第13章、天使と大決戦編

第282話、魔王、身包みを失う

 エンダール神殿上層を超え、四枚羽の第二天使が本殿へ飛んだ。降り立つ様に気付いた者は少ない。けれど数名は、本殿へ降り立ってすぐに、羽化にも思える変貌の一部始終を見ていた。


 「…………——————』


 老人の脊柱線に沿って割れ目が生まれ、人の皮を破り捨てて天使が現れる。


『…………』


 ろうのように光沢ある白い滑らかな外見。丸みを帯びた頭と丸い目の口。中身は空洞なのか薄黒く、脚のない下半身は台座のようであった。


 古代の像にも見える作り物めいた生物が、四枚羽を広げる。


 真っ白な羽毛を四枚、堂々と白昼の元に晒す。


 ベネディクトを追って駆け付けた最高司教の親衛隊もまた、当然ながらその姿を見るのは初だ。明確に別種で、明瞭に別物を初めて見る。


「っ……!? アレが、本来のベネディクト様っ……」

「素晴らしい……」


 本来ならば、拒絶反応が生まれただろう。


 実際にも、まだ信仰を理解し切れていない子供や調理する部外者のコックは、天使の受け入れ難い風貌を受けて、恐怖心から絶句していた。化け物を見る目でアークマンを見上げている。


 だが親衛隊は、ベネディクトの〈聖域〉による作用で、老人の際から親愛感を潤沢に抱えていた。だからこそ、その怪異な姿を見ても受け入れられた。


『……始めましょう』


 本殿前で指のない手を合わせ、祈りを開始する。


 〈聖域〉は神殿そのものを、〈寝所〉へ改変を始める。建物の形は変えずして、白く染めていく。素朴ながら立派な本殿が、存在そのものを変えていく。


 完成までは十分もかからない。あとは〈寝所〉内で、もう一度〈聖域〉を行使するのみ。


 天女再誕まで、あと一歩にまで至った。




 ………


 ……


 …




 その少し前……。



 ♢♢♢



 ……オズワルドの元気が良過ぎてビックリ。一人で運動会の続きをやっている。


 カゲハが脅かすものだから、慌てて厨房の屋根から確認するも、ハクトよりも大覚醒して大暴れしていた。


 ジェラルドに引っ付いていた奴とタッグを組んでいるのかな? 色合いが似ている。右側の建物や木々が邪魔で何をしているのかよく見えないが、心配は要らないだろう。


「ピュイっ!」

「おっと! 危ない危ない、そうだったね」


 口をトンカツの油でテッカテカにしたヒューイからお叱りを受け、お母さん竜の捜索を続行する。


 頭の上のヒューイを抱き下ろし、ハンカチで口を拭いてから再出発。


「っ〜〜〜〜〜!」

「よし、綺麗になった。預かっている子の口をテカテカにしたままだったら、魔王の名がすたるからね」


 竜の尾で往復ビンタされながらも、しっかりと身綺麗にして屋根から飛び降りる。


「……ピュっ!? ピっピピピピっ!」

 

 お返しにコチョコチョとくすぐってから、向かうは最前線だ。先輩コックからの情報で、下層の地下にいるのではとの事なので、半信半疑で向かってみる。


「そこの料理できてるんで、皆さんで召し上がってくださ〜い!」

「はっ? 何を言って——」


 引き留められる前に退散する。開いている入り口から先輩コックへ声をかけ、一方的に会話を終了した。


 ヒューイの燃料補給を終え、調理師の服とコック帽を戻して前線へと大ジャンプ。


「ピュ〜〜っ!」

「爽快だぜ! 神殿大冒険の始まりだ!」


 真面目な大決戦の最中でごめんなさいだが、俺は俺でやる事がある。


 人力スカイダイビング(パラシュート無し)。つまりはただの落下。こういう楽しげな娯楽には、こっちが微笑ましいくらいの好反応を見せるヒューイ。彼等親子の安全を一刻も早く確保しなければ。


 下層の階段上に舞い降りた俺は、忙しなく行き交うエンゼ教徒の人に訊ねた。祭服を着た残業感のある男性だ。


「すみませ〜ん! 責任者の方はどなたですか?」

「あぁんっ!?」


 何かが入った樽を運ぶ大人の人に丁寧に訊ねるも、語調も荒々しく返される。


「責任者の人です。偉い人からっ! 竜が何処にいるのか聞いて来いって言われたんですけど。知ってるならあなたでもいいです」

「知らんッ!! そのうち戻って来るんじゃないのかっ? そんな暇があるなら、今はさっさとやる事を……やれっ!」


 樽を渡されてしまう。結構、重い。何が入っているのかは分からない。


 花火大会を思い出す懐かしい匂い。今日は俺の感情を揺さぶる日なのかな?


「それを持って右の階段半ばにある、あの〜……樽! 樽の山に置いて来いっ! 一気にやっちまうぞ!」

「わ、分かりました……」


 責任者を聞かないとする事もないし、男の人の言う通りに階段を駆け降りて、他の人達と同様に樽を積み上げる。


「——っ、っ……!!」

「ッ……! ッ————!?」


 ちょっと下にあるバリケードは、今にもジークやネムによって破壊されそうになっている。ガンガンにあのゴーレムの金属弾が発射されて、騎士団の勇猛果敢な進撃は止まらない。


 よしよし、順調に攻め込んでいるな? 手を貸してあげたいところだけど、俺は忙しいので失礼させてもらう。


「ひひっ、傭兵崩れが! これでぶっ殺してやるぜ!」

「……これって何なんです?」


 眼を血走らせてテンションがおかしくなっている男の人に、樽の正体を興味本位で訊いてみた。


「これか? …………まぁ、気にすんなよ。それよりいいか? あの下から登って来る奴等がいるだろ? アイツらがここに来たら、この樽に火を付けるんだ」

「俺が?」

「そうだ。ヒヒッ、お前がやるんだよ」


 顔面一センチの近さで、火打ち石を握らされる。瞳孔開きオジサンはしっかりと言い含めてから、階段を上がろうと足先を向けた。


 俺も馬鹿ではない。ジトっとした眼で見送りながら、嫌な大人を目の当たりにする。


「そうすりゃ、みんなに褒めてもらえ————」

「ピュクシっ!」


 俺の髪が鼻をくすぐったのか、ヒューイがクシャミをした。例の炎混じりにほんの少しだけ、カウボーイハットから火種がポロリと落ちた。


 炎は樽から溢れていた黒い粉に触れる。


 ————大爆発。


 かもな、とは思っていたが、まさかほぼ無関係な俺に降り掛かるとは……。


 でもいいさ。俺を捨て駒にしようとした男の人も巻き込めたなら本望だ。ヒューイだけは手を翳して爆風から護っておく。


「————……」


 本日は何かと縁のある爆炎に呑まれ、煙が晴れたならば男の人の姿は無く、俺もヒューイもほぼ全裸で立っていた。


 どうやら樽の中身は火薬だったらしい。そりゃそうかって答えだった。尚、王国軍のテント側。遠目の空にいるカゲハとミストに視線を向け、着替えの手配をお願いした。


「どうしよ……。ヒューイのお母さんどころか、このままじゃあ誰に会うにも悲鳴しか上がらないよ。戦場でこれは意味が分からないもん」


 とりあえず周りを見回してみる。何故なら、騎士団の人達が駆け上がって来ているから。


 子供の姿とは言え、何となく局部は隠しておきたい。あとヒューイも。


「…………」


 あんまり代わりにはならないかもしれないが、とりあえずコレで凌ぐか……。




 ………


 ……


 …




 下層の階段上に戻ってから、立ち昇る黒煙を唖然となって眺める大人に再び訊ねる。


 五〜七人の集団はあの火薬に壊滅的な打撃を掛けていたのか、絶望感をヒシヒシと感じさせている。が、容赦なく訊ねる。


「すみません。責任者の方は戻られました?」

「…………戻ってくるわけがない」

「なんでです?」

「前線は見捨てられたんだ……。あの爆炎も、正気を失った仲間が自爆した炎なんだよ……」


 嬉々としていたように思う。なんなら俺に押し付けていたし。何も知らない子供に自爆させようなどと、この結果は彼の自業自得である。


「責任者は何処に行ったか分かります? 何か手助けできる事があるか訊きたいんです」

「止めておけ、使い捨てにされるのがオチ……はぁ!?」


 大人達が俺の格好に気付いてしまう。もう堂々としていよう。


 裸で樽に入って、ヒューイ隠しに木の桶を被った状態で、堂々と生きていこう。


 これが魔王だってさ。なんとも笑える話だが、こんな日もあるよ。せめてこの解放感を楽しもう。


「誰を助けるってぇ!? 何が助けられの、君にぃぃ!! 無理だよ、無理無理っ!!」

「私達が助けたいものっ! 大丈夫なの、僕!?」


 自然をモチーフにした、木目調で統一感を演出したファッションを心配される。けれど呆然自失の彼等を期せずして引き戻してしまう。


「大丈夫です。腕を出す穴も空けたし、隠さないといけない場所は隠れてるし、これならいざって時は————」


 亀のように樽へ手脚を収めて頭も引っ込める。一瞬にして、ただの樽に変装した。


「……こうして隠れる事も出来るんです」

「そ、そうか……、生き残る為の知恵なんだね……」

 

 樽の中のクロノを理解してもらえたところで、改めて樽から頭を出してエンゼ教の大人に問う。


「で、責任者の方は?」

「おそらくは中層だろう。次の足止め用の罠を監督している筈だ」

「ありがとうございま〜す!!」


 おそらく降伏待ちである彼等にお礼を言って、迫るリリア達に見られないよう急いで神殿下層を駆け抜ける。


 中層への階段を駆け上がる。


「すみませぇ〜ん! 責任者の方はいらっしゃいますか?」

「…………なんだ、この薄汚く見窄らしく、おまけに頭の悪そうな子供は」


 いきなり嫌な人から罵倒を受ける。ムッとするが樽を着ているという事実によって、全ての項目に該当してしまう。


 汚れていてほぼ全裸に加え、頭の良い人が木製を衣類にカウントするだろうか。いや、しない。多分、頭が悪くてもしない。


「……責任者の人っ?」

「そうだが? ふっ、樽人間が何の用だ」


 嘲笑って小馬鹿にされるも、樽人間なので否定は出来ない。


 絶妙に特徴を述べられているだけで、怒る事はしない。


「ビュぅぅ……」


 何故かヒューイまで不機嫌になってしまい、頭の上が噴火寸前だ。早く終わらせてしまおう。


「竜の居場所を聞いて来いって、上のお偉い人から言いつかって来ました。早く樽人間に教えてください」

「下らん。貴様は下層からやって来ただろう。この私に樽人間の嘘が通じるものか」

「下に行ってからっ、また登って来たんです! 責任者の人が、尻尾を巻いて前線からスタコラ逃げたって噂になってますよっ?」


 こちらからも嫌味の左アッパーカット。突き刺すように顎を跳ね上げてやった。ただでやられる樽魔王ではない。


「逃げたのではない。次の罠を指示しに上がったのだ」

「あっそうですかっ、それで竜はっ?」

「さぁな。地下や牢屋などの部屋の鍵はギラン伯爵が持っている。しかも残された竜は戦場に出たものとは一線を画すようで、ある目的の為に別の場所にて、秘密裏に保管されていると聞いたが?」


 意外にも色々と知っていた嫌味おじさん。と、見直したのも束の間に、おじさんは俺を見下してコキ使い始める。


「教えてやったのだ。貴様にも作業を手伝ってもらうぞ」

「その前にギラン伯爵はどちらに?」

「居所を伝えたなら、その瞬間にお前は向かうだろう。手伝えば教えてやる」

「いや、いいです。もう上層しかないんで」

「ちっ」


 名前も知らない大人の人だが、樽に入った子供も使い倒そうとする性悪だ。舌打ちも無視して神殿を抜け、上層への階段を目指す。


「ピュ……? ぴ、ピュイっ、ピュ〜イ!!」

「うおっ!? どしたのっ!?」


 興奮したヒューイが取り乱し、頭の木桶が跳ね出すので、慌てて桶を押さえる。この反応はただならない。しかも嬉しそうな乱れっぷりだ。


 もしかして、お母さんの匂いが感じ取れたのだろうか。


 思えばここまで辿れる嗅覚を持っていながら、該当する場所に潜入して分からないのも不自然だった。


 やっと確信を掴んだのだろうか。と、思ってヒューイが行きたがっている方向へ進んでみる。


「……すみません、コレなんですか?」

「油だ。王国軍が登って来たら、この熱々の油を流してやるのさ。さぞかし温めてやれるだろうな。宗教弾圧などという、愚かにも凍てついた精神をな」


 五つもの大鍋にて熱される油。ニヤニヤしながら眺める大人達は頭の中で、非常に残酷な仕打ちを企んでいたのだ。


 こんなものを階段上から流されたなら、大火傷して死んでしまう。流れたと言えど、熱された油など簡単に冷えるものでもない。確かに足止めには打って付けだろう。


 何よりもなんでヒューイは反応した? まさか王国の人々を護りたいのだろうか。


「ピュイっ、ぴゅ〜!」

「……あぁ〜、なるほど。トンカツを作っていると思ってるのか。ははっ、可愛い子だなぁ」


 チャーミング大賞受賞。場違いにも思わずほのぼのと心和やかになってしまう程、頬が緩んでしまう。


 どうやらヒューイは焚き火で煮られる油を発見して、ここで追加のトンカツが作られているのだと勘違いしたようだ。


「お、おい、ガキ……」

「うん?」

「頭が……ぴーぴー鳴ってないか?」

「鳴るんです。毎日、たくさんのお米を食べる賢い子は鳴るんです」

「米、こえぇぇ〜〜〜〜〜〜っ!?」


 油温めおじさんにトラウマを植え付け、ヒューイに酷な真実を教える。


「美味しかったみたいで良かったよ。でも残念ながら、ここからはトンカツは出て来ないんだよ?」

「ピュ?」

「これはただ油を温めているだけの場所なんだ。意味わかんないだろ? 残酷にも油を武器にするつもりなんだね、彼等は」


 油は人を笑顔にも泣き顔にもする。オリーブオイルやサラダ油、油田は俺達を笑顔にしてくれる。特に石油なんて垂涎もの。


 ところが同じ油でも、このように強力な罠にも出来てしまう。ものは使う人の心で、天使にも悪魔にも…………どっちも人の敵だな。ややこしい奴等だ。


「なんだ、手伝うつもりになったのか?」

「…………」

「そろそろ階段下へ流す準備だ。温度は十分なのか?」


 嫌味おじさんが馴れ馴れしく歩み寄って、この魔王にも恐れる事なく命令してくる。どう考えてもこの油ギッシュ大火傷作戦は、この人の指示だろう。


 あのネムって人が、こんな作戦でどうにかなるとは思わないけどね。


「温度って言われても、十分の基準が分からないです」

「人を焼き殺せるのかと聞いているっ。当たり前だろうっ、愚か者めが。学のない、教養も乏しい、ただ賤しいだけの豚めっ」

「豚ではないです。豚も賤しくはないです。おじさんより引き締まった身体をしてるんですよ?」


 何故にそのような物騒な物言いを、平気で出来るのか。理解に苦しむ。高温度の油で殺されるなんて、どんな苦痛なのか想像を絶すると言うのに。あと言い過ぎ。


 けれど情報提供された身なので、温度くらいは測ってやるかと、煮られる油へ指を突っ込む。


「…………」

「…………」

「……まっ、いけるでしょ」

「行けるわけがないだろうっ、馬鹿が!」


