第4話 狂人症6
「ごめん、とうさ……局長!狂人症だと思う幻種が後方に襲撃してきた!」
父親に電話をかけている賢人の横で、沢村浩は息を荒げながら状況を整理する。
狂人症という知らない単語。
賢人の説明が入るより前に奇襲してきた人狼。
人狼の爪が届くより先に浩を庇うように前に出た賢人。
バリアのようなもので攻撃を防いだところを、月原組の構成員たちが人狼に向けて魔術を放つ。
賢人から距離をとった人狼は向かってきた火球や氷塊を避け、暗がりへと逃走する。
その後、堅持と呼ばれた構成員から賢人の近くにいるように言われ。賢人の案内で体育館の陰に身をひそめた。
奇襲のターゲットは間違いなく浩だ。
だが、なぜ自分が狙われる?自分は魔術師でもなければ幻種でもない。
「浩が!?なんで、幻種とか魔術とか関係ないのに!」
賢人の言葉に顔を上げる。ちょうど賢人の父親も浩が狙われたと推測をたてたらしい。
賢人との距離は近いがスマホから音が漏れることはなく、浩の耳には何も聞こえなかった。
ただ、賢人の反応だけがわかる。
「そんなの……」
何か質問をされたのかすぐに答えようとして、なぜかこちらを見る。
「『匂い消し』……」
大事なことを抜かしてしまったことに気づいた賢人の顔は硬く、父親の指示を聞いていた。
通話は終わったのか、スマホを耳から離すと賢人は舌打ちしながら自分の頭を乱暴にかき回した。
「……何が原因?」
浩は賢人に短く尋ねる。
「……父さんも俺も、浩に匂い消しの魔術をかけていなかった」
「それは今回みたいな事件のときに絶対にしないといけないこと?」
「そう」
短く返される。
「今からその魔術を僕が受けるのは?」
「もう無理。向こうは浩の匂いを完全に覚えてる」
「こっそり公園から抜け出すのは?」
「ダメだ。匂いを追った狂人症患者が他の人間を襲う」
「そんな……じゃあ、どうすれば?」
「浩にはどこか安全な所に隠れてもらう」
「え?」
匂い消しは手遅れで、抜け出しも不可能。それなのに隠れろとは、どういうことだろう。
「浩を探している幻種を、俺たち魔術師側が先に探し出して捕える。多分、父さんも似たような事をすると思う」
「だったら僕も……」
「一般人をこれ以上危険な目にあわせられない!」
声を荒げる賢人に思わず身をすくませる。はっとした賢人は小さくごめんと謝り。
「いくら浩が魔術側に入ると言っても、今この段階では浩は巻き込まれた一般人なんだ。父さんの許可がない限りこれ以上深入りできない、しちゃいけないんだ」
「おじさんの許可がいる……」
考える。賢人の言っていることはおそらく真実だ。自分は一般人。だから避難しなければいけない。
(でも……)
目を閉じて考える。今自分ができることはなんだ?魔法なんて使えない。世界の裏側を知ってまだ一日もたっていない。ただの一般人である自分が、自分からできることは……。
目をあける。
「賢人、携帯貸して」
賢人に手を伸ばしてそう言った。
「僕の方から、おじさんに連絡する」
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