第3話 紫電の人狼7
「魔術……」
やっと出てきた単語を沢村は口にする。幻種だ魔術協会だと言われてはいたがようやっと現実味が増していく。
「引力を使うって言ってたけど、具体的にはどうするの?」
「浩は引力を科学的に説明できる?」
「まぁ、簡単には」
引力は二つの物体の間に働く引き合う力の事だ。物理の授業で習う。
「万有引力とは関係ないよね?」
「そうだね、魔術観点では万有引力は常にあるものとして考える。で、引力に話しを戻すけど」
互いに引き合うということは、言い方を変えると力がつり合わなければどちらかに引っ張られるということになる。
「月原組の魔術、『引力魔術』は対象を引き寄せたり逆に突き放したりする魔術なんだ」
「……ちょっとイメージがわかない」
「うーん、じゃあ磁石だ。N極とS極を自分の好きなタイミングで切り替えられる」
「あ、それならイメージできる」
頭の中でオンとオフの呪文を唱えながら物を引き寄せたり引き離したりするとてもシュールな魔法使いが出来上がる。
「……どんな想像をしているのかは置いておくとして」
とりあえずイメージした魔法使いは脇に置くことにし、市原の説明を聞く。
「大きな障害物がなく、今みたいに月が出ている夜なら最大効果の拘束魔術が使えるんだ」
「拘束魔術……」
呟いて首をひねる。
「……さっきの引力とどう結びつくの?」
沢村の疑問に市原は答える。
「拘束させるということは、その場に引き寄せると言い換えられる」
「そう、なの……?」
「見方の問題だよ」
分かるような分からないような。
「……つまり、その場にくぎ付けにさせるってこと?」
「そういうこと」
悩みながら出た沢村の答えに丸を付ける市原。そういう風に言われたらなんとなくだが分かったような気がする。
「……そろそろ拘束魔術が展開される頃合いかな」
呟く市原はテントの外に視線を向ける。タイミングが分かるのか聞こうとしたらテントの中に何かが大量に舞い込んできた。
「わっ!?」
「おっと」
驚き手を振り回す沢村に目もくれず飛んできたものを一つつかむ市原。
飛んできたそれは和紙を人型に切ったものだった。
「式神?」
「お?正解、よくわかったね。でもなんでこんなに……」
市原の言う通り、それは式神と呼ばれる魔術使役だった。
頭部をなでるように指でなぞると式神は炎を放ち、燃え尽きた。
「……賢人、これって」
「……『緊急事態発生』。拘束魔術が失敗?なんで?父さん以上の魔術師はいるけれど、月原組に限って言えば父さん以上はいないはず……堅侍さんっ!」
構成員の名前を呼びテントを飛び出す市原。慌てて沢村も後を追う。
テントの屋根で隠れていたが、ワゴン車や体育館の扉にいくつもの式神がべったりと貼り付いていた。
異常な光景に沢村は息をのむ。だが、すぐに気を取り直して市原の後を追う。
幸いにもすぐに見つかった。市原は沢村を連れてきた構成員に声を上げながら近づく。
「堅侍さんっ!」
「若、ぼっちゃん!早くここから離れて下さい!」
「父さんほどの魔術師がへまをするはずがない!なにがあった!?」
「拘束魔術は失敗です!あの幻種は……」
その言葉は不思議なくらいにとても耳に通りやすかった。
「狂人症にかかっています!」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます