第3話
「よくぞ来てくれた。勇者サトウよ。まずは国を代表してこの国王ガゼルが礼を言おう。」
宝石が散りばめられた豪華な玉座。そこに座っているのは、この世界の国王。名をガゼルというらしい。城の中は、ザ・中世という感じだが、実際に目の当たりにするとその荘厳さに圧倒される。
「すでにアレイアから話は聞いているだろうが、お主には勇者として魔王討伐をお願いしたい。」
「お言葉ですが、私は前の世界では只のサラリーマンでして……。サラリーマンというのは、その……。ともかく! 僕ごときが魔王とやらを倒せるとは思えないのですが……。」
不安な僕を尻目に、ガゼル王はガハハと笑い、そんな事は心配ないと言った。
「そのあたりは、全部アレイアが慣れているので気にするでない。あらゆるサポートは彼女が行うのでな。」
「はあ……。」
「わしから言っておかなければならない事はただ一つ。実は、お主以外にも勇者は何人かあるのじゃよ。」
「僕の他にも、勇者が?」
「そうじゃ。彼らはすでに勇者として幾ばくかの実績を積んでおる。」
(なら。僕いらなくね?)
と思ったのもつかの間。ガゼル王は信じがたいことを口にした。
「お主は、他のどの勇者よりも早く魔王を討伐するのじゃ。さもなくば、死ぬ。確実にな。」
蓄えたあごひげをさすりながら、ガゼル王は僕の反応を伺っている。
いきなりの死刑宣告に、僕は頭が追いつかなかった。魔王を一番に倒さなければ死ぬ?
それはつまり、役に立たなかったら国王に処刑されるということか?
「それは違いますよ。サトウ様。王様は処刑なんて大嫌いですから、そんな事はいたしません。ええ、絶対に。」
僕の後ろで一緒に話を聞いていたアレイアの声だ。頭の中を読んだかのように、僕の疑問に背後から淀みなく答える。
「誰か1人、勇者が魔王を倒すと、他の勇者はその瞬間に体が爆発して死んでしまうのです。」
は……? なにそれ。意味わからないんですけど?
「わかります。その気持ち。他の勇者さんも、みんな同じ反応してましたから。でも安心してください。徐々に受け入れられますよ。」
淡々と説明するアレイア。振り返って彼女の顔を見てみる。その表情の変化の無さが、僕にはとても不気味だった。
大体どんなブラック企業だって、ノルマが達成できなかったとしても体が爆発するなんて事はない。この話が本当だとしたら、最悪だと思っていた元職場が可愛いくらいだ。
……馬鹿馬鹿しい! やってられるか。
「やはり、私には荷が重いです。勇者は辞退させていただけませんか?」
僕は頭を深々下げ、辞退を願い出る。なんで見ず知らずの世界に来て命まで取られなければいけないのだ。大体一回死んでるんだぞ!
「勇者サトウよ。それはできぬ相談だ。」
ガゼル王の口調が途端に厳しくなった。
「それはなぜですか? 他にも勇者がいるなら、彼らが魔王を倒してくれるのですよね?」
「そんな事は関係ないのだ。もう、お主は辞退することはできぬ。持っている四角い機械の画面を見てみよ。」
四角い機械? スマホのことか? 異世界に来ても持ってるものなのか? そういえば、服もスーツのままだし、当然といえば当然か。って、そんな事は今はどうでもいい!
僕はポケットにあったスマホの電源を入れる。インストールした記憶のないアプリが一つ入っていた。昔懐かしい何かのRPGゲームのような、そんなアイコンだ。
タップすると、真っ暗な画面の中央に時間が表示された。どんどん時間が減り続けている。時間を図るタイマーのようだ。
あと、23時間30分。 なんの時間なんだ?
画面の上の方には、画像が荒いがゲームに出てくるようなモンスターの絵が描いてある。これにも何か意味があるのだろうか。
「それが、お主に課せられた最初の使命だ。そこに示された時間内に、描かれている魔物を倒さなければ死ぬのじゃ。」
ええ? なにそれ? 嘘でしょ?
「というわけで、魔王討伐まで使命を果たし生き延びるのじゃ。では、わしはこれで失礼する。」
そう言ってガゼル国王は、お付きのものと出て行ってしまった。
これで終わり? 説明これだけ? 少なすぎでしょ。仮にも勇者なんだよな。対応がひどすぎないか……。
「まあまあ、あとは私がサポートしますからご安心ください。」
うなだれて崩れ落ちる僕の背中を、アレイアが柔らかな手で撫でる。彼女には、人を癒す力があるのだろう。触れられていると、とても安心してしまう。
だが、僕には先にアレイアに聞いておきたいことがあった。
「ちょっと教えて欲しいんだけど。」
「なんでしょうか、サトウ様。私にお応えできることであればなんなりと。」
「今まで、何人の勇者のサポートをした?」
首を傾げて少し考えた後、彼女は屈託のない笑顔で言った。
「98人です! だからサトウ様が99人目なんですよ。ちなみに、魔王を倒せた勇者様は今のところ……」
「今のところ?」
聞きたいですか? と言うアレイアに対してごくりと唾を飲む僕。続きの言葉なんて、聞きたくなかった。でも、聞かなければ進めない。状況を理解するためにも必要なことなんだ。
聞きたい、と答えた僕に、アレイアは一瞬とまどうそぶりを見せた。が、すぐに
「ゼロです!」
最初会ったときに僕に見せてくれたように、彼女はニコリと答えた。
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