第4話 狂人症4

 いろんな感情がないまぜになった乾は雄介の声に反応し後方へと跳ぶ。跳んだ直後に銃弾が乾の父親に向かう。

 乾の父親は唸り声をあげながら銃弾を避け乾達から離れ、また逃げ出した。

 舌打ちをする雄介に乾は食ってかかる。

「なんで撃ったんだよ!」

「彼は狂人症にかかっている!撃たなければ君が襲われていた!」

「きょうじん、しょう……?」

「幻種全体……とくに、亜人族に罹る病気だ。くそが、可能性を考えるべきだった……!」

 自分の失態に苛立ち頭をかきむしる雄介に乾は食ってかかる。

「なんなんだよ、狂人症って!」

「狂人症というのは、人を襲い喰らう病気だ。現代なら罹るはずのない病気なんだが……」

 言って雄介は気がつく。乾鉄浪が未登録の極東人狼種なら、その父親にも同じことが言えるではないか?

「……魔術協会の存在を知らない幻種が長期間人のいない場所で過ごし、ある時人に対して殺戮衝動が急に起こった、か?」

 仮説を立て考えた雄介は懐から、人の形をした紙を取り出し紙の前で指で何かを切るように振ると空中へ放り投げた。

 他の構成員たちも人の形の紙を投げ出し、投げられたそれらの紙は風もないのにひとまとまりになり、どこかへとまっすぐ飛んでいった。

「今のは?」

「後方への緊急連絡だ。『緊急事態発生』。そう起こるはずのない事態だが……」

 言って雄介は歩きはじめる。遅れて、追うように乾も歩き出す。

「おい、どこへ……!」

「彼を追う。君は来るな」

「はぁ!?」

 言われて乾は声を上げる。

「もう協力とかそういう簡単な話しから逸脱している。ここからは……」

 立ち止まり、遅れてやってきた乾も立ち止まる。父親を止めたい、そんなことが人狼の少年の顔に書かれている。雄介は考える。これは本来言うべきではない。言ったら、おそらく……。

「……ここからは、幻種の『討伐任務』だ。もう一般人は通行止めだ」

「オレは幻種だ!一般人じゃない!」

「狼のガキが吠えるな!!」

 乾の自分は人ではないアピールを一喝する。

 雄介の怒声に思わず身をすくませた乾はしかし、体を震わせながら声を上げる。

「オ、オレは人間じゃない、幻種なんだ!怖がる必要はあるはずないだろ!?」

「幻種と人類はたしかに違う、それは認めよう。だが、人権として認められているものがほとんどだ」

「だ、だけどオレは狂人症の……」

 まだ言い訳を言おうとする乾の頭をがしっと掴み、顔同士を近づける。

「お前のやろうとしていることは、ただの無謀だ!!」

 腕を離し乾から離れる雄介。

(やりすぎたか……)

 力なく腕を下ろし浅く呼吸を繰り返す乾を見て少し心が痛む。ことが済んだ後、乾には何かしらの形で謝罪をしなければ。そう考える雄介の内ポケットからスマホが振動し始めた。

 なんだと思ってみると通話相手には『息子』と表示されていた。

 仕事の時は緊急以外で連絡しないようきつく言っていた。連絡してきたということはつまり。

 考えながら通話にスライドし電話に出る。

「どうした」

 その声は乾の耳にも届いた。

「ごめん、とうさ……局長!狂人症だと思う幻種が後方に襲撃してきた!」

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