第10話、始まりの街でのアレコレ

 

 ……間に合ったか。


 ふぅ〜、やれやれ無事に合流したね。戦力的には一先ずはこれで安心だろう。


 3階建ての建物の屋上から、真下の路地裏で顔合わせをする3人を見下ろして一息吐く。


 危なかった。まさか魔王城建築に夢中になって、本業がおろそかになってしまうとは……。


 ハクトも大きくなっちゃって、ガールフレンドまで作っているじゃないか。おしゃれカツラなんてのも被ってるし、もう立派なリア充だ。


 それに、……中々に実力の方も上がっているようだ。始まりの街を訪れるくらいの実力はあるだろう。


 だが2人とも甘いな。


 始まりの街での作法が全く分かっていない。


 RPGゲームをやった事のある者ならば、初戦のボスには大きく分けて2種類いる事などもはや常識だ。


 一つは、ろくにレベルを上げなくても倒せる、チュートリアルの延長線上のボス。


 二つ目は、負けの確定しているラスボス級の圧倒的強さのボスだ。イベントバトルというやつだ。ちょっとイラっとするやつだ。


 これがゲームならば試しにチャレンジというのもありだが、現実である以上それはできない。


 一つ目ならばいいが、二つ目であれば都合良く見逃してくれるはずもなく、無慈悲に殺されてしまうだろう。


 だから俺はハクトと王女の代わりに、この付近の情報を調べて回った。


 ハクトの行き先を先回りし、魔力全開で駆け回り、この辺りを調査した。ストーカーとかではない、心配なだけだ。


 するとなんとこの街の領主は、かなりの悪人らしいではないか。


 貴族の中には親子のような関係があり、ここの伯爵は自分の子である貴族の領地から気に入った領民を買い漁っているようなのだ。


 つまり、人身売買だ。


 ここで勘のいい人ならば気がつくだろう。


 勇者ハクトの記念すべき初ボスは、ここの領主と護衛達であると。まぁチュートリアル的なボスという事だ。


 だから今の2人でも倒せるだろうとは思うのだ……思うのだが……。


 ……やっぱり心配になったので、この街の近くにいた正義感のある実力者を探して、さり気なく2人に合流させたのだ。


 戦力は多い方がいいからね。


「……あんたは?」

「僕ですか? 僕は、“オズワルド・アーチ”。旅する狩人ですよ。……恋のねっ」

「へ、へぇ〜……」


 下の方で、早速自己紹介も始まっている。


 実はなんとビックリする事に、彼はハンサム……なんだったっけ、ハンサム……ボーイとかそんな名前の義賊らしい。


 悪徳商人や領主から金品を盗み領民へと還元する事から正義の味方だと評判で、人気も高く、弓と短剣のスキルがとても高い。


 何故かこの街にいたので、さっき米屋のフリをして美女がここらにいてガイドに困っていたと吹き込み、巧みに誘導したのだ。


 3人共正義感のある事は調査済みだし、類は友を呼ぶ。そこらでお茶でもすれば意気投合するに違いない。


 さて、これで勇者パーティの母体はできたと言っていいだろう。やれやれ世話の焼ける。


 ……これで帰ってもいいのだが……何故か最近自宅近辺の山賊が減ってしまって、山賊貯金が心許こころもとない。


 ここの領主は悪人で金持ちらしいから、ちょっとばかりお宝を頂戴して行こうと思う。


 完全に盗っ人だが、自称魔王という立場上こういった悪人からむしり取る他ないのだ。


 よし、ハクト達が来る前にさらうとするか。






 ♢♢♢






 庭に噴水やら池やらある、シーリー・ショークの豪邸に潜入する。かなり広いだけあって警備の数も多いが、容易に侵入できた。ライト王国王城侵入回数で、おそらく歴史上ダントツの俺の腕前ならお茶の子さいさいだ。


 凄い豪邸だな。掃除がたいへんだよ、こりゃ。


 魔王城を一人でやり繰りしている俺には分かる。ペット兼門番はいるけど、あいつら掃除はできないし。


 ……豪邸を見て初めに家事の心配をしてしまう魔王。


 ダメだな。家庭的な魔王なんて。気を付けないと。今日からエプロンや三角巾を着けるのも止めよう。


 お茶漬け漬けの日々もさよならだ。


 魔王らしく肉をかっ食らおう。


 さて、それはともかく、……どれをいただこうか。


 このシーリー・ショークの館にはそれはそれは大きな宝物部屋があり、気配を絶って衛士達をかる〜くスルーして侵入したのだけど……。


 ……色々な宝や金があり過ぎて、どれを持って行こうか迷ってしまう。


 剣や武器は自分で作ったのがいっぱいあるし、お金はかさばるからあんまり持てないし……。


 ……おっ?


 宝物部屋の奥へ奥へと観覧して進んでいると、一つだけ厳重に鎖で封じられた真っ黒い鎧を見つける。


 禍々しい黒いオーラを纏わり付かせた、顔と全身を包むような重装的な漆黒の大鎧だ。


 ……。


 鎖と黒で、トラウマではないが思わず睨みつけてしまう。


「……ん?」


 “要注意! 触るべからず”。


 という、脅しのような立て看板が立っている。


 ……。


 反骨心からの装着。




 ………


 ……


 …






 ……う〜む、かなり動き辛いな。


 さっきまでの15歳くらいの見た目から、鎧に合わせて身体を大きく成長させて着たのだけど。


 頭部の鎧がフルフェイスで視界も狭く、節々が上手く動かせない。


 俺のスタイルには合わないみたいだ。


 この世界らしい大雑把な魔力の使い方には合ってるかも知れないが、これではスピードを活かせない。


 ……しかも、なんか魔力も吸われてるし。


 明らかに呪いの装備の類だろう。


 一応持って帰るけどね。


 見た目が邪悪っぽいし、いつか騎士のエキストラを雇う事があったら暗黒騎士として登場してもらおう。


 蚊みたいに魔力をチューチュー吸っちゃうモスキートアーマーだけど、かなり頑丈ではあるだろう。


 だって重量も中々のものだから。力士になった気分だ。


 久しぶりに四股を踏んでみるか。


 こう見えても子供の頃は近所(山三つ離れた)のキングデスベアーとよく相撲を取ったものだ。


 片足を高く上げ……。


「……どすこい! ――ぬおっ!?」


 床が抜けた。


 胸元までズゴンと床に埋まってしまった。


「な、なんだ今の物音、は……」


 宝物部屋の番をしていた衛士が慌ててやって来た。


「……………」

「……………ち、ちゅ〜〜ぅっ……………」

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る