第340話 テスト前と後輩ちゃん

 

「「「 おしくらまんじゅう、揉まれて鳴くな! 」」」


「「「 あぁ~んっ! 」」」


「「「 おしくらまんじゅう、揉まれて鳴くな! 」」」


「「「 いやぁ~んっ! 」」」


「「「 おしくらまんじゅう、揉まれて鳴くな! 」」」


「「「 はぁ~んっ! 」」」



 おいコラ、淑女諸君。君たちは一体何をしているのかい? 学校でしてはいけない声が聞こえてくるんですけど。


 真冬の寒さに耐えられなくなった女子たちは、ペンギンのように集まって寒さをしのいでいた。そして、それがおしくらまんじゅうに発展した。それはいい。それだけだったらよかったのだが……。


 頬擦りし合ったり、手がスカートや服の中に入り込んでもぞもぞ動いている気がする。


 取り敢えず、その色っぽい声を出すは止めてくれー! 目の保養にはなるけど、男子たちが立てなくなってるだろぉー! ここには思春期男子がいることを忘れないでくれぇー!



「おーっと? そこの若旦那よ。羨ましいのかい?」


「嫁が中にいるから気になるのかぁー?」


「もう! 混ざりたいならそう言ってよ! というわけで、一名様ごあんなーい!」


「えぇっ!? 俺はそんなこと一言も……うぷっ!?」



 熱い。苦しい。柔らかい。良い香り。ムワッとする。少し汗の香りも。でも、それがフェロモンとなって、男を惹きつける。内なる獣が目覚める。



「せ、先輩!?」


「後輩ちゃん!?」



 中央付近でもみくちゃになっていた後輩ちゃんと抱きつくような格好になった。荒ぶる女子どもに散々触られ、揉まれ、撫でられ、滅茶苦茶にされたのだろう。服や髪が乱れている。



「「「 おしくらまんじゅう、揉まれて鳴くな! 」」」


「うおっ!?」


「きゃっ!?」



 突然始まった押し合いと揉み合いに巻き込まれて、大変なことになる。


 だから、熱い! 苦しい! 誰だ、今触ったやつ! 服の中に手を入れようとするな! 手が冷たいって! ズボンのポケットに手を突っ込むなぁー! 動かすなぁー!



「うへへ。先輩のポケットの中……」


「後輩ちゃんかよ! 今すぐその手を抜け!」


「手『で』抜け!? ここは学校ですよ!?」


「何言ってんだ、淫乱後輩! 俺はその手『を』って言ったよなぁ~!?」



 俺は無理やり女子の包囲網から抜け出す。俺にしがみついた後輩ちゃんも何とか抜け出したようだ。あぁー、と残念そうな声がして、多数の腕が伸びて引きずり込もうとするが、何とか抵抗して逃げ延びた。


