第3話 紫電の人狼2
「できるの!?」
「できる……多分」
首をさすりながら言う乾の言葉には若干の不安が感じられる。
「オレは幻種で獣化できる。で、その獣化だけど見た目だけの話しじゃなくて力とか頑丈さだとか、そのあたりも上がっている」
「つまり?」
「つまり獣化してお前を背負って走って高く跳ぶのは、おそらくできる範囲だと思う」
「……わかった、その案に乗る」
不安なのは試したことがないからだ。他に方法がないのなら試しておきたい。
沢村の頷きに乾は少し離れてろと言い、沢村が離れてから上のジャージを脱ぎ、腰に巻き付け息を整える。
ぱちりと電気がはじける音がした。乾の体に紫電が走り、走り抜けた後には茶色の獣毛が生え、乾の姿は人狼へと変わった。
最初の時と比べて余裕のある状態で見た乾の獣化は、恐怖よりも格好良さが前に出た。
「眺めてないでさっさと乗れ」
そんな沢村の気持ちは気にしていないのか、いくぶんかこもっている声でせかす乾。
ごめんと謝り、中腰になっている乾の背に乗っかる。
(わ、思ってたよりもふもふしてる……)
首に腕がまわされたのを確認すると落ちないようにしっかりと沢村を支え外へと駆け出す乾。
遅れて気づいた見張りの制止の声を聞かず、扉の手前で大きく跳ぶ。塀の上に着地し、そしてすぐ跳びあがる。
「このまま運動公園まで行く。いいか?」
「わかった」
民家の屋根や電信柱の先に乗っては跳ぶ乾に短く答える沢村。民家や街灯の明かりがあるとはいえ正直暗いと思っているが、乾はそう思っていないのだろう。踏み外すことなく先へ先へと迷うことなく跳んでいく。
「乾はさ……」
「舌噛むぞ」
言いながら乾は動くスピードを少し落とす。
「……乾は、自分が普通じゃないって知ったときどう思った?」
「……」
夜風が乾の頬をかすめる。
「……正直、なんでオレがってのはあった」
暗い通りを跳び越え、学校の近くまで向かう。
「行方不明の親父が人狼だなんて言われて。最初は信じられなかったけど、自分の状態が状態だったし信じるしかなかった」
学校を通り過ぎ、ふたたび民家の屋根に乗り、風をあびる。
「力がうまく制御できなくて、夜中に家を抜け出して不良に喧嘩をふっかけたりした」
過ぎる風の音にぴくりと乾の耳が動く。
「そしたらオレの噂が広まって。高校生になったら大人しくしようと思ったのに、噂のせいで他の不良に絡まれたり」
噂というのはおそらく以前市原から聞いたものだろう。沢村は黙って聞き続ける。
「やっと親父に会えると思ったら、親父は連続殺人犯ときたもんだ。笑っちまうよ」
苦笑した乾にはどこか失望の念が感じられた。人狼同士、なにか感じるものがあったのかもしれない。
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