第2話

「やっとお目覚めになりましたね! おはようございます。勇者サトウ様。」


 甘い女性の声に気づき、僕はゆっくり目を開けた。目の前には、メイド服を着た黒髪の女の子がにっこり微笑んでいた。その顔のあまりの近さに、僕は思わず仰け反った。


「き、君は一体!? それより、僕は確かに車に轢かれて……!」

「はい! サトウ様は確かにトラックにはねられて、交通事故でお亡くなりになりました。」

「じゃあなに? ここは天国? それとも地獄? 馬鹿にしてるのか?」

「うーんとですね。ある意味それに近いものかもしれません。」

「もったいぶらないで早く教えてくれ!」

「まあ、強いて言えば、『異世界』とでも申し上げましょうか。サトウ様がこれまで生きてこられた世界とは別の世界と。」


 異世界……。なんとなく聞いたことはあったが、まさか自分がくるとは思わなかった。


 ……そうだ。思い出してきた。いつものように会社からクタクタに疲れた帰り道。上司に叱責され、取引先から罵倒され、憂鬱な気持ちで信号待ちをしていたときだ。赤信号で飛び出してきた子猫を助けようとして、道路に飛び出したのだ。


 そこから先は記憶がない。ただ、何かにぶつかった感触、そして、体の感覚がなくなり動かなくなったことだけは自覚していた。


 あの子猫は、どうなったのだろうか。せっかく命を張ったのだから、生きていてほしいものだ。今となっては、確認するすべもないが……。


「で、僕はこれからどうすればいいのかな?」

「サトウ様には、この世界で、魔物を討伐する勇者として生きていただきます。」

「魔物を倒す勇者? 僕が?」

「そうです! 勇者です。嬉しいですよね? みんなの憧れのヒーローですよ?!」

「嬉しいかと言われても……。」

「照れなくて結構です。あと、私のことはアレイアとおよびください。勇者様専属メイドとして、これからサトウ様の身の回りのお世話をさせていただきます。」


 アレイアは、僕のほおに優しく手を添えた。それだけで、混乱していた僕の気持ちは、なんだか凄く落ち着いた。


「それではサトウ様、早速ですが王様がお待ちです。私についてきていただけますか?」






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