第387話 集合と後輩ちゃん
2021年最初の投稿です!
今年もよろしくお願いします。
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目を瞑って数分後、クラスの女子の一人がバスの中に入ってきた。
「いっちばーん! じゃなかったか……って、どわぁっ!?」
まだ集合時間には早い。一番だと思ったのだろうが、残念。俺たちが一番でした。桜先生に車で送ってもらったからね。
驚きの声が上がったからバスの階段で滑ったのかなぁと目を開けると、ギョッと目を見開いて俺たちを見ている彼女と目が合った。
パチパチ、パチパチパチ。
瞬きが激しい。ドライアイか?
「おはよ。どした?」
「あっ、おはよ。いや、イケメンと美少女の寝顔があったから驚いただけ……写真撮っていい?」
「だーめ」
「ちっ!」
し、舌打ち!? 魔女みたいにあくどい顔で舌打ちされた!?
彼女の胸の前にはいつの間にかスマートフォンがスタンバイしている。ご丁寧にレンズは俺たちを向き、指は自然な動作でタッチパネルを押しているようだ。
……こやつ、シャッター音が鳴らないアプリケーションを利用して盗撮をしておるな?
「写真撮ってるだろ」
「私、写真なんか撮ってませんもーん!」
「……動画を止めろ」
「な、何のことかなぁー? 私、知らなーい!」
「誤魔化す気あるのか? あり得ないほど棒読み口調だぞ」
「ちっ!」
また舌打ちをして、渋々動画を切る彼女。まったく、俺たちを録画しても何も面白くないだろうに。
スススッと近寄ってきた彼女は、後輩ちゃんを起こさないように俺の耳元で囁く。
「盗撮したお詫びに宅島君に送ってあげるね」
「そりゃどうも」
貰えるものはありがたく貰っておく。第三者に撮影してもらうと、自撮りしたものとは違う映像や写真になる。
俺たちの写真は自撮りが多いから結構嬉しかったりする。思い出コレクションが増えるな。
「ふぁ~あ……」
「眠そうだね。朝早かったもんねぇー。私も眠いよー」
「だな。特に、どこかの仲良し姉妹が早起きでさ、気持ちよく寝ているところを叩き起こされた」
「何時? 5時くらい?」
「午前2時半過ぎ」
「は?」
「午前2時半過ぎです……」
「それってまだ夜中じゃん! うわぁ……ご愁傷様です」
可哀想、とクラスの女子は憐れんだ眼差し。元凶の仲良し姉妹の妹は、俺の肩にもたれかかってスピースピーと気持ちよさそうに寝ている。寝息がくすぐったい。
だから寝ているのかぁ、と後輩ちゃんの寝顔を眺めて彼女は納得顔。
すると、またクラスメイトがバスに入ってきた。女子二人だ。
「おっはーって、うおぉっ!?」
「なになに? どした……うひゃっ!?」
「あはは。おっはよー。そうなるよねぇ」
いや、だから何でそうなるの? 何故驚く? 後輩ちゃんがただ寝ているだけなのに。
「なにこれ。天使かっ!? 眠気が一気に吹き飛んだんだけど!」
「羨ましい。あたし、寝顔ぶっさいくなのに、どうやったらこんなに可愛く寝られるの!?」
それほどだろうか? いつも通り少し間抜けな寝顔じゃないか。今にも口がむにゃむにゃと動き、涎が垂れそうだ。
ちなみに、いつでも涎が垂れてもいいように、片手はハンカチを常に握っています。
その後も続々とクラスメイトが到着する。
「おは……うひっ!?」
「はよー……はいっ!?」
「どうしたんだ……はぁっ!?」
「なんだなんだ……? へ?」
「前進めよ。寒いから早く中に入りたい……ん……だが……?」
「おーい。どうなってんだー? 早く中に入れてくれー! さみーよ!」
バスへと入ってくるたびに、ピシリと固まる女子。ピシャーンと雷が落ちたかのように硬直する男子。
ウチのクラスはバスの中に入るのにも一苦労。
前が詰まっているので後ろには行列ができている。どうしたんだと覗き込んだ後ろのクラスメイトも、原因の後輩ちゃんの寝顔を見てしまい、そこで固まってしまう。
なんかウチの後輩ちゃんが申し訳ございません。そして、早く前に進んでバスの中に入ってください。暖かい空気が逃げて冷たい空気が入ってくるから。前方の席にいると寒いです。
「朝から良いもの見れたわー。ありがたやぁ~ありがたやぁ~」
「外の寒さなんてぶっ飛んじゃった。熱々バカ夫婦、お幸せに!」
「死ね!」
「死ねゴラァ! 朝っぱらからイチャつくんじゃねぇー!」
「死に晒せ! ちくしょー!」
「シネシネシネシネシネシネシネシネシネシネシネシネ!」
「葉月たん、かわゆす……はぁ……はぁ!」
女子と男子の差! 女子は肯定的なのに、男子は通りすがりに必ず俺の殺害予告をしていく。後輩ちゃんを起こさないように囁き声なのが逆に恐ろしいわ!
って、一番最後のやつは誰だ!? 変態か!?
あっ、女子か。なら許す。だけど、それは年頃の乙女として大丈夫?
「みなさーん! おはようございます」
若い添乗員さんが階段を駆け上がってきた。朝早くからお仕事お疲れ様です。
美人で若い添乗員さんに男子たちが色めき立つ。
取り敢えず、その血走った瞳と荒い鼻息をやめなさい。歓声くらいなら大丈夫だから。
「出発時間までもう少しありますが、必ずお手洗いを済ませておいてくださいね! 最初の休憩は出発してから一時間後ですので!」
「「「 はーい! 」」」
「おぉっ!? 元気な返事ですね!」
予想外の返事に添乗員さんは一瞬驚く。すぐにニコッと微笑み、男子たちは見事に撃沈。これは堕ちたかな?
ウチのクラスは素直な返事だけは得意なんです。返事だけは小学校低学年にも負けません。
そろそろ後輩ちゃんを起こそう。俺もお手洗いを済ませたい。
「後輩ちゃん後輩ちゃん。起きて」
「うみゅ~……いやぁ……!」
後輩ちゃんの寝起きは悪い。今日はあれだけ早く起きたのに。
ぐずる後輩ちゃんは俺の首筋に顔を埋めてスリスリ、フガフガ、モゾモゾ。はふぅ~、と息を吐いて夢の中に旅立とうとする。
「おいコラ起きろ!」
「んぅ~……んぅ~……! んふぅ~……!」
「可愛い声を出してもダメです! 起きなさい」
「むぅ~……しぇんぱいしゅきぃ~……!」
「甘えてもダメです。後で寝ていいから」
「んみゅ~……」
数分かけてやっと後輩ちゃんの目が開く。大きな欠伸をして背伸び。バスの天井に手がぶつかりつつ、何とか立ち上がった後輩ちゃん。
「んはぁ~……って、なに!? どしたの!?」
まだ眠気と戦っていた後輩ちゃんは、突然なにかにギョッとして覚醒した。
ふと見ると、バスの中にいるクラスメイトが全員固まって俺たちを凝視していた。表情が凍り付いている。
ホラーみたいで怖いんだけど。後輩ちゃんの眠気が吹き飛ぶのも無理はない。
ハッと我に返ったクラスメイト達。何の前触れも無しに彼らは一斉に声を荒げた。
「「「 リア充バカ夫婦なんて爆発しろぉー! 」」」
「「 突然なんなのっ!? 」」
訳が分からない俺と後輩ちゃん。クラスメイト達は、その後一斉に胸焼けしたかのように胃の辺りを撫でるのであった。
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