第2話 第一異世界人発見

 イオリは謎の建造物で出会ったハクとケティと一緒に徒歩で移動していた。ハクは一国の王に仕える家臣の一人だという。自己紹介もお互いやり終え、現在三人はハクのいる国――スターチス王国へと向かっていた。とりあえず主要な道路へ出て、運良く徒歩よりも速い移動手段を持つ者が通りがかれば乗せてもらう。そういう算段だった。しかしハク曰く、徒歩でもなんとか夜頃に着くかつかないかくらいの距離らしいので、どちらでも良いかな、とイオリは思う。

 そしてイオリは歩いている間、メニューを開き、ギルドチャットに文字を打ち込んでいた。最初に開いたときは気付かなかったが、盗賊達へお金を渡すためにメニューを開いたとき、ギルドチャットのところに通知が来ている事を示すマークが付いていたので、道中暇つぶしがてら見ることにしていた。因みにお金は、気絶している盗賊達のところへ置いていった。慰謝料替わりである。

 ギルドチャットに入ればギルド員全員(全員とは言っても十三人しかいないが)ログイン状態だった。しかし不思議なことにフレンドの方には、ギルド員でフレンド登録している人以外ログアウト状態だった。

 因みにギルドチャットの方だが、ギルドの団長から『レンちゃん今どこにいるの?』という内容だけ送られてきていた。イオリは『スターチス王国ってとこに案内してもらってる』と返した。すると『誰か説明役を送る』とだけ来て、その後は特になにもなかった。

 一人チャットを前に小首をかしげているイオリだったが。


「……」

「じー」

「……」

「じー」

 

 ハクがじっとイオリの方を見ていた。 


「あの、ボクの顔になにか付いてます?」

「いや、付いてないよー。さっきから何してるのかなーって思ってさ」


 そう言いながらハクの目線はイオリの手元ではなく、顔に向いていた。


「ギルドの人からメッセージが来ていて」

「へー。なんてギルドなの?」


 ハクにはイオリの事情(異世界転生してきたとか、ゲームでの自分のアバターの力が使えるなど)を伝えてはいる。「何言ってんだこいつ?」という反応が返ってくると思っていたイオリだが、ハクは「それは大変だね」といたわるような言葉を返してきた。

 なんとも信じがたいが、スターチス王国にもイオリと同じ事情の人が一人いるとのことだった。それもハクと同じく王国に使えているとのこと。


「マイナーだから多分知らないと思いますよ?」

「いいから、いいから」

「じゅ『十三日目の今日』って名前ですけど」

「えっ。マイナーじゃないじゃん! とーっても有名な商業ギルドじゃん!」

「あ、有名なんですか。しかも商業か……」


 マイナー――少なくとも『黄昏ログイン』内ではギルドランキング圏外のギルドである。それもその筈。元々わちゃわちゃ身内を作って仲良く楽しもうぜ、という目的で集まった集団である。十三人限定という縛りで団長が募集し、当時団長とフレンドであり従姉妹同士だったイオリともう二人のメンバーが創立者として作成し、他九名が後から加入した。それから一人も抜けず、かと言って新たに入れるということもせず、今まで来た。

 ガチ勢というわけでもないにしろ、取得難易度激高の隠しクラス持ちがイオリ含め四人いるという異色なギルドである。他ギルドでも隠しクラスの人は十人以上いたりするが、ギルド員の数が百から二百だったりする。なので割合的な意味で珍しい。

 そしてギルド員十三人全員レベルは限界まで上がっている。レベル上げは割と苦ではないのがこのゲームのいいところである。現実での運動神経が多少反映されるので難色を示す者もいたが。

 しかしイオリは協力戦やPvP戦などに出ればブッちぎりで戦績一位になるほどのトップランカーだった。そのため『十三日目の今日』はマイナーではあっても名前だけは有名である。トップランカーがいる圏外ギルドとして。

 そして商業という単語を聞いたとき、イオリは真っ先に団長の顔が真っ先に浮かんだ。それもアカウントの顔ではなく、中の人の顔である。中の人はリアルで、バリバリ海外進出している大手商業会社のキャリアウーマンである。メンバーの数を考えればバトル的に無双できないのは目に見えているので、経済で無双するかという団長の思惑が見え透いている。

 割とノリで行動しているギルドなので色々と読みやすい上に、ギルド員全員でオフ会を十数回やっているため割と人となりはわかっているつもりでいる。そもそも団長が従姉妹同士である創設者メンバーをこのゲームに誘ったという経緯があるのだが。

