題やります」
俺は再び戦線に復帰した。
(ふぃー、だいぶと進んだな)
一気に半分越えたぞ。まぁ当然のように美麗は俺の先を行っているが。
「美麗ぃ~」
「なに?」
「俺やっぱり宿題なんてつまんねぇよぉ~美麗と遊びたいぃ~」
美麗は鉛筆を置いて顔がこっちを向いた。
「休憩を挟んでもう少し一緒にしないかしら」
「みれいしゃまぁ~」
この鬼~! 悪魔~!
「わたくしの話を聴いてくれるかしら」
「お? なんだ?」
顔だけじゃなく体もこっち向けた。
「わたくしと……一応雪も。早く宿題を終わらせたいのには理由があるの」
「理由? な、なんだ?」
美麗はポットを持って立ち上がった。でもまたこっちを向いた。
「今年は中学校最後の夏休みよね」
「ああ、そうだな」
右手は持ち手のとこを握り、左手は底のところに添えられてある。
「……雪と遊びたいからよ」
というセリフが聞こえたら、美麗は俺の後ろを通って反対側にやってきた。
「お湯を入れてくるわ」
そして髪さらさらさせながらドアに向かい、部屋を出ていった。
(…………出撃するぞ!!)
今の間に少しでも美麗に追いつくぞっ。
……勢いむなしく応用問題に苦戦する俺。くっ、所詮力の差というのは埋められぬものなのか……。
(ちらっ)
美麗の字きれいだなー。と思ったら扉が開く音がしたので、振り返るとポットを持った美麗がこっちにやってきた。
早速俺のカップに注がれて自分のカップにも注いだら、ポットを置いて美麗も座った。
「では早速」
俺はグルメではないので遠慮なくいただくだけだぞ。おぉ、さっきとちょっと違う。甘い匂い? でもやっぱ飲むとすぅ~っとするような。まぁ普段紅茶ってそんなに飲まないからなぁ。嫌いじゃないんだけど。
「レモンとミルクもあるけど」
「遅ぇっ」
いや今回は俺がせっかちだっただけですはいすんません。でも美麗ちょっと笑ってる。
「じゃミルクで」
「これまたミニチュアポットからミルクとぽとぽ。さっきの優雅さがまったく失われていないすてきなスプーンさばきで混ぜられた。
「はい」
「では改めて」
う~んまろやか~。レモンよりミルク派かもしれない。でもレモンも捨てがたい。
美麗も紅茶を飲み始めた。美麗給食の牛乳飲んでるときに横からギャグ言われて噴き出したこととかないんだろうな。俺? あるよ。
「なに?」
「いや別にっ」
やべ、思い出し笑いで紅茶噴いたら美麗にぶしゃぁ~なってまう。
「……明日の午前中は、ひまなのかしら」
「ん? んぐっ。ひま? ぁ俺?」
「ええ」
うん、別に。
「明日の午前中は、別にー。って美麗は明日靖斗と遊ぶんじゃなかったのか?」
「あれはお昼からよ。朝は空いているわ」
「そーゆーことか……ぇ俺?」
「明日の朝は国語をしようと思うのだけれど」
俺はカップを口付近に位置取りながらも美麗をしばらく見た。
「……なぁ美麗……」
「なに?」
「本当に楽しいのか美麗ウッウッ」
「楽しいわ」
ちょこっと笑いながら紅茶を飲む美麗。
「嫌かしら」
「喜んで明日の朝も連戦させていただきます美麗様ウッウッ」
「朝ごはんを食べたら来て。待っているわ」
俺はカップをそっと置いて、そっと自分の鉛筆を握り、静かに次の問題へ取り掛かった。口はぐぬぬぬ口をさせながらっ。それに続いてか美麗も再び取り掛かり始めた。
「終わったわ」
「まじか! 俺残りいちにーさーんよん……」
最後に待ち受けるのは文章問題の城! これを落城させるのはなかなか骨が折れそうだぜ……。
「お菓子を持ってくるわ」
あ、ティーセット全部持ってかれた。まいっか。よく見たらミニチュアレモンとミニチュアミルクは置かれてる。さすがに直で飲めって意味じゃないよな? おっと問題問題っと。
なかなかの攻城戦を繰り広げていたら、美麗が戻ってきた。おぼんゲホゴホトレーが少し大きめのやつに換わっていて、お菓子は一口チョコレートやクリームサンドビスケットとかみたいだ。おっと問題問題っと。
美麗は宿題お片付けモードに入っている。余裕のウィニングランである。おっと問題問題ぐぬぬ。
「もう少しね」
「おぅ」
おっし残り二問。やるっきゃねぇっ。
美麗はイスに座ってこっち見てる。そんなじっくり観察されましても。しかしやるっきゃねぇっ。
「最後ね」
「おっし、応援してけれ」
ついにやってきた最終問題。な、なんだこれは……こんな図形自然界で存在するのか……!?
お、美麗が立ち上がった。またなんか取りにいくんだろうか。
(……んぅ!?)
俺は美麗が俺の後ろを通って再びドアに向かうと思い込んでいたが、美麗が俺の後ろに立ったと思った瞬間、両肩になんか乗ってきた! 思わず両肩を確認。どっちの肩にも超すべすべしてそうなおててが乗ってあった。
「みみみ美麗!? ふぉ~」
驚いたのも束の間、肩に乗せられた手が動くと、俺の肩はへにょへにょにされた。
(これはかの伝説の技、肩もみではないか!)
同級生に肩もみされるとか……てかあの美麗に肩もみされるとか……。
こちょばいような、でもなんかいい感じに力がみなぎってくるというか、これは夢なんスかねと現実逃避しそうになるというか。
「リラックスよ。それが終わったら遊びましょう」
「……ぁ、まさかそれ応援!?」
「ええ。応援になっているかしら」
「超なってる」
うっし、勝ってみせるぜ最終決戦!!
「んぐあふあぁ~終わっだあぁぁぁ~~~…………」
俺は鉛筆を机の上にぽいして机にぐでーっと突っ伏した。
美麗からの肩もみもみが終わったと思ったら、頭にちょんちょん手でなでられて、美麗の攻撃は終了してイスに座った。
(昔は手つないだこともあったっけなー………………あったっけ?)
こぽこぽ音からしてお紅茶タイムに入った模様。でももうちょいぐでーさせてけれ。
「一緒に終われてよかったわ」
「うぇ~」
なんかテストより疲れた気がする。いやそれはさすがに言い過ぎかもしれませんでしたすんまへん。
「またミルクを入れるのかしら」
「おねしゃーす」
俺はゆーっくり体勢を戻した。
「はい」
今までは机の上にさっと出されていたが、今回は美麗が手で持って俺の前に差し出している。ミルクティーが揺れている。
(このまま受け取れってことー……だよな?)
「さんきゅっ」
俺は……ちょっと美麗の指に触れながら、カップを受け取った。美麗はほんのちょこっと笑っていたような気がするが気のせいかもしれない。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます