第六話  漢同士の語り合いっ……とお姉さん

「よし、僕の勝ちだなっ」

「だー負けたぁー!」

「くっ、俺の力では崩せなかったか……!」

 今日は靖斗の家で平太が持ってきたややでかめのドミノで遊んでた。

 なんで平太の持ってるドミノをわざわざ靖斗の家でするかって? エアコンがあるからさっ。俺の部屋にもあるけど靖斗の部屋の方が広いし他にも遊べるやつあるしな。

「靖斗~、入っていいかしらー」

「いいよ」

 ノックが鳴ったと思ったら靖斗の姉ちゃんである橋上はしうえ 栄果えいか姉さんの登場だ。みっつ上の高校三年生。そう、紗羽姉ちゃんの中学時代までの同級生である。高校は別のところに行ったらしい。

 中学のときにソフトボール部に入って高校も続けているらしい。今年の大会はどうなったんだろう。

 靖斗ときょうだいということか、女子の平均より高い身長を持っているので、やっぱり俺より高い。平太と同じくらいかな。

 髪は肩にかかるかどうかくらい。今日の装備は白Tシャツにピンク半ズボン。

「いらっしゃーい二人とも~」

「うぃーっす」

「どーもー」

 俺と平太はぺこり。

「どうしたの?」

「ひまだからあたしも混ぜて~」

「お! いっちょやりますか~!」

 栄果姉さんがずいずいっと俺たちのドミノの輪に入ってきた。靖斗は特になにも言っていない。

 たまーに俺たちが遊んでいるとこうして栄果姉さんが入ってくることはあるが、ほんとのごくたまーにである。それでも俺たちが小学生のときから入ってきてたので慣れてはいるが。


「あなたたちってもう中学三年だよねー」

「そうだな! おっし二点もらいっ」

 平太が1・2の駒を置いた。ドミノのゲーム、カンテットが展開されている。靖斗・俺・平太・栄果姉さんの時計回り。

 ちっちゃいポーカーチップが置かれてあるところから平太が黄色二枚を取った。

「どう? 恋とかしてるー?」

 栄果姉さんが次出す駒を考えながらそんなことを言い出した。

「お、お姉ちゃんそんなこと聞きにきたの?」

「だって中学最後の夏よー? 友情深めて男同士で遊ぶのもいいけどっ」

 2・2の駒が垂直に置かれた。

「恋してなんぼってもんでしょ!」

 靖斗は複雑な表情をしながら考えている。

「姉ちゃんの言うとおりだよな! どーなんだ靖斗ぉー、古河原とうまくいってんのかー?」

「う、うるさいっ」

 2・5の駒が置かれて靖斗は三点げっちゅ。

「あらあら靖斗ぉ、あんたまだ告白してなかったの? 美麗ちゃん美麗ちゃんって言い出して何年経つのよ」

「僕はそんなこと言ってない、平太が勝手にそう言ってるだけだっ」 

「でも美麗ちゃんのこと好きなんでしょー?」

 靖斗がぐぬぬ顔をしている間に俺は3・6の駒を置いた。

「おっしゃ悪いな雪作! 2・4で四点だぜ!」

 ぐはっ。

「あたしも1・6で三点っと」

 ぐほあっ。


 結局さっきの戦闘は、平太一位、靖斗二位、栄果姉さん三位、俺べべたこだった。

「もう最後の夏なんだからさー、思い切って告白しなよー」

 戦闘終了後もこの話題は続いている。

「僕はまだそこまでは……」

「はぁ、だめだこりゃ。雪作くんは美麗ちゃんと仲いいんでしょ? 靖斗のことなんか聞いてる?」

「この前ショッピングセンターで文房具買ったとか、映画館行ったとかなら聞いた」

「お~デートじゃん! 靖斗やるぅ~!」

「デ、デートってそんな言い方っ」

「デートじゃん。告白しなかったの?」

「そんな急にできるわけないじゃないかっ」

 うわー栄果姉さんの容赦ない乱打。

「ねぇ平太くん。美麗ちゃんってモテる?」

「そりゃもう! 全校生徒で古河原のこと知らないやつなんていねーんじゃねーかー!?」

「そうよねぇ、紗羽ちゃんの妹さんだもんー」

 栄果姉さんは伸びをしている。

「紗羽姉ちゃんも人気だったとか?」

「人気だったよー? あたしも女子の中では大きい方だけどそのあたしより大きいのにすらっとしててさー。陸上部で運動神経いいのにテストの点数もよかったし、学校紹介のパンフレットのモデルにも選ばれるくらいだから先生たちからも人気あったんじゃない?」

