第317話 ベッドの上の後輩ちゃん
桜先生のご両親の命日が近いということで、最後に訪れた場所に三人で来た俺たち。とても綺麗な山の景色を見ることが出来た。
桜先生は頂上で亡くなったご両親に沢山語りかけ、スッキリと晴れやかな表情をしていた。言いたいことを全て吐き出すことが出来たらしい。それを言っていいのか、ということも多かったけど。
今日は土曜日。明日は日曜日で休み。だから、俺たちは一泊することになった。
ここに来るまでに約4時間半かかった。帰りも同じ時間かかるということである。日帰りはキツイ。だからお泊りしようと提案があり、満場一致で可決された。
泊まる場所は、前回の反省を生かし、ノリノリでホテルを決めようとする二人に俺が介入しました。前回はカップルズホテルという名前に騙された二人がラブホテルを予約してしまったからな。俺は学んだのだ。
でも、ビジネスホテルでは、三人一部屋で泊まるって難しいんだね。泊ることは可能だけど、その分代金が……。別々に寝るのは後輩ちゃんと桜先生が反対するし、一緒に寝るんだったら二部屋予約するのはもったいないし。
というわけで、いろいろ話し合った結果、ホテルが無事に決まったんです。
「……なんでまたラブホテルなんだよ。18歳未満は立ち入り禁止なんだぞ」
暖色系の温かな配色。そういうムードにさせる静かな曲が流れ、高級感や清潔感、そして、何とも言えないエロティックさを感じる部屋に入った俺は、ガックリと肩を落として、ため息と同時に言った。
ベッドの近くに置かれたティッシュ箱と避妊具が生々しい。
「大丈夫大丈夫! バレなきゃいいんですよ!」
「弟くんも妹ちゃんも大人びてるから大学生にしか見えないわ!」
残念でポンコツな姉妹は、興味津々で部屋の中を見渡し、お風呂やトイレを確認して、ベッドにダイブして楽しんでいる。自動販売機の中身を確認して、キャーっと盛り上がる二人。大丈夫なのか?
「もし誰かに見られたら……」
「何よ。教師はラブホテルに来ちゃいけないのかしら?」
「そうじゃなくて……もういいです」
何を言っても無駄な気がする。そして、もう既に入ってしまっている。手遅れだ。潔く諦めて寝る準備を整えよう。
お風呂入ったり、二人の髪をドライヤーで乾かしたり、パジャマに着替えたりして、寝る用意ができた俺たちは、ベッドの上に座る。
「家と違うのでドキドキしますね。ちらっちらっ!」
「ムラムラしないかしら? ちらっちらっ!」
「二人は家でもそんな感じだろ」
「「 ちっ! この超絶ヘタレめ! 」」
悪い顔で舌打ちなんかしないの。可愛くて綺麗なお顔が台無しです。言葉遣いにも気を付けましょう。淑女なんだから。
普段と同じようにむぎゅ~っと抱きしめ合ったり、ナデナデしたり、手を繋いだりしながらベッドの上で語り合う。
「そういえば、お姉ちゃんのご両親はどこで亡くなったの?」
「えーっと、山の頂上に行く途中に長いトンネルがあったでしょ? それの頂上側の出入り口ね。帰りに事故ったんですって。山から出てきた動物を避けてガッシャーンってなわけ」
「「 そ、それは…… 」」
「もう! 妹ちゃんも弟くんもそんな悲しそうな顔しなくていいのよ。娘の私はとっくの昔に受け入れたんだから。即死だったから苦しまなかったのが幸いね。おかげで、お姉ちゃんは車の運転は超気を付けております」
確かに、桜先生の運転は超安全運転だ。とても上手い。
俺と後輩ちゃんは、笑顔の桜先生を両サイドからむぎゅ~と抱きしめる。桜先生には俺たちがいるからな。桜先生は嬉しそうで照れくさそう。
「運転と言えば、前ね、赤信号だったから交差点で止まったの。そしたら、お隣にパトカーがスッと止まって、四十代くらいの男のお巡りさんがサムズアップしてくれたの。私、超運転が上手かったみたいで」
「「 ふむふむ 」」
「私も笑顔でサムズアップを返したら、返されるとは思っていなかったのでしょうね。慌てたお巡りさんが間違えてクラクションを鳴らしてしまったのよ。思わず笑ってしまったわ」
それって、絶世の美女の桜先生の笑顔に胸を撃ち抜かれたせいではないのだろうか。パトカーを運転するお巡りさんは、その後の運転は大丈夫だったのだろうか。心配だ。
「おっと。話が脱線してしまったわね。元に戻しましょう」
無理に戻さなくていいのに。桜先生が話したいのならいいけど。
「ウチの両親は、もしかしたら地縛霊としてあのトンネルを彷徨っているかも。よくホラーであるわよね?」
「ひぃっ!?」
な、なんてことを言うんだ!? じ、じじじじじ地縛霊だとぉぉおおおおお!? そ、そそそそそんなことはあり得ない。あり得ないぞぉ~!
