第377話 氷と後輩ちゃん
肌に突き刺さるくらい凍える気温。もう寒いより痛い。真冬の空気。今日は極寒だ。
朝から最低気温は氷点下を下回り、地面や建物の屋根が霜で真っ白になっていた。水道も凍っているかと心配だったけど、何とか大丈夫だった。興味本位で触ってみたら、指が凍りそうになった。
今日は最高気温は5℃までしか上がらないらしい。天気の表示は雪マーク。天気もどんよりと曇って今にも降り始めそうだ。これじゃあ洗濯物は乾きそうにないな。凍ってしまうかも。洗濯は諦めよう。
「う゛ぅ~。寒いです……」
「凍えちゃう。お姉ちゃんたちカチコチになっちゃう……」
ガタガタと震えているのはポンコツ残念姉妹。厚着をしてこたつに入っているのに震えるなんてどういうことだ? ちゃんと暖房もつけて部屋は快適な温度に保っているのだが。加湿器も動かして湿度もバッチリにしているんだぞ。
窓を開けたらどんな反応をするのだろう。冷たくなった手を背中に突っ込んだらどうなるだろう。とても気になる。だけど、可哀想なのでしない。それに絶対に怒られる。
「ほら、外はすごいぞぉ。あっ、雪が降り始めた」
チラチラと舞う白い粉。氷の結晶。地面に触れるとじわっと消えていく儚い塊。
初雪だぁ。ちょっとテンション上がる。このまま降り積もらないかなぁ。一面に広がる銀世界を見て見たい! まあ、交通がマヒして経済や家庭に大打撃を与えるけど。
折角雪が降り始めたというのに、ウチの女性陣は見向きもしない。
「うぅ~。寒いです。カーテンを閉めてください。視界に入るだけで凍り付きます」
「しゃむい……お姉ちゃんたちが氷像になったらどうするの? 何も反応しないのよ! …………弟くんは時間停止ものが好きなの? 弟くんが動かないお姉ちゃんと妹ちゃんを!? だ、だめー! だめよ、弟くん! きゃー!」
顔を赤くしてイヤンイヤンと身体をくねくねさせる桜先生。一体何の話をしてるんだ。
明らかに18禁の内容を妄想しているに違いない。ダメと言いながら満更でもなさそうだし。むしろ期待顔でチラチラと熱っぽい視線を送ってきているし。
何故そんな発想にたどり着くのかわからない。桜先生の頭がピンクのお花畑だからか? 欲求不満だからか?
「その通り! お姉ちゃんは欲求不満なのです!」
「心を読むな……」
俺は顔にすぐ出てしまうらしい。ことごとく心を読まれてしまう。俺にプライベートはないのか。
いや、待てよ。ウチの女性陣……後輩ちゃん、桜先生、楓、母さんの四人がおかしいだけっていう可能性もあり得る。その可能性のが一番高い。
だからどうしたって話だが。
「お姉ちゃんは欲求の解消を要求します!」
「何をしろって言うんだ?」
「何ってナニ?」
美しくキョトンと首をかしげる桜先生。
くっ! こういう時に女の武器を使うのは卑怯だぞ。桜先生は途轍もなくポンコツで残念で痴女みたいだけど絶世の美女なんだ。ドキッとしてしまうだろうが。
「弟くん! ナニを出して!」
「嫌に決まってるだろうが!」
「えぇー! お姉ちゃんは食べたいのー!」
「た、食べるっ!?」
「せんぱぁ~い! 私もナニを食べたいで~す! 私も欲求不満です。超絶可愛い彼女の後輩ちゃんも要求します!」
「後輩ちゃんまで!?」
この姉妹は常識がぶっ壊れてるところがある。まさか後輩ちゃんも要求してくるとは思っていなかった。
不味い。これは非常に不味いぞ。二人同時に襲われたら、俺も抵抗できないかも。
「「 棒でもいいから早く出して! 」」
「嫌だ!」
「「 白いのが良いです! 」」
「ダメだ!」
「「 食べたいです!
「ダメだ! …………んっ? アイス?」
俺は言葉を理解するのに数秒の時間を要した。アイス? それって食べ物のことだろうか? 冷たくて甘いやつ? 何かの隠語とかじゃないよな?
