第四話 ちょっと昨日のこと聞いてみよかな
昨日は午前中からおとといのように美麗勉強机で国語の漢字プリントと戦った。美麗効果があってかクリアすることができた。紅茶飲みまくった。
美麗はその後靖斗と遊ぶために出かけていった。俺はおうちに帰って……ちょっとだけ作文の宿題やった。強敵すぎたのですぐ投げた。
そして今日。夏休みなのに部活に行かなければならないこの休みじゃない日も、もちろん美麗と一緒に登校。
いつもよりはにぎわい度が低い校舎だが、美麗は粛々と部活ライフを送っていた。
「雪作くん、ばいばい」
「じゃなー」
香月は帰っていった。なんか急いでるっぽく見えたが、はて。
「じゃーなぁ~~~!」
「じゃなー」
津山も帰っていった。あいつは通常運行だな。
俺は音楽室の前の廊下で美麗を待っている。
お、来た来た。
「帰りましょう」
「おぅ」
そして今日も美麗と一緒に帰る。
「そーいやさ美麗」
「なに?」
暑い夏休みが始まったというのに反応は相変わらず美麗だなぁ。
「昨日は靖斗と遊びにいったんだよな。どうだった?」
「楽しかったわ」
「へー。ショッピングセンターと横っちょにある映画館だっけ?」
「そうよ」
そこもうちょっと楽しさ爆発で言ってあげないと、靖斗が少しかわいそうというかなんというか。
「どんな物買ったんだ?」
「文房具よ。ノートと消しゴムとフェルトペン」
「ふーん」
俺のフェルトペンもチェックしとかなきゃな。
「映画はどんなのを観たんだ?」
「ミステリーを題材にしたアニメの映画だったわ」
「……美麗の口からアニメっていう単語が出てくるなんてな」
「わたくしでも少しは知っているわ。演奏しているもの」
たぶん、観た時間よりも演奏した時間の方が長いと思われる美麗のアニメ事情。
「それで、おもしろかったのか?」
「ええ、楽しめたわ」
「これを機にあの美麗部屋にテレビ置いてアニメざんまい!?」
「そこまでしなくていいわ」
「……アニメを……拒否した……だと……!?」
美麗は本当に同い年なのか……? なにかの手違いで異世界からやってきたとか……。
「マンガなら少しは知っているわ。年賀状に描いているでしょう」
「それはそうだな。でも美麗の部屋にマンガはなかったぞ?」
「お姉ちゃんのお部屋にはあるわ。それをたまに借りるけど、今は借りていなかっただけよ」
「まじかよっ」
確かに紗羽姉ちゃんや一真とはアニメやマンガの話をほんの少しはしたことがある。しかし美麗から全然そんな話題が出ないので古河原家では買ってはいけないものと思っていたが、しっかり自分で持っていたとは……。
「ちなみに一真は?」
「知らないわ」
「あらそ。てことは……美麗は自分のマンガって一冊も持っていないっていうこと……か?」
「そうなるわね」
おいおいおい……中学三年で自分のマンガ持ってないやつって、探す方が難しいんじゃ……?
「紗羽姉ちゃんが持ってるってことはさ、別に買ってもいいってことだよな?」
「特に禁止はされていないわ」
「んじゃそれ昨日買ってくりゃよかったんじゃね!?」
「マンガを買うお話にはならなかったわ」
「そ、それでもよぉ、本屋さん見て『うっわマンガ買いてぇ~~~!!』ってならないか?」
「ならなかったわ」
「oh」
俺はおでこに手を当てた。
「美麗……楽しいことしたくなったら俺を誘うんだぞ……自分のマンガ手に入れたくなったら俺を誘うんだぞ……」
「わかったわ」
結局ずーっと美麗は美麗だった。
「他には? なんか靖斗としたか?」
「ゲームセンターでダーツをしたわ」
「まさかのダーツっ」
まぁゲームセンターのラインナップの中ではまだ美麗に似合う方かな。
「勝負は」
「すべて負けたわ」
「美麗。泣きたいときは泣いていいんだぞ」
「雪がそう言うのなら、わかったわ」
あの、これ、今泣きまねをしろっていう振りなんスけど? あ、はい、美麗ですよね。
「他は?」
「あとは駅前のコーヒーショップで一緒にコーヒーを買って、それを飲みながら帰ったくらいかしら」
「めっちゃおしゃれやん」
つい関西弁出てもうたやん。
「うま?」
「おいしかったわ」
と、昨日美麗はこんな感じだったらしい。
「で、次遊ぶ約束とかは?」
「次の土曜日を誘われたけど、断ったわ」
「ああ、大会だからな」
「ええ。また電話をすると言われたわ」
「そっか。てことは夏休みの間に靖斗とまだまだ遊ぶって感じか」
「そうかもしれないわね」
もしこのまま靖斗が押し通して、告白! なんて流れになったら……?
(果たして美麗の答えやいかに……!)
「雪」
「んぉなんだ?」
「少し急かもしれないけど、大会の次の日の日曜日、みんなで海に行くのはどうかしら」
うぉぉーーー!! 今年もこの季節がやってきたぜーーー!!
「おっしゃ! 早速父さん母さんにも伝えるぜ!」
「お願いするわ」
美麗の髪はいつまでもさらっさらだった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます