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体育大会の喧騒は丸ごと体育館に納められていて、ロッカーは静かだった。僕たちしかいない。岡田と書かれたロッカーを網野さんは検分していた。
ロッカーに遺された壊れた南京錠を網野さんは触りながら言った。
「鍵が切られてるわね。表面がギザギザしてる」
「本当だ。ニッパかなにか工具を使えば切れるかな?」
「……でも、これって嘘っぽいよね」
「嘘っぽい?」
「鍵を壊したことを主張してるみたい。壊した鍵なんて何処かに捨ててしまえばいいのに」
網野さんと話していると時々思うのだけれど、網野さんの発想はどこか裏返っているように思う。『こうである』ではなく『こうとも考えられる』という風に考えているみたいだ。僕はそういう考え方はできない。現象は現象で、推測は推測だと思う。
「犯人……、とこの場合言うんだろうけど、犯人が鍵を捨てなければならない必然的な要因はないよね。考えすぎなんじゃないかな」
「必然的な要因……。随分回りくどい言い方をするのね。まあ確かに、十中八九偶然で何の意味もないことよね。でも私、自分が面白いように世界が回ってほしいって、つい思っちゃうのよ」
それでは世界は網野さんを中心に回っていることになってしまう。網野さんの誇大妄想は置いておいて、
「なにか手がかりになりそうなものは……ないかな」
僕は網野さんとともにロッカーの周りを探し回った。僕はロッカーの隙間を、遺留品が落ちていることに望みをかけて探した。おかげで随分埃にまみれてしまった。
網野さんはロッカーの中を調べている。
「あら、Tシャツがないわね。当然か。他にもごちゃごちゃ入ってるのね。岡田さんって整頓できない人なのかしら」
ロッカーを捏ねくり回されて、さらに整理整頓ができないレッテルまで貼られて、岡田さんは大変だろう。
「ごちゃごちゃしてるけど何にも無さそうね。ちょっとこっちものぞいてみよう」
「網野さん、ちょっと、隣のロッカーは関係ないんだから覗いたりしちゃダメだよ。そもそも鍵がかかってるのにどうやって」
「このロッカーの持ち主が犯人かもしれないじゃない。容疑者だから無関係じゃないわ。」
「その理屈でいくと僕も容疑者になっちゃうよ」
「あら、結城くん、貴方が犯人だったの?」
たわいもない問答である。
「やっぱりまずいって。もうここには何もなさそうだし、岡田さんに話を聞きに行った方が早いんじゃないかな」
「ここには何もないってどうしてわかるの? ほら、ロッカーの隙間とか」
「僕の格好見てわからないかな」
「どうしてそんなに埃まみれなの? 払った方がいいわよ」
「ロッカーの隙間を探してたからこうなったんだよ! もう探したの!」
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