第385話 積み込み作業と後輩ちゃん

 

 今日は朝早くから修学旅行の荷物の積み込みがある。一番最初のクラスは7時かららしい。


 まあ、ウチのクラスですけど。


 桜先生も早く行くことになっているそうで、俺と後輩ちゃんは車に乗せてもらった。冬の日の出前にキャリーバッグをコロコロしながら登校するのは寒すぎる。


 トテトテと真面目に歩く生徒も多いだろうが、すまん。俺たちは不真面目なんだ。寒いのは嫌だ。



「はい、とーちゃーく! 忘れ物しないでねー」


「「 はーい。ありがとー! 」」


「いいのよ、弟くん、妹ちゃん! 二人のためならお姉ちゃんはなんだってするわ! 犯罪行為以外は!」



 桜先生がまともだ。…………まともってなんだろう?



「そろそろ家の姉モードから仕事モードになった方が良いんじゃないか?」


「ふっふっふ。知ってる、弟くん? 外交官の車はその国の領土とみなされるのよ。ということは、この車の中は家! 家の領土! なので家のお姉ちゃんモードでも問題なーし!」



 ドヤ顔の桜先生が運転席から外に出た。クルッとモデルのように一回転して俺たちを指さすようにビシッと決めポーズ。



「一歩出ればこの通り! 美人でクールなお姉ちゃんモードへ大変身!」



 …………あのぉ~、仕事モードはどこへ行ったんです? 明らかに家のお姉ちゃんモードじゃん。全然変わっていない。


 この姉は本当に大丈夫だろうか? 最近、ポンコツ残念さがますます酷くなっている気がする。甘やかしすぎたか?


 これからは弟として厳しく接して躾けて行かなくては!


 桜先生と別れて、俺と後輩ちゃんはキャリーバッグをコロコロさせながら教室へ向かう。もう既に登校しているクラスメイトがいた。皆大荷物。


 時間となったら荷物を持って体育館へ集合だ。体育館の傍に運搬トラックが停められているのだ。教室に来る前にチラッと見えた。


 全員そろう必要はない。体育館に着いた人から順番に荷物を入れていく。



「先輩! そろそろ行きましょう!」


「そうだな」



 荷物を持って後輩ちゃんと仲良く体育館へ。最初だから人は少ない。先生方、朝早くからお疲れ様です。


 俺たちの前にはクラスの男子が三人ほど丁度トラックへ荷物を入れているところだった。空っぽの荷台に乗った運転手さんが、重い荷物を持ち上げて奥へとキッチリ入れていく。


 走行中に荷物が動いたら大変だからな。



「はい、次の人どうぞ」


「おっはようございまーす! お願いしますね!」


「おはようございます。お願いします」


「はいよ。任せな!」



 ニカっと笑う運転手のおじさん。うん、良い人だ。荷物を持ち上げ、荷台の奥へ。


 俺たちの荷物、よろしくお願いします。


 それにしても、荷物を持ち上げるのは大変そうだ。はっ!? そうだ!



「後輩ちゃん後輩ちゃん」


「はい、なんですか?」


「さっきの男子三人を連れてきてくれないか?」


「了解です!」



 トトトッと駆けていき、帰りかけていた男子たちに声をかける後輩ちゃん。



「そこの男子三人! 止まれ!」


「「「 イチッ! ニッ! 」」」


「回れ~右!」


「「「 イチッ! ニッ! サンッ! 」」」



 …………えーっと、なに? 集団行動? 行進? 男子って後輩ちゃんというか女子に調教されているの? 知らなかったんだけど。男子が不憫だ。


 あ、そうでもないかも。後輩ちゃんに声をかけられて嬉しそうというか誇らしげ。


 ウチのクラスの男子はもうダメかもしれない。



「先輩がお話があるそうです。今から時間があるのならついて来てください」


「「「 イエス、マァム! 」」」



 後輩ちゃんの背後を軍隊のように一糸乱れぬ横一列で行進してくる男子三人。これはどう反応するのが正解だ? 無視か? 無視が一番か?



