第五話  この夏この海に古河原美麗あり! ~前編~

「んん~っ! 着いた~!」

 肩も出てる黄色いワンピースに麦わら帽子装備の紗羽姉ちゃんが真っ先に車から降りてめっちゃ伸びしてる。俺より身長高いから大迫力。

「兄ちゃんクーラーボックス頼んだ!」

「任せろっ」

 青と水色が混じった丸首半そで装備一真と一緒に車を降りた。

(やってまいりました、海!)

 この匂いこの音このにぎわい! やっぱ海ってのはいいもんだぜー!

作次郎さくじろう、テーブルは僕たちが持とう」

「任せろい!」

「私はパラソル持つわっ」

 美麗の父さんである古河原こがわら 誠吾せいごさんは襟の付いた長そでの茶色いシャツ装備、俺の父さんである湖原こはら 作次郎さくじろうは丸首半そでオレンジ色シャツ装備、俺の母さんである湖原こはら 波子なみこは灰色の半そでブラウス装備。そんな三人が車を降りた。さすが美麗パパの車、八人乗りは伊達じゃないぜっ。

弓子ゆみこはここの留守番を頼めるかい?」

「ええ」

 美麗の母さんである古河原こがわら 弓子ゆみこさんは紫色の長そでブラウス装備。車でお留守番の模様。

「美麗はついてきてテーブルの留守番を頼むよ」

「わかったわ」

 そして美麗も車を降りてきた。今日はピンクに花柄が入った半そでワンピースだ。紗羽姉ちゃんより少し小さい麦わら帽子も装備。

「おじさん張り切ってんな」

「そうね」

 海効果なのか美麗はちょっと笑ってる。

「兄ちゃん行くぞ!」

「おぅっ」

 拠点設置兼物資輸送隊である男子勢は太陽の光を浴びながら砂交じりの大地を踏みしめた。


「じゃじゃーん! どう雪くん、似合う?」

 俺が水色水着装備になって更衣室の前で待機していたら、黄色い水着に麦わら帽子装備の紗羽姉ちゃんが現れたっ。前はつながってるけど背中は開いているデザインらしい。美麗よりは少し短い髪だけど、それは上げてくくられている。泳ぐ気まんまんである。

「紗羽姉ちゃんらしくて似合ってる!」

「ほんと? ありがとー! 美麗はいつも反応薄いし一真はいつも『それより遊ぼうぜ!』だしで、そんなこと言ってくれるの雪くんだけだからうれしい~」

 あーうん、その光景すっげー浮かぶわ。

「紗羽姉行こうぜ! さっき紗羽姉がサービスエリアで買ってたせんべい食べてー!」

「はいはい。じゃあ雪くん美麗のことお願いね」

「あいあいさ」

 黄緑色水着装備一真が紗羽姉ちゃんと拠点へ向かったようだ。ということで俺は引き続き待機。

 紗羽姉ちゃんも一真もはっちゃけてるけど、連れてってもらったパーティの席での本気な立ち振る舞いはやっぱ別世界の人間なんだと思い知らされたなぁ。美麗の本気度? 言わずもがな。

 ここは毎年湖原家古河原家合同で来ている海水浴場。車で一時間以上かかるが、人は多すぎず少なすぎずでも海の家もなかなかのにぎわいを見せているいいところ。焼きとうもろこしのにおい反則。

 今日はとてもいい天気で絶好の海水浴日和! 美麗ママもにっこり。まぁおばさんいつもにっこりしてるけど。

 なんでこう、しょうゆが焦げたにおいってあんな反則級の強さ持ってんだろう。にしても美麗は何を食べてても優雅になるんだが、優雅じゃなく食べるしかない食べ物って一体何があるんだろう。ラーメンですら優雅だしな。

(てかまさに焼きとうもろこしとか握って食べるしかないんだから、ワイルド美麗を見ることできるんじゃ!?)

 とかなんとか想像しながら待機していた。いろんな海水浴客が楽しげな表情で行き交っている。

「雪」

「お? おぅっ」

 夏ばっちりなのに雪と呼ばれて振り返ると、

(今年もこの季節がやってきたぜ……)

 白に花柄水着+麦わら帽子装備+花のゴム? で髪ひとつにくくって前に出している美麗が現れたっ。

(あーっと、さっきの紗羽姉ちゃんとのやり取りを思い返すとっ)

「美麗らしくて似合ってるぜ!」

 俺はこれでもかってくらい口をにかっとさせ、親指を立てて突き出した。

「ありがとう」

 うん、わかってた、その寸分狂いのない毎度おなじみのトーンで返ってくること。

「さっき紗羽姉ちゃんからハイトーンでうれしいと言われたのに、美麗ときたらいつものトーン……」

「お礼は言ったわ」

「せやな……」

「荷物を置いて泳ぎにいきましょう」

「せやな…………」

 やっぱり海効果なのか、表情は明るく見えてるけど。


「兄ちゃんいかだまで競争するぞ!」

「この俺に勝負を挑むとは。臨むところだ!」

 今年もこの対決の日がやってきたな。今日も体調は万全だ。今の俺の力なら……勝てる!

