第341話 悩む俺と後輩ちゃん

 

『オ~! ハヤ~テ! なに悩んでんの~? おばさんに相談してごら~ん? 人生経験も、夜の経験も豊富よ~! アッハッハ!』



 豪快に笑った小太……じゃなくて、グラマラスな体型の女性がビシバシと背中を叩いてくる。力が強いから、滅茶苦茶痛い。バシンバシン音が鳴っている。背中が真っ赤になりそう。


 もちろん、言語は日本語じゃない。アルバイト中なのだ。


 そんなに悩んだ顔をしていたのだろうか。まあ、その申し出はありがたい。人生経験豊富な人に相談したかったところだ。


 取り敢えず、下ネタは軽く無視スルーする。アルバイト初日で学んだこと、それは、この職場は下ネタのオンパレードだってこと。いちいち反応していたら、もっと生々しいことを聞くことになる。それはそれで勉強になりますが。



「クリスマスプレゼントを何にするか悩んでまして……」


『クリスマスプレゼント? 誰に贈るの? あのキュートな彼女?』


「そうですよ。あと姉にも。一応妹とか両親にも贈ろうと思っていますが、悩んでるのは彼女と姉へのプレゼントですね」


『ビューティフルなシスターにもか。そっか。日本じゃクリスマスは恋人と過ごすことが多いんだっけ? ウチの国は家族で過ごす日だからね』



 そう。日本では恋人と過ごす聖なる日として有名だが、外国では家族と過ごす家が多い。国が違えば文化も違う。クリスマスはキリスト教だし。


 後輩ちゃんと桜先生へのプレゼント。とても悩む。何にすればいいのだろう。クリスマスまでもう時間がない。なのに、全然決まっていないのだ。ずっと考えているけど良いのが思いつかない。


 女性がふむふむと一緒に悩み始める。



『プレゼントねぇ。何かのジャパニ~ズマン~ガで読んだっけ? サンタコスして『お前の苗字を貰いに来たぜ! キリッ!』みたいなやつ』


「絶対に嫌です」


『夜景が見えるレストランで食事』


「急にベタなやつが飛び出してきましたね。驚きです。でも、彼女、外食よりも俺の料理を食べたいって言いそうですね」


『プレゼントを忘れさせるくらいヤりまくる』


「却下!」



 だから、何故下ネタ!? お願いだから腰を振らないで!



『じゃあ、指輪とか?』


「ちょっと重くないですか? まだ学生ですよ」


『普通じゃない? そっか。日本じゃ学校じゃアクセサリー禁止だっけ? でも、イヤリングとかネックレスとかが無難じゃないかなぁー? あとはバッグとか』


「あまりつけない女性なんですよね」


『女の子だってオシャレしたいときはあるでしょ』



 ふむ。やっぱりそうだよな。アクセサリーが一番いいのか? マフラーや手袋もある。お菓子系は……俺が作ったほうがいいな。小物は……二人は片付けられないから欲しがらない。


 アクセサリーかぁ。お店を覗いてみるかなぁ。



「良いお店知ってます?」


『このビルのお隣に行けば沢山あるじゃん』


「確かに商業施設ですけど、全部高級宝飾店じゃないですか!」


『えっ? 普通に数千円から一、二万円のアクセサリーも売ってるけど』



 えっ? そうなの? 知らなかった。明らかに高級感が漂ってるから中に入れないんだよ。展示品も豪華な宝石がついてるし、値段の桁が物凄いから。



『やっぱり知らない人多いよね~。若者向けのアクセサリーも多いのよ。ふむ、店を別にする? もっと入りやすい外観と内装にして、若者向けのアクセサリーショップを……。進言してみますか』



 急に仕事モードになって真面目な顔つきになる下ネタ好きの女性。このギャップが凄い。仕事をするときは人が変わったようになるのだ。それ以外は下ネタだらけだけど。



「今度行ってみますね」


『オー! ずっぽりねっとりぐっちょりと熱いクリスマスを過ごしな~! そして、おばさんに報告よろしく~!』


「嫌です!」



 この下ネタさえなければ良い人なのに。


 後々、彼女が世界的に超有名なデザイナーだと知った時には、俺は愕然としてしまった。




 ▼▼▼


<葉月視点>



「も~い~くつ寝るとぉ~、お正月ぅ~」



 だら~っとだらけたお姉ちゃんが、気の抜けた声で歌を歌っている。私もお姉ちゃんを枕にして寝そべっている。やる気が出ない。何もする気が起きない。


 理由は、先輩がアルバイトに行ったから。寂しい。物凄く寂しい。早く帰ってきてぇ~!



「お正月には弟くんと~、妹ちゃんとも遊びましょ~! は~やく来い来いお正月ぅ~!」



 うん、遊ぶ! 先輩とお姉ちゃんと一緒に遊ぶ! ぐへへ。大人の遊びも良いですなぁ。ぐっちょりねっとりと熱い夜を過ごしながら年越しって言うのもいいですなぁ~。


 その為には、もっと先輩の本気モードに慣れなくては! 先日は惜しかった。あの時の私のあほー! 絶好のチャンスだったのにぃ~!


 その前に、お姉ちゃんに相談しなければならないことがあります。先輩がいない今だからこそできる相談。



「お姉ちゃん、大事な相談があります」


「ほえ? どうしたの、妹ちゃん?」



 私たちは起き上がって、正座して向かい合う。真剣さが伝わったみたい。お姉ちゃんの顔が真面目になった。



「お正月が近くなりました」


「そ、そうね」


「でも、その前に大事なイベントがあります」


「クリスマスね」


「そう! 12月25日。それはクリスマスであると同時に、先輩のお誕生日なのです!」


「……」



 キョトンと目を瞬かせたお姉ちゃん。話が理解できず、可愛らしく首をかしげている。実に絵になるお姉ちゃん。



「弟くんの誕生日……えぇぇえええええええええええええ!?」



 予想できたので、あらかじめ耳を塞いでおきました。正解だった。


 お姉ちゃんがガシッと肩を掴んで、グワングワンと揺さぶってくる。



「い、妹ちゃん! なんで教えてくれなかったの!? とっても大事な日じゃない!」


「あはは。やっぱり言ってなかった。すっかり忘れてたの。ごめんね~」


「うぅ~! ぎゅ~したら許すわ」


「お姉ちゃんむぎゅ~!」


「むぎゅ~! もうお姉ちゃん許しちゃう!」



 お姉ちゃんの身体は抱き心地抜群。何より、この大きなおっぱいが……。



「というわけで、明日も先輩はアルバイトで居ません。プレゼントを買いに行きましょう!」


「さんせー! でも、プレゼントは何にするつもり?」


「ふっふっふ。それはね~」


「それは?」


「まだ決めてませ~ん! 本当にどうしよう。お姉ちゃん助けて!」


「妹ちゃんの身体にリボンを巻き付けて、『プレゼントはわ・た・し♡』とか」


「さ、流石に難易度が……」


「お姉ちゃんも一緒にするわよ?」


「ふむ。それなら……」



 悩む。とても悩む。一人でダメなら二人で。二人で攻めたらあの理性の化け物もぶっ壊れるかも。


 ツッコミ役不在の部屋で、私とお姉ちゃんは先輩が帰ってくるまで真剣な相談を続けるのだった。


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