紫電の人狼

第3話 紫電の人狼1

「……い……おい。おい、起きろ!」

 ゆさゆさと体を揺らされ沢村は目を覚ます。

「……おはよう?」

「じゃないだろ」

 まだ意識が覚醒していない沢村を起こしたのは乾だった。寝ぼけている頭を振りながら思い出す。たしか、市原の部屋に入って飲み物をもらってそれから……。

「……眠らされてた?」

「たぶん薬でな」

 肩にシーツが掛けられていることに気づいて。乾がしたのかと聞こうとしてすぐに違うと考える。普通、起こそうとする人間がシーツをかけるようなことはしない。

 机には市原が書いたのだろう『家から出るな』という書置きが置かれていた。

「今、何時?」

 乾が親指で時計を指す。時間は夜の十時を回ろうとしていた。市原の家に来たのがお昼前。それからいろいろあって市原の部屋に入ったのが三時前。おおよそ七時間眠っていたことになる。

「起きたんなら、行くぞ」

「行くってどこに?」

 シーツを下ろしながら乾に尋ねる。行先はなんとなくだがわかる気がした。

「運動公園。親父も市原のやつらも多分同じところだ」

 予想通りの回答を乾はする。

「乾、このまま家で待つっていう方法は取らない?」

「それは嫌だ」

 沢村の提案に即答で返す。


「あいつら、月原組が警察みたいな役割を持っているのは分かる。けどな、それではいそうですかと素直に従えるほど俺は単純じゃない」

 戸を開け部屋を出ていく乾からはどうしても父親に会おうという意思が感じられた。

 ややおいて沢村も部屋を出る。部屋を出てきた沢村に乾は振り返らずに。

「お前は別に来なくてもいい」

「そういうわけにもいかないよ。事情を知って引きこもれるほど単純じゃないし」

 おそらく自分は何もできないだろう。状況によってはむしろ邪魔になるかもしれない。それでも沢村は首を突っ込む。

「もうここまで知っちゃったんだもの。とことんまで付き合うよ」

「……お前、絶対長生きできないぞ」

 苦笑じみた沢村の発言にさすがの乾もあきれる。

 裏口から出ようと提案し乾の前に出る。

「場所分かるのか?」

「何回も遊びに来ていたからね。方向くらいなら知ってる」

 こっちと案内し廊下を渡り裏口方面へと向かい始めた。

 裏口のある辺りまで来て後は外に出るだけというところで問題が起こった。

「見張りがいる……」

 裏口を周回している見張りに見えないよう慌てて死角になる場所に移動しこっそりとみる。

「いつもはいないのに……」

「いつもの状況じゃないからだろ」

 乾の台詞に苦笑する。確かにその通りだ。

「でも、これじゃ出られない」

 沢村の言葉に乾は少し考えこむ。

「……お前、裸足で外に出られるか?」

「え?あー……緊急事態だし大丈夫だけど?」

 要領を得ない質問に自分の足元を見ながら答える。そういえば靴は玄関だ。

「なら別にいいか」

 乾の意図が読めずに戸惑う沢村に乾があきれながら話す。

「お前を背負って走って、それから塀を飛び越える」

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