 美麗とはまた違った紗羽姉ちゃんだった。俺としゃべってるときは栄果姉さんとあんまり変わらないしゃべり方に見えるのに。

「その紗羽ちゃんから、美麗ちゃんの面倒をよく見てあげてるって雪作くんのこと褒めてたから、雪作くんってすごい人なのかもね~?」

「んなことないない」

 そんな目で見られましてもっ。

「姉ちゃんもソフトでバリバリなんだろ!? 姉ちゃんもやるって!」

「ありがとぉ平太くーん、でも最後の試合負けちった」

 もう負けていたのか。この橋上家の身長を持ってしても……。

「げ、元気出せ出せ! 高校卒業しても続けんのか?」

「どーしよっかなー。まだ終わったばっかで考えらんないや」

 栄果姉さんはさっきと変わらない笑顔のままだ。

「てかあたしのことより靖斗のことよ靖斗のことっ。どうすんのさ、早く告白しないとだれかに取られちゃうよー?」

「別に、そうなったらそうなったで……」

「はぁ~。あんたあたしより頭いいくせに、そーゆーとこはとろいわねぇ」

 栄果姉さん頭悪いのかっ? いや靖斗は俺ら三人の中で確実に最も頭いいけど。

「てゆーかー、面倒見のいい雪作くんに勝てるのかしらー?」

「お俺っ?」

 なんかここで俺の名前が飛び出た。

「家も隣で面倒見がいい雪作くんに比べて、最近やっとデートできた靖斗じゃあ……ねぇ?」

 ある意味栄果姉さんが俺の姉さんじゃなくてよかったというかなんというか。

「平太くん、ご意見どうぞっ」

「そうだぜ靖斗ぉ! 漢見せろよ! 高校別になったらますます他のやつに取られるぞ!」

 平太はいつものテンションだった。

「……雪作、確認していいかい?」

「ん? なんだ?」

 ずっと防戦一方だった靖斗が俺に声をかけてきた。

「雪作はさ……僕が、古河原に、告白しても……いいかい?」

 俺を見てきながらそんな言葉が飛んできた。

(靖斗が美麗に告白……もしそれを美麗が受けたら、美麗は靖斗と付き合う、か……)

「お、俺に確認を求められても……」

 美麗と付き合う……? 美麗がだれかと付き合う……。付き合う、かぁ……。

(美麗ねぇ……)

「一応聞いておきたくて。はっきり言ってくれると、僕も踏ん切りがつけるかもしれない」

 俺への確認なんかで踏ん切りがつくってことなら、そんなの喜んで答えを言うけどさ……。

(たしか美麗も付き合うっていうことに多少は興味があるとかなんとか言っていたな。靖斗と付き合ったら、美麗は……俺といるより楽しいのかな)

 俺といるより、付き合ってる相手といる方が……?

「え、栄果姉さんってさ、だれかと付き合ったことある?」

「あたし? あるよー」

 さらっと言ったなおい!

「まじで! どんな感じだった?」

「楽しかったよー。手紙交換したりー、休みの日にデートしたりー、電話したりー。毎日うきうきだったなー」

「だったってことは、別れた?」

「うん。中三から付き合って、高一で。他に好きな子できたんだって。あたしも高校別々になってからデートとか減ってさみしかったし」

 わ、別れた、か。

「でもそれはしょうがないよ。友達だって小中仲良くても高校で離れたらあんまり遊ばなくなった子とかいるもんだし。別れちゃったら次の恋すればいいだけっ。別れた後のこと心配するよりも、まずは目の前にある恋に全力でいかなきゃ!」

