第2話 幻種というものと普通でないもの6

「おふくろが、オレは親父の血を引いているって話してくれた」

 人狼、乾が話したことは乾自身の家庭環境に起因するものだった。

「親父は、オレがガキの頃にはもういなくて。おふくろに聞いてもオレを産む前にいなくなったとしか言わなかった」

「獣化の能力が顕現するようになったのは?」

「中一の冬。……静電気で驚いた拍子に」

 ぐっと抑えた笑い声が賢人から漏れ出た。雄介と乾の視線に耐えきれなかった賢人は「ごめん、続けて」と先を促す。

「……家で獣化して驚いたけど、おふくろが怖がらなくていいって親父の事を話した」


 乾が言うには母親が若いころに知り合い、ある時に父親が人狼だと偶然に知ってしまったらしい。だが乾の母親はそれに取り乱しもせずに愛し、そして乾を身ごもった。それに前後して乾の父親は失踪。これには母方の両親も激怒したが、子供に罪はないと母親は出産を決意。彼女の両親も娘がそういうならと、彼女の選択を尊重した。

 そうして産まれたのが幻種・極東人狼種の『乾鉄浪』だ。


「……おふくろは、親父が人狼だって知ったけど幻種っていうのは多分何も知らない」

 鎖の拘束が解かれた乾は獣化をとき人の姿で話しを続ける。

「テレビでやってる殺人事件、あれが親父がやったってなんとなくだけどわかった。だからオレは昨日、公園に行って親父に会おうと……」

「ちょっと待って」

 乾の言葉につい待ったをかける。

「犯人が乾の父親っていうのは、よくわかんないから置いとくとして。乾は昨日初めてあの公園に行ったってこと?」

 乾は違うと返し。

「正確にいえば二日前。お前とぶつかったあの日も公園に行ってた。……その時は空振りだったけどな」

「なんで公園にいるってわかったの?」

 沢村の疑問に乾は少し考え、「……匂い」と言葉を選ぶように答えた。

「あの公園から、電気の匂いがしたんだ」

「電気の匂い?」

「俺が獣化した時に出てくる匂いと同じだから、お前が想像してるのとは違う」

「幻種の中には、人間には知覚しづらい特有の匂いをするものがいる。彼の言う電気の匂いもそれ本物ではなく人狼種特有のもので間違いないだろう」

「そういうのわかるんですか?」

「そういうものを検知する道具はあるからね。ただの人でもある程度までならわかるものだよ」

 雄介の補足説明に沢村はなるほどと返す。

「昨日は獣化までして調べる範囲を広げようとしていたのに、お前が急に出てきたからろくに調べられなかった」

 責める乾の言葉に沢村はごめんと謝り、そしてはっとした。

「……あの時、僕が公園に行かなければ事件は起こらなかった?」

 自分が動いたせいで誰かが死んでしまった。それはつまり。

「僕が乾の後を追わなければ何の関係のない人が死なずに済んだ……?」

「浩君、それは」

「僕のせいで……」

 雄介の制止を聞かず震える声で沢村は叫んだ。

「僕のせいで、一般の人が死んだってつまり。間接的に僕がその人を……」

 乾いた音があたりに響いた。頬をはたかれたと気づいたら、痛みがはたかれた部分からわき上がる。

 言い切る前に沢村の頬をはたいたのは、賢人だった。

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