あぁ……俺、そのトンネルを通っちゃったよ。呪われた? 憑りつかれた!?
ホラーが大っ嫌いな俺は、後輩ちゃんと桜先生を引き寄せて、抱きついて顔を隠してガクガク震える。
「お、おぉ……あのヘタレの弟くんがお姉ちゃんと妹ちゃんのおっぱいに顔を埋めているわ」
「先輩は全然気づいていませんけどね」
「守護霊として両親がお姉ちゃんに憑りついているかもしれないわ……」
「や、止めろぉぉおおお! 耳元で囁くなぁああああああ!」
あぁ……ダメだ。全然心の準備をしてなかったから、怖すぎる。桜先生のお父さんとお母さん、ごめんなさい。俺はあなたたちが怖いです。
「今夜お二人が枕元に立ったりして……」
「あり得るわね。お父さーん! お母さーん! 私はいつでもウェルカムよ~! 弟くんを怖がらせるために出てきてちょうだ~い!」
「止めろぉぉおおおおおおおおおおおおおお!」
「先輩! お姉ちゃんのご両親ですよ! もし出てきたらちゃんと挨拶しなくては!」
「無理! 無理無理無理無理無理無理無理無理無理無理無理無理!」
「弟くんは、妹ちゃんやお姉ちゃんが幽霊になったら大丈夫なのかしら?」
二人が幽霊になったら? 万が一、いや無量大数の一もあり得ないけど、もしそうなったら……。
俺の中の天秤が揺れ動いてなかなか判断できない。透き通った後輩ちゃんと桜先生。可愛いけど怖い。怖いけど好き。
「……………………すんません。怖いです」
「カッチーン! 今のはカチンと来ましたよ! そうですか。幽霊になった私も怖いですか!」
「ガーン! 酷いわ。弟くんが酷いわ。死んだ後にも愛する弟くんの傍に居てあげるのに、拒絶するなんて最低よ!」
「ふっふっふ。いいでしょう。先輩の中に私と言う存在を刻みつけてやりますよ! 幽霊になっても傍に居て欲しいって思うくらいに!」
「弟くんのばかー! あほー! へたれー! お姉ちゃんたち怒ったわよ! 今夜は寝かさないんだからぁー!」
「あっ、それ大歓迎です。俺を寝させないでください。目覚めて枕元に幽霊がいたら心臓が止まりそうだから、一晩中起きていたいです」
俺を襲って寝させない気満々だった二人が、呆気に取られてお互いに顔を見合わせている。パチパチと目を瞬かせている。
だって、幽霊って怖いだろ? あぁ……怖いよぉ。桜先生のばかぁ。
「お姉ちゃん。先輩を疲れさせて眠らせよう」
「オーケー妹ちゃん。全力で行くわ」
俺は後輩ちゃんと桜先生に押し倒された。
結局、朝方になって寝てしまったけど、一晩中起きているのもそれはそれで超怖かったです。丑三つ時なんかは特に……。
ホラーなんか滅んでしまえ! もう嫌ですぅ……。
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書く必要はないと思いますが、一応述べておきます。
この作品は超フィクションです。
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