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 岡田さんは探すまでもなく教室にいた。この状態では体育館へ行けないのだろう。

 網野さんは岡田さんを見つけるやいなや、すぐにかけて行って、

「岡田さん、詳しい話を聞かせてくれる?」

と机にぶつかりながら言った。岡田さんとはほぼゼロ距離だった。

「網野さん、そんなに詰め寄っちゃ答えられるものも答えられないよ。

 岡田さん、クラス委員で探すことになったから、盗難に気づいた状況とか、事件に関係ありそうなことを教えてもらえるとありがたいんだけれど」

 岡田さんは網野さんの接近に一瞬驚いた様子だったが、たどたどしく答えた。

「私のせいでこんなことになっちゃって、ごめんね。私もある程度探したんだけど、結論、盗まれたとしか言えなくて。

 盗まれた状況というか、私が気づいた時が、学校に来て、ロッカーからTシャツを出そうとした時で。ヤスリで削られたように鍵が壊れてたの」

「なるほど、あれはヤスリの傷だったのね。私には分からなかったわ。よくあの傷がヤスリによるものだってわかったわね?」

気のせいかもしれないけど、岡田さんの顔が少し紅潮した。

「そうかな、って思っただけよ。ああいうのって削って壊すものでしょ? ……そのほかに何か手がかりになりそうなことは知らないわ」

「ヤスリ、ヤスリね。ありがとう。捜査がちょっと進展したかも」

「捜査だなんて大げさな。私もありそうなところを探してみるわ。見つかったら教えてね」


 岡田さんの席を少し離れたところで、僕は網野さんに話しかけた。

「あの岡田さんのヤスリの発言、どうだと思う?」

「結城くんも気づいたのね。でも、岡田さんが犯人だっていうの?」

「それも変だなって思って。岡田さんが自作自演することで、なにか利点があるとは思えないし。でもあの発言は見過ごすべきじゃないとも思うんだけど」

「私の個人的な感想だけれど、岡田さんが犯人だったら、もっといろいろな手がかりを残してくれていたと思うの。現に、唯一の手がかりを彼女が作ってくれたじゃない」

「手がかりって言ってもねぇ、これからどう探していけばいいのかさっぱりだよ」

「もう一人聞きたいことがある人がいるの。どこにいるかな。あっ、惣田さん、ちょうどよかった。聞きたいことがあるんだけど、少し時間ある?」

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