第九話  漢同士の固い結束

「兄ちゃんそこ持っててくれ!」

「おぅよ」

 俺と一真は俺ん家の庭で夏の思い出作りに励んでいる。

 さすがは古河原家の者ということか、想像以上の出来になってきていると思う。

「うーし、ちょうつがい付けるか」

「きり使うから兄ちゃんまた持っててくれ!」

「おぅよ」

 果たしておじさんはどんくらい驚いてくれるだろうかっ。

「おし! 付けるから兄ちゃん持っててくれ!」

「おぅよ」

「なにを付けるのかしらー?」

「ちょうつがいさ。ようやく形になってきた感じだな!」

「ちょうつがい? ああこれね、はい雪くん」

「さんきゅー紗羽姉ちゃん、でも俺支え係だからちょうつがぁあああーーー!?」

 俺と一真が見上げると、そこには紗羽姉ちゃんがいたあああ!!

「さ、さ、紗羽姉?! な、な、なんでこんなとこにいんだよぉー!!」

「お母さんがたくさんアイスもらったから、よかったら雪くんにって」

 あ、アイス…………。

「……紗羽姉ちゃん?」

「なにかな?」

 めちゃにこにこやな。

「今、何が見えてる?」

「雪くんと一真が工作しているところかな。なにを作っているのかなー?」

 不幸中の幸いとはこのことか!? ちょうつがいを付けるためにバックギャモンボード最大の特徴である中の三角形が見られていない!! 設計図も裏向きで風に飛ばされないよう工具箱で敷かれている!!

「一真、紗羽姉ちゃんを抑えろ! 本体と設計図を倉庫に入れる!」

「よっしゃ! 意地でも紗羽姉を止めてみせる!!」

 おお! 一真のかっこいい構えだ! 空手やってるって言ってたからな!

「え~なによー、いいじゃん見せてくれて……もっ!」

 紗羽姉ちゃんの行く手を阻む一真!

「あいででで!! 姉ちゃんたんまたんま!!」

 だが相手が悪かった。あっちゅーまに腕をめられてしまった。

 しかーし! 身をていして防いでくれたおかげで倉庫に入れて鍵を閉めることができたぜ!

「フッフッフ、悪いな紗羽姉ちゃん。漢と漢には守り通さなきゃならねぇ絆ってもんがあるんだぜ……」

 まさにこれは絆の勝利! 俺は紗羽姉ちゃんに勝利の証である倉庫の鍵を見せつけた。

「絆ねぇ~」

「姉ちゃんいででやめろやめろお~!!」


 紗羽姉ちゃんにぶーぶー顔をされながらも道具を片付けた俺たち。とんだハプニングだったが最悪の事態は回避できたぜ……。

 片付けを終えると、みんなで俺の家の中に入った。

「じゃますんでー」

「じゃますんなら帰ってー」

「はいなーってなんでやねーん!」

 うっわいつぶりだよ紗羽姉ちゃんのツッコミ。

「姉ちゃんそれお父さんの前でやってみたら?」

「嫌よ。雪くん家だから言えるもーん」

 紗羽姉ちゃんはわかってくれるのか、庶民の気持ちが!!

「おじゃましまーす。おじさんとおばさんは?」

「父さんは仕事、母さんは地域会議」

「そっかー」

 何気にこの家の中に入ってる古河原家って、一真が最も多くて次に紗羽姉ちゃん、そして美麗が少ないんじゃないか?

 ……いや、おじさんとおばさんがどんくらい入ってるのかは知らないけど。


 ダイニングテーブルにでーんと置かれた布っぽい感じの手提げ袋。

 この中には発泡スチロールの箱が入っていて、なんと保冷剤入りでカップのアイスクリームを持ってきていた。

「こんないっぱいいいのか?」

 大きさこそ小さめのカップだが、八個くらい入っていた。見たことないアイスだなぁ。

「うん、もっといっぱいもらってきたから、遠慮しないでおじさんおばさんと食べてねっ」

「さんきゅーぅ、じゃ早速チョコ。一緒に食べようぜっ」

「お! じゃオレメロン!」

「いいのー? それじゃあ私はラズベリーにしよーっと」


 スプーン召喚! いただきますをした俺たちはカップを開けた。おーまさにチョコって感じだ。では早速ぱくり。

「うめー! なんだこれ!」

 なんていうか、濃い感じ!