姉妹はこたつのテーブルをペチペチと叩いてアピールする。
「冬に暖房を効かせて、こたつに入って食べるアイス……超贅沢ではありませんか!」
「ぬっくぬくのお部屋で食べる冬のアイス! なんか背徳感があるわよね」
「……そっか。アイス……アイスかぁ……」
「先輩は何を想像していたんですか?」
「お姉ちゃんと妹ちゃんに教えて?」
教えることなんか出来るわけないだろ! というか、全部わかっててやってただろ。二人の顔がムカつくくらいニヤニヤと美しい笑顔だから丸わかりだ。
くそう。ハメられた。でも、何のヒントもなかったから、俺は読めなくて当たり前だ。
二人の欲求はアイスを食べること。冷凍庫に入っている数百円のアイスで二人の欲求が満たされるのなら安いものだ。
「アイス、食べるか」
「やったー! 先輩大好きです!」
「わーい! 弟くん愛してるわぁー! アイスだけに」
…………なんか室内が極寒と化した気がする。外よりも寒いのではないだろうか。俺と後輩ちゃんが凍り付いて氷像になってしまったぞ。
得意げな桜先生は後輩ちゃんに任せて、俺はアイスを取ってこよう。
カップのアイスを三人分取り出し、スプーンを持って二人の下へ。待ってましたと言わんばかりに蓋を外す姉妹。
三人で手を合わせる。
「「「 いただきます。はむっ……ちゅめたい! 」」」
三人同時に顔をしかめる。予想以上にアイスが冷たかったのだ。でも、口の中に溶けたアイスが広がって、少し遅れて甘さを感じる。
外は雪。暖房が効いた温かい部屋。ぬくぬくのこたつ。そんな中で食べるアイスは確かに美味しい。夏とは違った味がするかも。超贅沢な気分だ。
冬にしか出ない期間限定のアイスもあるのは納得だ。
でも、身体の中から冷えていく。寒っ!?
俺たちは同時にブルッと震えた。
「……熱いお茶でも飲むか?」
「「 賛成です 」」
お湯を用意するために一度立ち上がる俺。やかんで沸かしたら食べ終わる頃にはお茶が飲めるだろう。甘い物にはやっぱり緑茶!
この僅かな時間に、俺のアイスは二人の姉妹によって少し食べられていた。
俺が気づくのは数十秒後の話。
<おまけ>
「あぁっ!? 俺のアイスがちょっと減ってる!?」
「何のことですかー? 溶けちゃっただけですよ~」
「誰も弟くんのアイスを食べたりなんかしてないわ~」
「なんという棒読み口調。それに口元に付いてるぞ」
「「 な、なんだってぇー!? ごめんなさ~い! 」」
「俺は二人にお詫びを要求する」
「じゃあ、お姉ちゃんのアイスをあ~んしてあげるわ。お姉ちゃんの濃厚な乳のアイス! はい、あ~ん」
「いや、言い方! ジャージー牛の濃厚なミルクアイスだからな。あむっ……ふむ、美味しい」
「きゃー! 関節キッス! きゃー!」
「先輩先輩! 私の乳のアイスもどうぞ!」
「だから言い方!? 後輩ちゃんのは練乳アイスだからな!?」
「直接食べさせてあげますね。んちゅ!」
「んぅっ!?」
「ちゅぱちゅぱれろれろ……」
「きゃー! 弟くんと妹ちゃんが口移ししてるぅー! おぉ……濃厚……激しっ」
まあ、うん…………とても美味しかったです。
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こんにちは、クローン人間です。
昨日は更新できずに申し訳ありませんでした。
近況ノートでも報告しましたが、大雨の影響で作者が避難しまして。
こちらは被害はなく無事です。
そしてなんと! すっかり忘れていましたが、7月7日は今作品『汚隣の後輩ちゃん』の一周年でした!
読者の皆様、本当にありがとうございます。
皆様のおかげで頑張ってここまで来れました。
まさか一年も投稿しているとは……。
これからも頑張って書いていきますね!
これからもよろしくお願いします。 (2020/7/8)
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