第4話 狂人症2

『君の父親はおそらくその先だ』

 雄介からの無線連絡が乾の耳に響く。

「見つけたらどうすればいい?」

『噴水広場の方に誘い込みたい』

「わかった。で、そこで何をする?」

『動きが止まった隙をついて拘束させる』

「オレにしたのと同じやつか?」

『ああ、そのつもりだ』

 暗闇の中、スピードを緩めずに駆ける乾の脳裏に、自分が捕まった時の状況を思い出させた。

 数人の構成員が捕えようと地面から鉄の鎖を生やして自分へと襲い掛かった。数回は避けられたが数が多すぎてよけきれなくなり拘束された。雄介が来るまでほどけられなかったが、雄介が拘束を解こうとなにがしかをしたところで力を込めて鎖を引きちぎる。雄介に襲い掛かろうとしたが引きちぎったのとは別の鎖が腕や足に絡みついた。

 最初の鎖とは比べられない強度の鎖に乾は何もできなかった。

『昼間、君を拘束したあの鎖。あれはドローミと言ってね、狼の幻種には特に効くものだ』

「狼……フェンリル狼の事か?」

『知っていたのかい?』

「……少しだけ調べたことがある」

 力の制御の参考にならないか、伝承の狼や人狼の情報を図書館やネットで調べたことを思い出す。

 フェンリル狼。北欧神話に登場する魔狼を捕える鎖の名前にドローミというものがたしかにあった。

(待てよ、ドローミ以外にも鎖の名前があったよな……)

 二度目の拘束で使われた鎖がドローミなら、最初に使われたのはおそらくレージング。

 もう一段階、なかっただろうか?

 何か思い出せそうになったところで整理された木々を抜け、道に出る。

(いた……!)

 何かを探しているように首をめぐらす父親の姿を見つけ思考を中断する。

「なにを探してるのかわかんねえけど……!」

 足元の小石を拾い、父親に向けて投げる。

 ぶつかった小石に気を悪くしたのか、唸りながら乾のほうを向く父親。

(気づいた。なら……!)

「こっちだ、くそ親父っ!」

 背を向け逃げ出す乾を追おうと駆け出す人狼。うまくかかったようだ。

「うまくいった、噴水広場まで誘い込む!」

『分かった、捕まるなよ』

「誰に言って!」

 雄介に伝え乾は噴水広場までの道を駆け出す。噴水広場までの方向が不思議と分かる。耳に付けられた連絡札のおかげだろう。

 時々後ろに振り向きながら追ってきているかを確認し、乾は考える。

 なぜ、父親が殺人を犯したのか。

 これがホラー作品だったら、『そういうもの』だと無理矢理理解はできる。

 ひょっとしたら動機というものがないのかもしれない。

 だが母親が乾に話してくれた父親のイメージが、『ただなんとなくで人を殺した』とは思えなかった。

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