「お、ほんとだうめー!」

「お母さんが友達たくさんいるって知っているお友達さんが、サンプルをみんなに配ってーって。こんなおっきな箱で来たんだからっ」

 紗羽姉ちゃんは図工の時間で使った画板くらいの大きさを、一真けちょんけちょんにした両腕で表現していた。

「さすが古河原家、相変わらず人付き合い広すぎ」

 アイスうま。

「ほんと、お父さんもお母さんも人付き合い多すぎるわ。手伝わされるこっちの身にもなってほしいわよね~」

「そーだそーだ! 学生は遊ぶことが本分だぞ!」

「一真の言うとおりだー!」

「そだそだー!」

 三人いて三人とも『そこは勉強やろ!」というツッコミがなかった。

(この二人が美麗の弟と姉ちゃんなんだぜ……?)

 なんで美麗だけあんな静かなんだっ。

「あ、そうそう雪くん」

「ん?」

 アイスうま。

「この前知らない男の子来てたよ。美麗と同じクラスの背の高い子」

「ああ~靖斗?」

「そうそうその子っ。ちょっとしゃべったけど……美麗が雪くん以外の男の子を呼ぶなんて、珍しかったねー」

「そ、そうなのか?」

 んまぁ美麗から他のだれだれと遊びました情報を普段質問してなかったのは俺だがっ。

「そうよー。よさそうな子だったけど、普段もいい子なの?」

「靖斗はいいやつだぜっ。俺も結構遊んでる。他に平太ってやつと三人で遊んだりしゃべったりしてるけどさ、その中でも頭いいのが靖斗だ」

「ふーん。私は雪くんの方が好きだけどな~」

「どぅわばっ、す、好きとか!」

 やべアイス落としかけた。

「ふふっ、雪くんたらかーわい~」

「に、兄ちゃんで遊ぶなよなっ」

 一真、お前ほんとええやつやな。

「あんらー? 一真はあの智緒葉ちおはちゃんとは仲良くやってんのー?」

「ね、ねーちゃんには関係ねーだろっ!」

「むきになっちゃってー、一真もかわいいわね~」

「なでるな!」

 紗羽姉ちゃんによしよしされてる一真。

「雪くんから見てー、靖斗くんと美麗って、お似合いだと思う?」

「おおおにあっ!?」

 まっすぐ見てくる美麗は怖い。でも紗羽姉ちゃんのまっすぐ見てくる目も怖い。俺視線恐怖症?

「学校の美麗は私よりも雪くんの方が詳しいからー。どう? お似合い?」

「さ、さぁ、よくわかりません」

 一真がメロンアイス食べきった。

「ふーん、ま、いいわ。でも美麗も中学三年生だもの、恋くらいするわよねぇ」

「や、やっぱそうなのか?」

 うぇ、紗羽姉ちゃんが鋭い目つきでにらんできたぞ!

「気になる?」

「ぐっ。き、気に……」

 相手は古河原家の長女だ。美麗相手でも大概勝ち目ないってのに、紗羽姉ちゃんを突破とか無理無理。

「……ならないでもないかな? と、隣の家に住んでるし? 部活一緒だし? し?」

 俺もチョコレートアイス食べきった。

「ふぅ~ん? 気になるんだぁ~」

 なんだその笑みはー!

「でも残念ながら、美麗とそんな話はしたことがないわ。一真はある?」

「あるわけねーだろ!」

 男子二対女子一でもこっち超劣勢。

「あの子わかりやすいこととわかりにくいことが極端なのよねー。まぁそこがあの子のいいところなのかもしれないけど」

 いいと、こ?