 ギルドの現状を聞くにイオリが来るよりもだいぶ前に他のメンバーはこちらの世界に来たのではないかと推測する。


「そうです。有名ですよ? なんでも売ってますし、色々と開発していますからねえ……後ろめたいことやってるって噂もあるんですが、実害がどこにも出ていないので信用されています。最初は情報屋だったということが、後ろめたいことやってる噂が出た原因だとは思うんだけどね」

「そうなんだ。なんていうか、もうボクの手の届かない所へ行ってしまってる気がする」

「ギルドができて三十年ほど経ってるみたいだけど。早いよねえ。ま、メンバーが全員英雄種みたいだからかね。歳取らないし、そこら辺でイメージがいいのかねえ」

「に、二十年……あ、その英雄種ってなに?」

「ああ、レンデルちゃんみたいに別世界から来た人のことだよ。歳をとらず、いつまでも姿が変わらない、その上とても強い人が多い。ま、一般では冒険者登録していないのに冒険者の資格を持っている人のことを指すんだけどね。あと別世界から来た人って言ってるの私みたいにそういう事情に詳しい人しか言ってないから、他所よそで言わない方がいいよ」

「肝に銘じておきます。……じゃあハクさんは」

「ハクちゃんでいいよ! それに敬語もいいよ。私達の中じゃん!」


(どんな仲だよ)


「……ハクちゃんは冒険者登録はしているの?」

「してないよ。登録すると職業技能クラススキルが簡単に得られるみたいだけれど、私は己で鍛えた技と、家に代々伝わる魔法で十分だから。クラススキルに関して言えば、あれ独学でも取得できるらしいですけどね。ま、私も知らぬ間にいくつか習得しているみたいだけど」

「そうなんだ」


 話を聞けば冒険者というのは未知の界域への探索やモンスターの討伐が主な仕事であるのはこの世界も同じであった。

 そうこうしている内に三人はスターチス王国が肉眼でも見えるくらいの距離まで来ていた。空は既に日が沈み、暗くなっている。


「おっと、やっぱ城壁の門閉まっちゃってるな……私がいれば開けてもらえるだろうけど、ちょっと急ごう」


 ハクはそう言うなり、ケティをお姫様抱っこし、駆け出す。イオリもそれについていく形で走り出す。女の子一人抱えているにも関わらずハクの走る速度は速かった。イオリはそれに苦もなくついて行っているが、そのこと自体に困惑している。


(現実よりも身体能力上がってる……当然っちゃ当然だろうけど)



***



 スターチス王国の隣国であるムロク王国にある商業ギルド『十三日目の今日』の団長室にて二人の女性がいた。


「レンちゃんがやっとこの世界に来てくれた。かれこれ二十年ほど待ったね」

「そうですね。レンデルちゃんがいないので色々と足元見られ続けましたもんね」


 一人はスラックスにカッターシャツを身に付け、さらにその上から白衣を着ている。

 もう一人は浴衣を着流した少々民族衣装チックな格好の黒髪の女性。髪は後ろで一つに束ねている。


「まあ、メンバー全員が一度にこの世界に来たわけでもなかったしね。一番乗りが私だったってだけだし。にしても遅すぎよねえ。なにかパターンでもあるのかしら?」

「さあ、どうでしょ。そういうことはメタ子さんに任せているんですよね」

「うん。……さて、じゃ、メッセンジャーとしてちゃんと伝えといてね。チャットで伝えられるのには限度があるし、一応掲示板替わりだからね。実際会って話して貰った方が早いわ」

「ええ、行ってきます。団長」


 浴衣の女性は部屋を出る。

 団長――白衣を着た女性はアラン。もちろんこの名前はハンドルネームであり、リアルの名前は別にあるのだが。二十九歳独身というのが彼女のコンプレックスであり、周りからネタにされる看板である。

 彼女もイオリと同じくゲーム内のアバターではなく、現実の自分の格好である。蛇足だが、アランは普段家では全裸のため、そのままログインしてこの世界に来たのだ。あとはお察しの通り非常に恥ずかしい思いをしたのである。

 先ほどの浴衣の女性もギルド員であり、副団長、そしてイオリとアラン、もうひとりの副団長とは従姉妹同士である。


「さてさて、この国も少々きな臭くなってきたし……次の手を打つべきよねえ。ま、その前に寝ましょ。あー疲れた!」


 彼女は自分の部屋へ戻り就寝の準備に取り掛かった。

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