第2話 幻種というものと普通でないもの7

「浩」

 呆然とする沢村を見て賢人は肩に手をのせ続ける。

「お前のせいじゃない。お前が何もしなくても事件は起こってただろうし、そもそも発見が遅れたかもしれない」

 それに、と少し間をあけ。

「お前が何もしなかったら、お前は幻種というものを知らずに生きていたんだ。それは望んでいたこと?」

 言われて考える。

「それは、違う。驚いたけど……けど」

 幻種という存在はたしかに驚いた。だが、知らなくてよかったかと問われればそれは違うと返せる。

「僕は幻種の存在は知ってよかったって思ってる」

 沢村の答えに市原は「よし」と満足げに肩を叩くのを見て雄介は少し考えこみ。

「賢人、浩君と鉄浪君を連れて部屋で休ませなさい」

「オレは別に……」

「君も休んだ方がいい、家の者相手にそれなりに疲れただろう。ここからは我々の領分だ」

 乾の抗議に雄介はそう言い、蔵から出て行った。出る瞬間、賢人に視線を向け。


 賢人先導で通された部屋は賢人の自室だった。適当に座っててと言って沢村達を座らせ賢人は一度部屋を出ると少しして飲み物を持ってきた。

 乾が飲むのを見て沢村も遅れて飲み人心地つく。

「……さっきは取り乱してごめん」

「んー、あー。いーよいーよ、ああいう風に考えこんじゃうの沢村らしいし」

 ただちょっと落ち着いてほしかったかなーと賢人の言葉に返す言葉もない。

「昨日の今日で寝てないでしょ?だから悪い方悪い方と考えちゃうんだよ」

 乾にとりあえずとジャージを渡した賢人の言葉に頷き返し。

「……あれ、なんだか……」

 眠気が来て瞬きをする。昨日寝ていなかったにしては眠気が急にきたような……。

「ごめん」

「いち、はら……?」

 眠い目で賢人を見る。ぼやける視界の端でジャージに着替えた乾が横に倒れこむのが見えた。

「本当にごめん」

 薬が盛られたと気づいたときには沢村の意識は暗い闇へと落ちていった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る