2

 岡田さんがTシャツを盗まれたと言い出したのは朝礼中のことだった。係連絡のときに岡田さんが、

「私のTシャツが盗まれました。このままではTシャツを着ることができません。盗んだ人は直ちに名乗り出てください」

と言ったのだ。もちろん、この一言でクラスは荒れた。

 クラスTシャツは全員で着なければならない。という規則は、おそらく各々が勝手な格好をしないようにするためのものだ。しかし、このルールは連帯責任に他ならない。誰かがTシャツを紛失したりすれば、誰も着ることができないのだ。

 先生は朝会をまとめることに躍起になっていた。

「次がつかえてるんだ。とりあえずこの会を終わりにして、Tシャツは着ずに体育大会に出るように。そうは言ったって先生だって大会運営で忙しいんだ。そうだ、クラス委員、岡田のTシャツを探してやってくれ。見つかり次第Tシャツ着用を許可する」

 ということで、Tシャツ(犯人)探しはクラス委員である僕たちに一任されたしまった。

クラス委員は男女ペアで、僕ともう1人、網野さんの二人だった。

網野さんは朝会が終わった後、すぐに僕のところに来て、

「結城くん、Tシャツを探さなくちゃいけなくなったことはわかってるわよね。行くよ」

「行くってどこに?」

「ロッカーよ。現場百遍っていうでしょ」

 僕はTシャツ探しについて、乗り気じゃないどころかとても面倒に思っていたけれど、網野さんはそうではないようだ。現場百遍なんて、刑事気取りで張り切っている。浅い付き合いだけれど、僕は網野さんのこういうところがいいと思っている。へんな意味じゃなくて。


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る