第324話 忙しそうな美緒ちゃん先生
「あばばばば~」
桜先生がこたつに入って寝そべって、変な声を上げている。とうとう頭がおかしくなったのだろうか?
あっ。もともとだったな。変な声を出すのも今更か。こういう時は無視するのが一番。
お隣に寝そべる後輩ちゃんを抱き枕にして、頭がおかしい桜先生が奇声を上げ続ける。
「うぼぼぼぼ~!」
「うぇーい。お姉ちゃんのお胸がぁ~むぐぐ!」
「えべべべべ~! あうぅ~! あぇ~!」
「んぅ~~っ!? んぅ~~っ!? んぅ~~っ!?」
「ひっひっふぅ~! ひっひっふぅ~!」
「姉さん。そろそろ後輩ちゃんを離さないと死んじゃうぞ」
後輩ちゃんの顔が桜先生の大きな胸に埋まっている。マシュマロのような柔らかさと弾力により、息が出来ないのだろう。桜先生の胸は凶器だ。人を殺すことが出来る。
ギブアップを要求しているが、奇声を上げたりラマーズ法をしたりしている桜先生は気付いていない。
あら、と俺の指摘で気づいた桜先生は、申し訳なさそうに後輩ちゃんを解放する。後輩ちゃんは息を大きく吸って、肺に酸素を送り込む。
「はぁはぁ……じぬがどおもいばじだ……! うえぇ~ん! せんぱぁ~い! お姉ちゃんのおっぱいは気持ちいいけど怖いですぅ~! 人を殺すおっぱいですよぉ~」
嘘泣きをしながらこたつから這い出て、俺にむぎゅっと抱きついてきた後輩ちゃん。スリスリと顔を擦り付け、大きく深呼吸をして匂いを堪能している。子猫みたいだ。
そんな後輩ちゃんの頭をナデナデする。
「あーはいはい。よしよし後輩ちゃん。姉さんの胸は凶器だよな」
「ご、ごめんなさい、妹ちゃん」
シュンとして反省している桜先生に、後輩ちゃんは可愛らしくあっかんべーをした。ガーン、と落ち込む桜先生。この世の終わり、という絶望の表情だ。だらっと脱力して、口から魂が抜け出すシーンを幻視した。
ここまで落ち込むとは思っていなかったのだろう。後輩ちゃんが慌てて桜先生に駆け寄って、頭や胸をナデナデして慰める。って、何故胸を撫でる!?
「じょ、冗談だからね! 姉妹だったらあっかんべーくらいするでしょ! というか、私はしたい! お姉ちゃんはどうなの?」
「そ、そうね。姉妹だからね。これくらい普通ね! ごめんねぇ妹ちゃん」
「「 むぎゅ~! 」」
良きかな良きかな。今日も姉妹は仲が宜しいようで。平和だ。
頬と頬をスリスリしているぞ。実に気持ちよさそうだ。俺も混ぜて……欲しいと思ったが、口に出したら両サイドから同時に頬ずりされそうだ。とても心惹かれるが、止めておこう。
「先輩も混ざりますか?」
「羨ましそうにしてるわね」
「べ、別にぃー。そんなことねぇし」
な、何故バレたー!? 相変わらず女性の勘は鋭いなぁ。男の俺にも分けて欲しいぞ。それとも、単純に俺がわかりやすいだけか? いやでも、後輩ちゃんと桜先生は俺の心を読んでくるからなぁ。二人がおかしいに違いない。
二人が何やら頷き合っている。ニヤリと悪戯っぽい笑顔を浮かべている。俺の直感が反応した。警報を発している。しかし、もう手遅れだ。腕を掴まれた。
「先輩にもスリスリしてあげましょう!」
「お姉ちゃんと妹ちゃんの
「「 ほれほれ~すりすり~すりすり~! 」」
ピトッと頬が触れたかと思うと、むにょんむにょんと頬擦りされた。何という柔らかさ。何という張りと潤い。もっちりふわふわ。至福のほっぺただ。
二人の甘い香りも漂い、さりげなく腕を胸に押し当てられている。
くっ!
「あぁ~お姉ちゃんの疲れが癒されるわぁ~! 一日十回はしたいわね」
「それは多すぎ。姉さんは最近忙しそうだな。今日も帰りが遅かったし」
ここ最近、桜先生は忙しそうだ。家に帰ったら、疲れた様子でぐてーっとしている。まあ、ぐてーっとだらけるのはいつものことなんだが。それ以上にだらけている。
頬擦りしながら、どよ~んと陰鬱なオーラをまき散らし始める桜先生。大人って大変そうだ。
「弟くんも妹ちゃんもわかるでしょ。数日後に迫った学校のイベントが!」
「「 長距離走大会! 通称マラソン大会! 」」
「正解よ! 正解したご褒美として、抱きしめてあげるわぁ~! むぎゅ~!」
「「 んぅ~~っ!? 」」
く、苦しい! 柔らかくて甘い香りがして、天にも昇る心地良さが顔いっぱいに広がっているけど、息が出来なくて苦しすぎる! 死んでしまうぅ~!
後輩ちゃんと一緒にジタバタと暴れていたら、今度は気が付いたようだ。ごめんなさい、と謝りながら解放してくれた。
はぁ……。空気が美味しい。桜先生と後輩ちゃんの甘い香りが充満しているけど。
「体育の先生たちが中心になってるのよ。もう大変よぉ~。体育祭ほどじゃないからいいのだけど」
「お、お疲れ様、お姉ちゃん」
「俺、当日休んでいい? 走りたくないんだけど」
「別に歩いていいのだから、散歩気分でいいのよ。休んだら、後日走ってもらうし」
「……やっぱり行きます」
年内最後の学校のイベント、長距離走大会。学校を出て、街の中を走るのだ。一、二年生は20キロ、三年生は10キロだ。
俺は去年走った。でも、留年してしまったから、今年も20キロ。来年もだ。
はぁ……留年しなければよかったかな。
「お姉ちゃんは走るの?」
この長距離走大会では、生徒に混ざって走る先生もいる。若くて運動部系の部活を受け持つ先生が多いけど。桜先生は、去年は走っていなかった気がする。
「お姉ちゃんはチェックポイントにいるわよ。走りませ~ん!」
ズルい。と思ったけど、先生は先生で忙しいか。
「あと数日よ! それまでの辛抱! でも、疲れたから癒してぇ~!」
我らの姉は甘えん坊だ。仕方がない。甘やかして癒しますか。いつも学校では頑張っているからな。
「マッサージしようか?」
「お願いしまーす! 体力は消耗するけど、スッキリするのよねぇ!」
「先輩! 私もお願いします!」
「了解。んじゃ、寝室行くか」
「「 はーい! 」」
急かす二人に引っ張られて、俺たちは寝室に向かった。
普通のマッサージで二人は寝てしまうくらい気持ちよかったらしい。
意識を失うってことは、寝たってことだよね? そうだよね!?
まあ、二人はすっかり癒されたようなので、詳しいことはどうでもいいよね!
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