おねいろのどうろも

牛田濤馬

第1話

僕は空を飛んでいた---


僕は知っている。頭を上げて、腕を羽ばたかせれば、高く飛べることを。

 頭を下げて、腕をすぼめれば、すばやく滑空できることを。

足をばたつかせて、アクセルをかけることも。


危うく木にぶつかりそうになる。首を左にかしげれば右に旋回するので森の周りをくるくる廻っている。


どこに行くのだったか。そうか会社に行かなければならないの。だ。けどなんで私はいつも飛んでいかなかったのだっけ。


飛んでいければ学校への道のりなんてすぐなのに。そう、ほんのわずかのまに。


そうそういつも自転車に乗っていっているんだった。今日は自転車を忘れてきた。これじゃあ学校に行くまでに時間がかかるからとりに帰らなきゃ。でも道のりのすでにはんぶんはきてしまった。とりにかえるのはめんどうだなあ。


 そうだ今日はカバンも持っていない。これはとりに帰らなきゃいけない。なんでこんなものを忘れて僕はこの道を歩いているのだ。


そう思うと、とたんにあしどりが重くなる。一歩一歩が進まない。もう行かなくちゃいけないのに、布団から出ることができない。布団がおもい、私はおもう。でも目がさめたら、ごはんもさめた。パンを噛んだら歯がこぼれる。ぽろぽろと、ぽろぽろと歯がこぼれていく。あと何本残っている?


 一本、二本、三本、あれいま何本?口の中が溶けていく感覚がこそばゆいのか、雨がポロポロ降っている。雨はつめたいから傘をささなければ。傘を僕はよく忘れるから、折りたたみを買わなくちゃ。そうだいつものみちを自転車で行ってみよう。いつも電車で二時間かかるけど、学校は家の裏にあったっけ。森を抜けて林を抜けて、学校の裏につけ。自転車は電車の中に持ち込んだ。持って帰るのは大変だ。


今日の仕事はなんだっけ。やるべき仕事をしないままに、時間が時間が進んでいく。寝てばかりのこの僕は、何をすべきなのだろう。


トイレに行きたかったんだ。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

おねいろのどうろも 牛田濤馬 @Toma-Andrea-Ushida

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

フォローしてこの作品の続きを読もう

この小説のおすすめレビューを見る