「あーあ、美麗もだれかと付き合っちゃうのかなー。それとも一真が先かなー。私が最後なのかなぁ~」

 紗羽姉ちゃんもラズベリーアイス食べきった。腕を上に伸ばして伸びしてる。

「さ、紗羽姉ちゃんって高校三年だろ? そういうの、今までなかったのか?」

 あれ、伸びが止まったと思ったら俺を見てる。

「……雪くん」

「な、なんだ?」

 なんか小指を目元に当てて泣きまねっぽいことをしている。

「雪くんが。ついに。ついにっ。恋バナをしてくれるようになったのねーーー!」

「なんじゃそりゃ!」

 そしてハンカチを取り出し端をかんでいる。美麗じゃ絶対やってくれないリアクション。

「一真はこうやって怒鳴ってくるしぃ、美麗はええそうええそうしか言わないしぃ! お父さんお母さんなんかには純情乙女の気持ちを言えないじゃない? だからずっと雪くんが最後の望みだったのぉ~!」

 ハンカチひらひらさせてる。

「と、友達と恋バナしたらいいんじゃ?」

 ひらひらが続いている。

「……私の友達。付き合ってる子ばっかりなのよ……」

「そ、そうか。ならもっと付き合ったときのこと聴けるんじゃないか?」

 ひらひらが止まった。

「乙女の気持ちをなんだと思ってるの雪くんのばかぁ~! うわ~ん!」

 斜め向かいに座っている女の人が、今度は顔を伏せて泣きまねをしだした。

「なぁ一真。横に座ってる女の人って、だれかな」

「紗羽姉」

 あ、紗羽姉ちゃん起きた。

「私だってね、好きな人くらいいたわっ」

「まじかっ!」

 おお~っ、紗羽姉ちゃんの恋バナっ。

「で? どんな人?」

「同じ陸上部のひとつ上の先輩だったなー。中学一年のときよ」

 紗羽姉ちゃんが語り出した。

「かっこいい人で、賢くって、記録もいい人だったから、陸上部の間でもモテモテ。それでも告白したんだー」

 し、しかし今までの紗羽姉ちゃんのリアクションからして、

「振られちゃったけどね~」

 なんてこったい。

「さ、紗羽姉ちゃんを振るとか、まさかそんななぁ」

「はぁ。なーんか中学二年生になった辺りから私も告白されるようになってきちゃったけど、燃えるような恋心みたいなのはならなかったわっ」

 もえるようなこいごころ……。

「でも中一のときの中二の先輩なら、またしばらくしてリベンジするとかは?」

 そこでため息をついた紗羽姉ちゃん。

「転校したのよ、その子」

「なんとっ」

「ま、その話を聞いたときは、もう転校するのがわかっていたから私のことを振ったのかな~なんて思って自分を納得させているけどね」

 転校かー。

「紗羽姉ちゃんにそんなことがあったなんてな」

「静かにお部屋で泣いたわ。静かにね」

「姉ちゃん泣いたのか?」

「泣いたわよっ。女の涙は重いんだから、一真は智緒葉ちゃん泣かせちゃだめよっ」

「だから関係ねーだろ!」

 一真が久しぶりにしゃべったと思ったらこれだもんな。

「雪くんは優しいから、女の子を泣かせるなんてないわよねー」

「し、知らねえっ」

 紗羽姉ちゃんはちょっと笑ってた。


 紗羽姉ちゃんはこの後習い事があるとのことで、るんるんで湖原家を出ていった。習い事あんのにるんるんなのか?

 俺と一真は紗羽姉ちゃんが古河原家の敷地に入っていくまで見張っていたが、るんるん度が落ちることなく古河原家に入っていった。

 それを見届けた俺たちは、さっきの工作の続きに取りかかることにした。

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