 後輩ちゃんは着崩れた制服を男子に見られる前に、シュパパッと素早く整えた。


 なんか、体力を一気に吸われた気がする。疲れた。温かくて良い香りがして柔らかかったけど。



「それで、後輩ちゃん? 何故ポケットにまた手を入れた?」



 背後から抱きついて、後輩ちゃんはさりげなく俺のポケットに手を突っ込んでいた。振り返ると、キョトンとした後輩ちゃんと目があった。



「何故って、温かいからですけど」


「動かすな」



 もぞもぞと動かす後輩ちゃんの手を、服の上から抑えた。敏感なところが近いから止めなさい。



「俺も後輩ちゃんのポケットに手を突っ込むぞ!」


「いいですよ。ほれ!」



 突然、俺の片手が何やら温かい空間にすっぽりと収まった。ハンカチが入った場所。後輩ちゃんのスカートのポケットだ。男子のポケットよりも狭い。


 そして、無意識に撫でてしまっている温かくてスベスベモチモチで触り心地抜群なもの。後輩ちゃんの足だ。


 状況を把握した瞬間、即座に手を引き抜いた。



「な、何してるんだぁー!?」


「ふふふ。慌てる先輩が可愛いです。こうすれば、また理性が崩壊するかも」


「あのー? ここは学校なので、多分それはないかと……」


「な、なんですってー!?」


「後輩ちゃんにはお仕置きです。よっと!」


「ひゃうんっ! 本気モードはらめぇですってぇ~」



 頭からポフンと蒸気を噴き出した後輩ちゃんが、ぐったりともたれかかってきた。顔をスリスリと擦り付けて、クンクンと匂いを嗅いでいる。


 あーはいはい。よしよーし。子猫化しちゃったか。教室なのに甘えん坊になっちゃって、可愛いなぁ。



「あんたらは毎日変わらないねー。胸焼けしそう」


「うっわー。デレッデレのトロットロに蕩けてる。人ってあんな幸せそうに蕩けることが出来るんだ。羨ましい」


「今日からテスト期間に突入だけど、このバカ夫婦は保健体育の実技の勉強しかしてなさそうね」



 ちょうど一週間後に期末テストが行われる。だから、今日からテスト期間だ。部活動は全部停止。帰宅部の俺と後輩ちゃんは大して関係ない。


 保健体育は今回テストはないでしょうが。それに、実技って何だよ。



「寒さはもう大丈夫なのか?」


「あー大丈夫大丈夫。颯のおかげで身体がポッカポカに火照っちゃったから」


「私、濡れちゃってるー」


「汗でしょ。おしくらまんじゅうが原因の。あたしも暑い」


「えっ?」


「「「 えっ? 」」」



 これ以上踏み込んではいけない。本能がそう言っている。女子たちも察したのだろう。誰もが口を閉ざした。


 それにしても、期末テストか。テスト嫌だなぁ。テストが終わったら冬休みなんだけどなぁ。早く休みになって欲しい。



「何気に、あんたらバカ夫婦って点数いいよね? 何かやってんの?」


「普通だぞ。普通の勉強だ」


「その普通を教えろー!」


「「「 そーだそーだ! 」」」



 クラスメイトの大合唱。全員が興味津々。復活した男子も合唱に加わっていた。


 そ、そこまで知りたいの? 至って普通だってば。



「えーっと、まずは音読とか? 口に出すって結構大事だぞ」


「そうですよ。先輩はもっと私に好きって言うべきです!」


「後輩ちゃんは黙ってて」


「あぅ~!」



 後輩ちゃんの頬をフニフニして黙らせる。何というモチ肌。素晴らしい。


 何イチャついてんだ、このバカ夫婦が、という念が伝わってきた。イチャつかないと死ぬのか、とガンを飛ばされている気もする。



「英語と国語の古文とか漢文とか。訳も音読してたら、ある程度分かるようになる。だから、この文や英文を訳せ、という問題もスラスラと書ける」


「「「 ふむふむ 」」」


「あと、数学とかわからない問題を時間をかけて悩んでないか? はっきり言って時間の無駄。さっさと答えを見ればいい。同じ問題を何度も、10回くらい繰り返せば、自ずと解けるようになるから」


「「「 ふむふむ 」」」


「記憶する方法のコツは、長い時間を空けないこと。最初は三十分とか一時間ごとに見直した方が良いな」


「そうですよ。先輩も私のことを忘れないように、三十分とか一時間ごとにナデナデをするべきです! ほれほれぇ~!」


「休み時間ごとにしてるだろ」


「うみゅ~!」



 顎の下をナデナデしたら、猫のように大人しくなった。実に満足げだ。


 他にも、テストを作る先生の癖とか、出しそうな問題を教えたりとか、教えれることは教えたつもり。クラスメイト全員が真剣にメモをしていた。


 授業中もそんな真剣に受ければいいのに。ちょっと呆れた。


 その後は、子猫の後輩ちゃんをナデナデしつつ、俺は次々に繰り出される質問に答えていった。




 今回の期末テストで、ウチのクラスの平均点が学年トップになったのは別のお話。


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