第347話 今年最後の学校と後輩ちゃん

 

 長い長い先生たちのありがた~いお話を寒い体育館で聞き流し、教室に戻ってきてからも少し長いホームルームが行われ、やっと全ての行事が終わった。


 今日は今年最後の登校日。終業式だったのだ。明日からは冬休みに突入する。


 やったー! 万歳! 待ちに待った長期休みだぁ! 家でゴロゴロするぞぉー!


 担任の先生が教室から出て行くのを眺めながら、俺は息を吐きながら背を反らして伸びをする。


 両手を大きく広げて~! ポヨンッ!


 おっ? 手のひらに感じるこの柔らかなものは何だ? 触ったことのある心地良い塊だな。至福の物体。



「珍しいです。先輩のラッキースケベが発動していますよ。流石に学校では恥ずかしいですね」


「こ、後輩ちゃん!?」


「はい、先輩の愛しい彼女の後輩ちゃんです!」



 お隣の席の後輩ちゃんが立って固まっていた。何故なら、俺が後輩ちゃんの胸を鷲掴みしていたから。


 なるほどぉ~。この感触は後輩ちゃんのお胸さんだったのかぁ。冬服の制服の生地が厚いなぁ……って、そういうことじゃなーい!



「ごめん、後輩ちゃん!」



 俺は慌てて手を離した。名残惜しいと思ってしまった俺は変態である。でも仕方がない。俺もお年頃の男子高校生だ。


 ちょっと顔が赤い後輩ちゃんは、気絶する様子もなく、極々自然に平然と俺の太ももの上に座った。



「別にいいですよ。学校が終わったことにはしゃいで、誰も見ていませんでしたし」


「後輩ちゃんは触られて大丈夫だったのか?」


「先輩にならいつでもウェルカムで~す! まあ、制服の生地が厚いですし、ブラもつけているので、いまいち触られた感じがなかったんですよね。だから思ったよりも平気でした」



 な、なるほど。それなら良かった。


 いや、良かったというのは後輩ちゃんが目を回して気絶しなかったことであって、決して柔らかさを俺は感じたとかそういうのじゃないからな! 違うからな!


 …………なんか心の中がテンパってる。


 落ち着け~俺。こういう時は深く深呼吸を。スゥーハァースゥーハァー。うん、後輩ちゃんの甘い香りが心地いいです!



「はっ!? こうすれば、徐々に慣れることが出来るのでは!? 先輩、早速家に帰ったら試してみましょう!」


「何を試すの、バカ夫婦?」


「お姉さんたちにも詳しく教えてくれな~い?」


「身体!? 身体の相性を試すの!?」


「アホ! そんなもんもう試してるでしょ」


「ですよねー」



 いつの間にか、酔っぱらったエロ親父よりもたちが悪い女性陣に囲まれていた。いつも通りニヤニヤしている。そして、明日からしばらく会えなくなるからか、ボディタッチが多い。後輩ちゃんの死角である俺の背中を誰かがスーッと撫でている。こ、これは誰かの足のつま先か!?



「明日からバカ夫婦のイチャラブを見れなくなっちゃうのかぁ~。絶対に物足りないなぁ」


「ヤバい。甘い物に気をつけないと。年末年始に食べ過ぎて太っちゃう! そしたら、颯に責任取ってもらおうかなぁ~」


「なんで!? 俺関係ないよね!?」


「ダメで~す! 先輩は私のモノなの! ほらシッシッ! あっち行って!」



 ふしゃーがるる、と女子たちを威嚇して牽制する後輩ちゃん。威張ってる子猫みたいでとても可愛い。頭や顎の下をナデナデしてあげよう。



「ふにゃ~ん♡」



 トロットロに蕩けてスリスリしてきた。頭に猫耳を幻視する。


 くっ! 猫耳カチューシャをつけたい! 尻尾もつけたい! 今度楓に相談してみよう。



「……なんで全員で俺たちの動画を録ってるんだ?」



 女子たちはどこからともなくスマホを取り出して、俺たちの様子を録画していた。片手はスマホを持ち、反対の手でしきりに胸の辺りを撫でている。顔は、甘ったるい物を口にぶち込まれたかのようなしかめた表情。



「だって、しばらくこれが見れなくなるから、冬休みの間に偶に見て悶えようかと」


「お菓子に手が伸びそうな時にこれを見たら絶対に誘惑を断ち切れるから」


「あたしはこれがないと死ぬ。『激甘いちゃラブシーンを見ないと死んじゃう病』を患ってる」


「何そのダサい病名。まあ、私もだけど」



 そうだそうだ、と賛同の声が巻き起こる。


 激甘いちゃラブシーンを見ないと死んじゃう病……全然意味が分からん。後輩ちゃんも可愛らしく首をかしげている。



「あんたらは『葉月がいないと死んじゃう病』と『颯がいないと死んじゃう病』を患ってるだろ? それと一緒」


「「 なるほどぉ~! 」」


「「「 それで納得するんだ!? 」」」



 うん、納得しました。物凄く納得してしまった。なんてわかりやすい例え。


 何故女子たちが呆れている? 言ったのは君たちだろ?



「これがバカ夫婦だよな。うん、そうだよな」


「私たちの予想の遥か上をイチャラブしながら行くのがこのバカ夫婦よね」



 何故だ。何故女子たちは、うんうん、と悟った表情で頷いているんだ。



「せんぱぁ~い! この年中発情したウサギたちは無視していいですよ~」


「「「 お前が言うな! 」」」


「私は良いんです! 先輩の彼女ですから! 冬休みもずっと独占します! フッ!」


「「「 鼻で笑ったぁ~!? 」」」


「どやぁ!」


「「「 ドヤ顔がムカつく! 」」」



 一斉に後輩ちゃんに飛び掛かる女子たち。後輩ちゃんは俺の膝の上に座っていたから、俺まで巻き添えを喰らう。


 ちょっと! 俺まで触るな! 服に手を入れようとするなぁ~…………って、後輩ちゃんかよ!


 ウチのクラスの女子たちは、今年最後の登校日でも全然変わらなかった。むしろ、さらに勢いがあった。


 女子たちのワチャワチャは、この後もしばらく続くのであった。


 だ、誰か助けてくれぇ~! や、止めろぉ~! そこに手を入れるのはぁ~…………って、やっぱり後輩ちゃんかよっ!?

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