狂人症
第4話 狂人症1
危険を察知した乾が沢村に伏せろと怒声を上げたところまで時間は遡る。
伏せた沢村の上を通り過ぎたものに乾は突進する。
自分が獣化で夜目が利いたり嗅覚が上がっているのなら、父親もそうなっている。
気づくのがもう少し遅れていたら沢村は殺されていただろう。
寒気を感じ、凶行を止めようと乾は父親を転ばせようと足払いをかける。しかし乾の父親は倒れこんでもすぐに起き上がり乾に襲う。
振りかぶり殴りつけようするが防御され、逆に地面に叩きつけられ首に手が伸び捕まり息が詰まる。
「はっ……!」
じたばたと動き、腕の拘束をどうにかしようともがく。
乾の抵抗をものともしなかった父親は、しかしすぐに乾を自由にさせる。
父親に向かっていくつもの赤い炎が襲い掛かってきたからだ。
乾から離れた父親は唸り声をあげ逃げて行った。
ごほごほとせき込む乾に近づいたのは月原雄介だった。
「乾君、なぜここにいる?」
咎めるような声に乾はものともせず答える。
「親父を、止めに来た……」
「殺されかけたのに?」
「それは!」
声を荒げ、またせき込む。せきが落ちついてもう一度同じことを言う。
「親父は、オレが止める。息子のオレが止めないで、どうするんだ!」
自分には父親と同じ能力がある。それはつまり、自分が止めるべきだと乾は言う。
だが、雄介はそれをよしとしない。
「乾君、これは『親子喧嘩』じゃない。『殺人犯の捕縛』だ」
「言われなくても分かってる!」
立ち上がり雄介を睨む乾。
「親父が罪を償わないといけないことも、全部分かってる!」
ものともしない雄介に乾は続ける。
「けれど、オレはじっと待つわけにはいかないんだ」
確固たる意志の乾の言葉に観念したのか視線を下に下げため息を吐く雄介。
「……わかった、いいだろう」
ただし、と雄介は乾に視線を戻す。
「こちらの指示に従うこと。守れないようなら眠らせてでも後方に下げる。いいね?」
「ああ」
最大限の譲歩に乾はうなずく。
とりあえずこれをと乾のとがった耳に小さな札をはる。
「これは?」
「連絡用の札だ。魔術で使う無線通信と思えばいい」
簡単には剥がれないように細工がされているようで、乾が何度か触っても剥がれる気配はない。
「オレはこれからどうすればいい?」
「動きを止め、拘束させるのが最終目的だ。乾君は今はとにかく父親を探し出してほしい」
できるなという言葉にうなずく。
首を掴まれたときに父親の匂いは覚えた。夜の暗闇ももう昼間と差がない程に目が慣れた。
「ああ、出来る」
本当は心の片隅に恐怖心が残っている。だがそれでも。
自分は幻種、人ではない。人ではないから人ではないものに恐怖する必要はない。
そう自分に言い聞かせ父親のあとを追い始めた。
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