「位置について~」

(神経を研ぎ澄ませ……)

「よ~い」

(己の力の限界を超えよ……!)

「二人とも準備体操したー?」

「どがしゃんっ!」

 母さんそのタイミングはねぇっすよ……。


 俺たちは家族全員そろって学校オリジナルの体操をしっかりした。おばさんが大きく体を動かしてるシーンはレア。

 準備体操を終えた俺と一真は沖に浮かぶ飛び込みとかができるいかだに向かって競争が行われた。毎年恒例。これをしなきゃ夏が来たって感じがしないぜっ。

 砂浜ダッシュは俺がややリードしたが、海に入るとあっさり抜かれてしまい、今年も負けてしまった。毎年恒例ウッウッ。

 たとえ相手は小学生っつってもスイミングスクールに通ってるやつなんかに勝てるかいなっ!! ったく勝ち誇った顔しやがってこんちきしょっ。

 ということでゆらゆら波に揺れる大きないかだの上で俺と一真は拠点方面を眺めてのんびりしていた。こっからだと超ちっちぇ。でもテーブル置いてあるしイスめっちゃ置いてあるしパラソルでかいからよくわかる。

 いかだには俺と一真以外にも男性一般ピーポーが三人乗っている。あ、こっちに向かって泳いできてるのは紗羽姉ちゃんかな? う~んやはり古河原家、優雅なクロールである。そういや三きょうだいのうち美麗だけがスイミング行ってないんだっけ。なんでだろ。

 優雅に鉄のはしごを上ってきて優雅に髪を整えているのはやっぱり紗羽姉ちゃんだった。一般ピーポー三人が注目している。俺も注目してることになるのか? 一真はいかだの板の透き間から海をのぞいている。見てるだけで酔いそう。

「お、お姉さんすいません! きれいなフォームでしたね!」

「そう? ありがとう」

(お~俺からしたら珍しいよそ行き紗羽姉ちゃんだ)

「水泳部っスか? オレ水泳部なんスよ!」

 深緑色と緑色が混ざった水着装備の一般ピーポーが紗羽姉ちゃんと立ってしゃべってる。

「私は水泳部じゃないわ」

(お~っと紗羽姉ちゃんが超本気モードだったらわたくし呼びになるから、まだこれは力を温存してるな? あれ、じゃあ美麗は常に全力全開?)

「えーあんなにきれいだったから水泳部かと思ったよー」

「な、よかったらオレたちとしゃべんない? なんかの縁だと思ってさ!」

 黒水着装備の別の一般ピーポーも立ち上がってしゃべり始めた。

「どうしようかしら……」

(なんでそこで俺ちら見してんだよ)

 んーと、俺が今取るべきジェスチャーは……。

(一真・たぶんまだ・いかだいる・俺・美麗んとこ・行く・任せろ)

 紗羽姉ちゃんはウィンクした。

「なーちょっとくらいいいじゃんかよー」

「そうね……わかったわ、お話しましょう」

「よっしゃ~!」

 紗羽姉ちゃんは一般ピーポー三人の輪に向かっていった。

 ん? 男三人に囲まれて大丈夫なのかって? あー大丈夫なんじゃないかな、合気道と居合道やってるから。ちなみに一真は空手。美麗は継続している武道はないんだけれども、護身術の講座を受けたことがあると言ってたな。そしてみんなから武道の話を聴くから知識は少し持っているとも言ってた。なんとも美麗らしい。

 俺? 三人が護ってくれるんならなんも習ってなくてもいいんじゃないかな……。

 ちなみにおじさんは昔少し剣道をやっていたらしく、おばさんは弓道を今でもやってる。いやみんなやってるやってるって聞いてるけど、実際の場面はまだ見たことないんじゃないかな。そういや紗羽姉ちゃんから、母方のおばあちゃんは太極拳をやってるって聞いたなあ。なんか響きかっこいいよな、太極拳。

 あ、おじさんと俺の父さんは剣道仲間でもある。本人によると半年に一回くらい剣道で遊んでるらしい。遊ぶって言っちゃってるよおい。

 なおこの武道話で盛り上がったときの母さんの決まり文句が『バトン回しなら負けないわよ!』……チアリーディング経験者であった。

 念には念を……俺は紗羽姉ちゃんに力こぶを見せるジェスチャーをした。

 お、おぅ、非常に力強い力こぶを一瞬見せて、一般ピーポーたちの輪に入っていった。

「一真、俺一足先に帰って美麗見てくるから、いかだに来た紗羽姉ちゃんと一緒に帰ってくるんだぞ」

「おっけー」

(よくそんだけ見てて酔わねぇなおい)

 うし、飛び込みっ! ぐぇ腹痛ぇ。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る