 なんだかこれは貴重な話な気がする。美麗も紗羽姉ちゃんもこんな話しないし。

「そ、そういうものなのか」

「うんうん!」

 参考になりました。

「……それで、雪作。どうなのかな」

「ああっとそうだったな」

 付き合うっていうのがどんな話かを聞いたうえでっ。

「俺が靖斗の告白を止めるようなことはしない」

 という言葉にまとまった。

「そ、そうかっ。雪作がそう言うのなら……」

 お、靖斗に握り拳が作られた。

「おお~覚悟決めたぁ!? よぉーっし今からお姉ちゃんと電話しにいこー!」

「え? あ、ちょっとお姉ちゃんっ!?」

 靖斗は栄果姉さんに無理やり立ち上がらせれて、ドアを開けた。

「二人も証人になってよー! おいでおいでっ」

「お! いくぜいくぜー!」

 栄果お姉さんからそんなことを言われたので、俺たちも立ち上がって一緒に部屋を出た。


「ちょっと急すぎじゃ? 僕はそんなに急がなくても」

「むしろ遅すぎ。はいスピーカーオン! ほら!」

 薄い水色の電話機は栄果お姉さんの操作によって、呼び出し音が、つまり受話器に流れている音声が俺たちにも聞こえている状態になった。受話器は靖斗に押し付けられた。もう古河原家に電話をかけた状態になっているということだ。

「はい、古河原でございます」

 うぉ、出たのおばさんだ。

「あ、も、もしもし!」

「はい」

 靖斗超緊張してる。

「ぼ、僕は古河原、あえっと美麗さんの同級生の橋上靖斗って言います! 美麗さんはいますか!?」

 いつもより声のトーンが少し上がっていた。

「少々お待ちください」

「はい!」

 オルゴールの音色が聴こえてきた。このオルゴールは本物で、電話台のところに一体型で備わっている物。受話器を置くと鳴り、上げると止まる。

 俺たち四人はじっと立っていた。

(古河原家でけぇからな。美麗呼ぶのも少し時間かかるだろう)


 あ、オルゴール止まった。

「お電話代わりました」

 お、美麗の声が聞こえてきた。スピーカーから聞こえてくるってのも新鮮……かと思いきや放送でめっちゃ聞いてた。

「古河原かっ」

「ええ」

 もう何万回聞いたかな、このええ。

「えっと、あ、橋上靖斗だ、ぞ」

「ええ」

 靖斗べらぼーに緊張しまくり。

「前言ってたかな。今度遊びたいって思って……さ」

「そう」

 ほんと美麗相変わらずだな。

「次空いてる日って、いつ?」

「ちょっと待って」

「わかった」

 美麗はカレンダーをチェックしていると予想。

「明日の二時くらいからはどうかしら」

「あ明日!?」

 靖斗が驚くも栄果姉さんが靖斗の背中をぽんぽんした。

「都合悪いかしら」

「いや全然! じゃあ明日の二時! どこに行けばいいかな?」

「どこでも構わないわ」

 なんかこのセリフの美麗がかっこよく見えた。

「そうかっ。どこがいいかな……」

 靖斗は栄果姉さんをちら見してる。栄果姉さんは電話台に置いてあったメモ帳に赤ペンで急いで文字を書き始めた。

「ええーっ?! あっ」

 靖斗が思わず声をあげてしまった文字列は『さわんち』だった。つまり古河原家に行けと言っているのだっ。

 靖斗の声が響いたのにも関わらず美麗はしーん。さすがの貫禄である。

「で、でもさぁ」

 栄果姉さんはぱんぱん手でメモをたたいている。無言の圧力。

 靖斗は渋々顔。

「……古河原の家、見てみたい、かな」

「わかったわ」

 さすがの美麗。一瞬の返事。

「い、いいのか?!」

「ええ」

 また栄果姉さんが靖斗の背中をぽんぽんしている。

「場所はわかるのかしら」

「雪作の家の隣だからわかる」

「じゃあ、明日の二時に待っているわ」

「わ、わかった」

 こうして靖斗は明日美麗と遊ぶことが……というか、告白することが、決まった……?

「他になにかあるかしら」

「こ、これだけだよ」

「わかったわ」

「それじゃ、明日……」

 ここで靖斗は受話器をゆっくり置いた。美麗からの音声も終了した。

「やったわね靖斗! 明日絶対告白してくんのよ!」

「わ、わかったからわかったから」

 靖斗の背中がぽんぽんたたかれまくってる。

「そーかいよいよか靖斗ぉー!」

 平太もぽんぽんに参加してしまっている。

 今まで美麗は告白を断りまくってきてるみたいだけど、同級生からの話ってのは聞いたことがない気がする。

(とすると、もしかして今回は、ひょっとして……)

 靖斗はちょっとほっとしているような顔をしているようにも見えたような。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る