第4章 冬休みと後輩ちゃん

第350話 早起きと後輩ちゃん

 

 俺はいつも通り早起きをした。部屋の中は一晩で寒くなっている。凍えそうだ。


 外はまだ暗い。冬になると日の出が遅くなるから。


 布団の中は後輩ちゃんと桜先生による一肌でとても温かい。一生このまま居たいけど、ご飯の準備をしなくちゃ……。


 二人の誘惑から何とか抜け出し、暖房器具のスイッチをオンにして、ぼけーっとトイレに行って、氷水に近い水で顔を洗う。


 冷たっ!? 凍るっ! シャキッと目が覚めてから気づく。



「あっ、急いでご飯を準備しなくていいんだ。今日は休みだから」



 つい癖で早起きをしてしまった。昨日で学校は終わり今日から冬休みだ。それに今日は土曜日。どうやっても休みだ。お弁当を作らなくていい。


 そう気づいたら、早起きしたことを後悔し始めた。もっと二人の温もりと甘い香りと柔らかさに包まれて眠っていたかった。


 ふむ。別に再び潜り込んで二度寝してもいいんじゃね?


 一度考えると、二度寝をしたくなってきた。うん、そうしよう。また寝室に戻って寝よう!


 というわけで、ただいま。スピースピーと可愛らしい寝顔で寝ている姉妹の間に潜り込む。寝ている二人がもぞもぞと動いてむぎゅっと抱きついてきた。足を絡めてスリスリする。



「はふぅ~」


「むにゃむにゃ~」



 可愛い。後輩ちゃんと桜先生が可愛すぎるのだが。寝ようと思ったが、もう少しだけ二人の寝顔を眺めておこう。



「しぇんぱぁい……」



 おっ? 後輩ちゃんが何か寝言を言っている。どんな夢を見ているのだろうか? 俺が登場しているのは地味に嬉しい。



「あほ」


「酷くねっ!?」



 物凄くはっきりとした辛辣な寝言が炸裂したんだけど。後輩ちゃんはどういう夢を見ているの? 俺を罵倒する夢?


 夢はコントロールできないから仕方がないけど……ちょっとショックです。


 起きてないよね? うん、起きてない。ちゃんと寝てる。



「弟くぅ~ん……」



 今度は桜先生だ。桜先生も何か夢を見ているらしい。寝顔がニマニマしている。


 一体どんな夢を見ているんだ?



「あっ、そこよぉ……もっと優しく……そうそう、やればできるじゃない……もっとそこを優しく撫でてぇ~」


「おいコラ! 姉さん起きてるのか!?」


「……」


「寝てる。本当に寝てる」



 淫らな寝言を言ったから、淫夢でも見ているのだろうか。少し気になったのは仕方がない。俺もお年頃の男なのだ。出来ればもっと寝言を言って欲しいです。



「あんっ……いい……いいわぁ……弟くん素敵よぉ~! はふぅ~頭ナデナデ気持ちいい……」


「俺が撫でてるのは頭かいっ!?」



 思わずツッコミを入れてしまった。エロいところを想像してしまったではないか。


 桜先生は頭をナデナデしてほしかったのだろうか? 無意識の願望が夢として表れているのだろう。起きたらナデナデしてあげるか。



「へたれぇ~」


「はいはい、なんだ後輩ちゃん? って、俺の名前はヘタレじゃない! 確かにヘタレだけども!」


「しゅきぃ~」


「……俺も好きだよ、葉月」


「えへへぇ~」



 とても嬉しそうな後輩ちゃんがスヤスヤと眠っている。これでもかと顔が緩みきっている。これ起きていないのは驚きだ。


 えへへ、うふふ、と寝ている姉妹の寝言を聞いていたら、だんだんと睡魔が襲ってきた。瞼が重い。温もりが心地いい。至福の柔らかさに甘い香り。


 気持ちのいい二度寝が出来そうだ。


 もう少し寝顔を眺めて楽しみたかったけれど、次第に意識が遠のき、俺は夢の世界へと沈んでいった。



 ▼▼▼




「ふぇ~?」



 いきなり夢から覚めた。幸せな夢を見ていた気がする。どんな夢だったのだろう? 起きた瞬間に忘れてしまった。


 二度寝をしようと思ったけど、頭はスッキリと起きてしまった。身体は眠たいけど。


 目をグシグシと拭って、ぼけーっと隣の人物の顔を見つめる。


 あっ、しぇんぱぁいだぁ~。格好良くて凛々しくて可愛い。はぅ……ずっと眺めていたい。



「んっ? 珍しく先輩よりも早起き? お姉ちゃんも寝てる。おぉ! 私が一番!」



 珍しいこともあるものだ。自分でも驚き。今日は大雪かも、と思ったが、部屋の中が温かい。どうやら、先輩が先に起きて暖房器具をオンにしてくれていたらしい。


 先輩! 感謝です! ありがとうございます! お礼にほっぺをプニプニしてあげましょう!



「ぷにぷに~! おぉ! 柔らかほっぺ!」



 頬をツンツンして遊んでいると、先輩がむにゃむにゃと口を動かした。先輩を起こしてしまったかと思い、ピシッと硬直する。でも、先輩は起きなかった。ナイス!


 珍しく先輩が起きていない。どうしよう? 何か悪戯をしようかなぁ。


 水性ペンで顔に落書き? いやいや、それは面白そうだけどしない。第一、水性ペンが部屋のどこにあるのか私は知らない。油性の場所は知ってる。そもそも、油性ペンは家にあるの?



「先輩は何をして欲しいですかぁ~」



 先輩を起こさないように小さく囁き、可愛らしいお鼻をぷにっと突く。ふふっ。子豚の先輩。これはこれで可愛い。今度先輩に変顔をしてもらおうかなぁ。して欲しいことリストに追加追加!


 う~んと、取り敢えず、寝顔の写真を撮ろう。はいチーズ、カシャ! お姉ちゃんの寝顔もカシャリ。今度は三人でカシャリ。先輩の唇を触りながらカシャリ。頬にキッスをしてカシャリ。


 うむ。余は満足じゃ。



「先輩が起きるまで寝顔観賞会でもしてよっかなぁ~。よし、そうしよう!」



 幼く感じる先輩の寝顔をじーっと観賞する。はぁ……全然飽きない。先輩の素肌も気持ちいい。


 おっと! 無意識に手が先輩の服の中にぃ~! だ、ダメだぞぉ~。私の手よ、言うことを聞くのだぁ~!


 ふぉぉ~! 腹筋しゅごぉ~い! 胸板厚~い! ふぉぉおおおおお!


 突発的に開催されたお触り会。少しすると寝顔観賞会とお触り会にメンバーが増えて、姉妹で一時間ほどじーっと観察して、ナデナデスリスリして楽しんでいた。


 偶には早起きするって良いね! ごちそうさまでした、せぇ~んぱい!

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