第3話 紫電の人狼5

「俺よりも乾の方が心配だなぁ」

「どうして?」

 市原がこぼした言葉に沢村は涙を拭きながら尋ねる。

「乾はさ、少し前までは自分が幻種だって知らなかったでしょ?力のコントロールとかたぶん無理してたんじゃないかな。適当に喧嘩をふっかけるとかしてさ」

「夜中、家を抜け出して不良に喧嘩売ってたって」

「そっかぁ」

 噂の真実を知ることになったが、市原は特に残念とは思ってないようだ。

 

「……市原」

「なに?」

「僕はさ、特別な力を持った主人公って実はあんまり好きじゃないんだ」

 タオルをぎゅっと握りしめ、そうつぶやく。

「どして?」

「なんでだろう、自分でもわかんない。いや、多分……」

 立ち上がり体を伸ばす。震えは治まっていた。

「多分、ひがみがあったんだと思う。自分は持っていないもの、それを主人公は持っている」

 遅れて立ち上がる市原にタオルを返す。

「市原や乾にもね、ちょっとだけひがんでたんだ」

「……今も?」

 市原の疑問に首を横に振る。うらやましいという気持ちはまだある。だけどそれは本人たちからすれば当たり前のものなのだ。

「決めた。僕もそっち側にちゃんと入る」

「……自分が望んだものが手に入らないし、今回みたいなことがまたあるかもしれないよ?」

 後悔しない?と市原は問う。

「後悔はいつかすると思う。だけど、それでもいい」

 はっきりとした沢村に市原は長いため息をついた。

「……わかったよ、とうさ、じゃないや……局長に話しを通してみるよ」

「ありがとう、賢人」

「自分で決めたんならいいよ。というか、名前で呼ぶの久しぶりだね?」

「高校に入ってからはいつの間にか苗字で呼ぶようになってたしね」

 言って笑う。よしと気合を入れて今自分にできることがないか考える。

「まずはテントに向かおう。そこでいろいろ考えをまとめればいい」

 市原から靴を貸してもらいながら頷き、靴を履く。

「サイズがちょっと大きいだろうけど今は我慢して」

「大丈夫、わかってる」

 靴のサイズは一回り大きいが許容範囲だ。

 まだ恐怖心が残っている。思い出すと体がまた震えそうになる。だけど過剰に怖がる必要はない。二、三回深呼吸し息を整える。

(……よし、大丈夫)

 そしてテントの方へと向かい、市原から現状行っている事を聞くことにした。

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