第4話 狂人症5
「なに!?被害は!」
「堅持さん達が調査中!なんか、誰かを探しているみたい」
「探している……?」
誰を?なぜ?
浮かんだ疑問はすぐ解消できた。
「浩君はどうした!」
「浩?一緒にいるけど……」
「狂人症患者の狙いは浩君だ!」
「浩が!?なんで、幻種とか魔術とか関係ないのに!」
「関係ないからだ!賢人、重度の高い幻種事件に魔術師たちが自分たちに施す最初の術はなんだ?」
「そんなの……」
少しだけ間があき、賢人も気づいたようで。
「『匂い消し』……」
魔術関係の人間は重度の高い幻種事件に取り組む場合、参加する全員が自分たちに人の匂いを消す魔術を施す。
対象の幻種に人が近づいていることを悟らせないためだ。
雄介たち月原組は後方にいる賢人も含め、匂い消しの魔術を使っている。公園の入り口付近にいる警察もだ。
だが、沢村浩はどうだ?幻種の乾鉄浪に連れられ、自分たちに合流して後方に送った時誰も沢村に対して魔術を使ってはいなかった。後方の人員もしなかったのだろう、だからこその息子からの緊急連絡だ。
今から沢村に匂い消しの魔術を施しても無駄だろう。すでに二回襲われている。仮に公園から逃そうとしてもその匂いを追い、被害が拡大される。
「今からそっちへ向かう。向かうまで安全を確保しろ、間違っても公園から出るなよ!」
息子の返事を聞かずにスマホの通話をオフにし振り返る雄介。
そこにいた人狼の少年は、おそらく会話が聞こえていたのだろう、追い詰められたような顔をしていた。
「オレのせい、なのか……オレのせいでこんなことになったんだろ、なぁ!?」
「違う」
詰め寄る乾に雄介ははっきりと答える。
「たった二人の介入で左右されるほど、この状況は甘くない」
本来は囮の人員を使って人狼をおびき寄せる作戦だった。乾や浩が来なくとも遠からず狂人症の人狼だと知れただろう。
「君たちがいたせいで対象の幻種が狂人症だと早くに知れた。状況の変化はそれだけだ」
「そんな言い方っ」
「なら、なんと言えばいい?引っ掻き回してくれてありがとう、か?」
「ちが……」
ふうと息を吐き。
「反省や後悔をしたいのなら、後にしろ。今はこの状況の収拾が先だ。体育館まで急いで戻るぞ」
「……分かった」
まだ言いたいことがあるのだろう乾は、それらを飲み込み頷いた。
「……なんでそんなに冷静なんだよ」
「冷静に見せてるだけだ」
一言だけ口に出した乾の言葉に雄介はそう返す。
指揮している人間が慌てていたら下に付く者達が余計に混乱する。それならやるべき事は決まっている。
努めて冷静に、混乱の波を抑える。
「頭の片隅は常に冷静にしておく。焦ると対処できるものも対処できん」
ふたたびスマホが鳴りはじめる。もう一度確認すると息子と表示されていた。
こちらから伝えることは伝えきった。再確認をとるほど息子は馬鹿でも慎重でもない。それなのにもう一度連絡をよこした。
(何かあったのか?)
通話をオンにし耳をあてる。
出た声は息子ではなかった。
「沢村浩です。……月原局長、僕から、提案があります」
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