 温度を測ってやったら、これだ。理由なき罵倒。言葉の暴力。未だ横行する異世界パワハラの実態。とても地球の人達には教えてあげられない。


「指を突っ込める温度でいい事があるかっ! ……貴様、何をしているのだ! 少しも熱されていないではないかっ!」

「ぱ、パーター男爵! もう三十分は熱していますし、十分のはずです!」


 嫌味おじさん、油を熱する係を担当していた部下へと八つ当たりを始める。この人だって、ずっとここにいたのに。同罪なのに。


 もう付き合っていられないので、俺は神殿を抜けて上層へと向かう事に。俺もマナハラスメント常習者だが、こうまで疎まれる上司にはならないよう気を付けねば。


「——役立たずがッ!」

「ぐぅっ!?」


 ……あ〜あ、殴っちゃった。


 振り向いてみれば、拳で部下を殴り付けたらしい嫌味おじさんがいる。更に頭まで踏み付けて、グリグリと屈辱を与えるオマケ付き。


 悪人同士なので、ヒューイのお母さんより優先するつもりはない。なので暴行事件にも背を向けて止めずに、また階段へと走る。


「もうすぐここにやって来るのだぞっ! どうするつもりだ! こんな指を入れられる温度で——」

「あっ……」


 台詞だけで嫌味おじさんが油へと指を突き入れた事が分かった。


 フライドおじさんになるつもりか……?


「——あチャァアアアアアア!?」

「ぎゃぁあああああっ!?」


 油の鍋から抜いた手には、熱々の油が纏われていた。その油は周りの部下達に散り、もがく人達が鍋に当たって…………油が全部、溢れてしまう。


 すると当然、下の焚き火に引火する。


 すぐに炎は絨毯のように広がって、アクションシーンみたいないい見せ物に。


「映画みた〜い」

「ピュゥゥ……!」


 阿鼻叫喚の地獄絵図を少しだけ眺めて、逃げ惑う人達に背を向けて上層へ駆け上がる。




 ………


 ……


 …




「——お〜い、カゲハさんがトンカツを持って帰ってやったぞぉ」

「とんかつっ!?」


 気配を消してリリアの天幕へ歩み入ったカゲハに、レルガは嗅覚と聴覚で目覚める。寝惚け眼のまま上半身が跳ね起き、胃袋が稼働を始める。


 薄ら霞んで目に映る人影と、サクッと揚がったホカホカのカツ。レルガが流れるように間食の体制へ移行する。


 近くにあった簡易テーブルを足先を伸ばして手繰り寄せ、トンカツを持参した人影にベッドへ座ったまま言う。


「……ここ、置け」

「先に主への感謝と、持って帰ってやった私に“ありがとう”だろう?」

「もって帰ってやったみたいに言うな」

「も、持って帰ってやったのだっ。だからそう言っているだろう……」


 相変わらずのレルガに悩まされながらも、機嫌の良いカゲハは言われた通りにトンカツの皿をテーブルへ置いた。


「まぁ、今の私は久しぶりに主から命じて頂けて気分が良いからな。末っ子気質と捉えて堪えてやろう…………ふふっ」


 主人との会話を一言一句違わず思い出し、赤面して微笑む。跳ねるように小さく屈伸し、乙女心を表す。


「…………」


 一方でレルガはいつも通りに匂いを確認。嗅覚で合格を出したなら食事となる。


 木皿には四枚も大きなトンカツが乗っており、寝ぼけるレルガはよく見えないまでも匂いで鼻が反応し、自然と身体が摂取へ乗り出した。


 ところが、


「…………」


 ……茶碗と箸を取る手が空振る。何度も試すが、いつも置いてある位置で空振ってしまう。


 これは不思議とレルガは気合を入れて目を開けた。


「………………おい、ゴハンは?」

「うん? 見ての通り、トンカツと野菜だけだ。白米は炊いていない」


 レルガは胸中で『こいつ、バカ。ジョーシキない』と罵った。


 そして立ち上がり、天幕の外へ向かう。


「待て待て、何処に行こうと言うのだ」

「リリアにやらせる。とんかつにゴハンがないと、ブタが怒る」

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