「先輩! 連れてきましたよ!」


「ああ、うん。ありがと」



 褒めて褒めて、と子犬のような無邪気な笑顔を浮かべる後輩ちゃんはとても可愛らしい。


 背後で悪魔のように嫉妬に狂った男の睨む顔は全然可愛くない。



「で、なんなんだよ」


「折角来てやったんだ。余程重要なことだろうな?」


「死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね」



 俺に対してはとても辛辣。攻撃的だなぁ。



「ふっふっふ。そんな態度でいいのかい? 折角美味しい話があるというのに」


「「「 ……詳しく聞こうか 」」」


「君たちには手伝ってもらいたいことがある。今からクラスメイト達が荷物を持って来るだろう? トラックの荷台に上げるのは運転手さんも大変だ。そこで! 君たちには荷物を受け取って持ち上げる役と荷台の上で引き上げる役を担ってもらいたい。もちろん、俺もやるぞ」


「「「 なぁ~んだ。そんなことか 」」」


「そんなこと? やる気なさそうだな。折角女子の好感度を上げるチャンスだというのに、残念だ……」



 男子たちの耳がピクピクと動いた。よし、喰いついた。



「女子から荷物を受け取る時、手が触れ合うかも」


 ピクピク!


「荷物を軽々と持ち上げて、優しさとさりげない力持ちアピール」


 ピクピク!


「やる気なさそうにダラダラと手伝ってもらっても、女子の好感度は上がらないだろうなぁ」


「「「 ぜひ、やらせていただきます! 」」」



 はい、チョロい! 戦力ゲットだぜ! お手伝い、感謝しまーす。



「流石女誑し。こういうことをよく思いつく!」


「早く来てよかったぜ!」


「さりげないアピール。我が親友の宅島を見習えば俺もモテモテに!?」



 俺は荷台に上がって、男子も一人上がってもらう。二人は下で待機だ。


 運転手さんには荷物の配置だけに集中してもらう。数十人、数百人の荷物を持ち上げるのは大変だからな。そういうのは若い俺たちに任せてください。


 後輩ちゃんは傍で応援かつスムーズな受け渡しができるように案内を頼んだ。


 すぐにクラスメイトが続々とやって来た。



「はーい。二列になって男子に荷物を渡してくださーい」


「はい、俺が持つよ」キリッ!


「あ、うん。ありがと……」


「俺に任せて」キリッ!


「ど、どうもー」


「フッ。持ち上げるのは俺の仕事さ!」キラリンッ!


「「 が、がんばってー 」」



 女子が少し引いているのは気のせいか? 頑張れ、男子諸君。



「中に運転手さんがいるから挨拶しておいてねー!」


「「 私たちの荷物をよろしくお願いしまーす! 」」


「はいよー!」



 女子高生に笑顔でお願いされて、運転手のおじさんは嬉しそう。荷台の奥で笑顔で女子たちに手を振る。


 次から次へとやってくるクラスメイトの荷物を受け取って、奥にいる運転手さんに渡していく。単純作業。最後の方はまとまってやって来て、男子も女子にアピールする余裕もなかった。


 最初は寒かったけど、動いて筋肉を使っているからか、あまり寒さを感じなくなってきた。身体がポカポカしている。


 約40人分の荷物で終わり。次のクラスへとバトンタッチだ。



「全員しゅーごー!」



 残っているクラスメイトが後輩ちゃんの号令によって綺麗に整列。一体いつ訓練したのだろうか? そういう俺もノリに乗って列に加わっているが。



「運転手さん! 私たちの荷物をよろしくお願いします!」


「「「 お願いしまーす! 」」」


「はい。おじさんに任せな! バッチリと運ぶから。君たちは修学旅行を楽しむんだよ」


「「「 はーい! 」」」



 小学低学年並みに礼儀正しく元気な返事。おじさんもニコニコ笑顔。


 運転手のおじさん、よろしく頼みます!
















<おまけ>



「それにしても寒かったです。手がこんなに冷たくなっちゃいましたよ」


「ぴきゃっ!? こ、後輩ちゃん! 冷たい手を背中に突っ込まないで!」


「流石ヒロイン属性の先輩。悲鳴が可愛いです」


「こ、こらぁ! ニヤニヤ笑顔で近づいてくるなぁ~!」


「ふっふっふ。ポカポカぬくぬくカイロの先輩で冷たくなった私の身体を温めるのです!」


「きゃぁああああああああ!」






「「「 そこのバカ夫婦! いい加減にしろ! 熱々すぎて暑苦しいわっ! 」」」





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