第314話 ランニング中の後輩ちゃん
昨日は投稿できずに申し訳ございませんでした。
投稿しようとしたら、ネットが繋がらなくなりました。
今日は夜にも投稿する予定です。
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「えっほ、えっほ! ほらほら先輩! 元気出して走りますよ! えっほ、えっほ!」
俺の隣を走る後輩ちゃんが、セミロングの黒髪ポニーテールをユッサユッサと揺らしている。走る女性ってなんかいいよね。普段と違う印象だから。
体育の授業の最初の十五分はランニングだ。運動場を生徒たちが走っている。全員がだらしなく走っている。運動部もだ。高校生の体育の授業って緩い。
男女一緒なので、俺は後輩ちゃんと一緒に走っている。
後輩ちゃんに思わず見惚れてしまう。走る横顔。揺れる黒髪。甘い香り。少し荒い息遣い。とても可愛いです。
俺の視線に気づいたのか、チラッと横目で見つめてきた。そして、悪戯っぽくニヤッと笑う。
「あれれぇ~? どうしたんですかぁ~せんぱぁ~い。もしかしてぇ~、超絶可愛い体育服姿の後輩ちゃんに見惚れてしまいましたかぁ~? もう! マニアックですねぇ」
「マニアックじゃねぇよ!」
「おやおや。見惚れていたことは否定しないんですね?」
「うぐっ!?」
「図星ですか。先輩は可愛いです」
可愛いって何だよ。うるさいぞ。偶には揶揄うのを止めなさい。
軽く息が上がる程度のゆっくりとしたスピードで走っているので、多くの生徒たちから追い抜かれる。それはいいのだが、男子たちよ、舌打ちするのは止めてくれない? 背中を叩くのも。真っ赤に腫れあがりそうなんだけど。
なんか肉体的よりも精神的に疲れる。
「先輩、お疲れですね」
「……そうだな。お疲れだな」
「ふふっ。昨夜は先輩で沢山実験しましたからね。可愛かったですよ♡」
「うっさい!」
そう。昨夜はいろいろあった。後輩ちゃんの裸を見たり、裸を見たり、記憶喪失のフリをしたり、裸を見たり、お仕置きとして実験台になったり。
体力を一方的に搾り取られました。おかげで、今日は朝から疲れております。げっそりやつれてやせ細っているかも。二対一は卑怯だと思います。
「後輩ちゃんはМだったんじゃなかったのかよ」
「そうなんですけど、Sでもあります。それに、先輩の身体はとても興味深いです。性欲……じゃなくて学術的見地に基づく知的好奇心がわんさかと……」
じゅるり、と涎を拭わないでください。獲物を品定めするかのように、上から下までじっくり、ねっとり、ねちっこく観察しないでください。背筋がゾクッとしてしまっただろうが!
この痴女をどうにかしてほしい。まあ、気持ちはわかるよ、気持ちは。俺だってお年頃の男だ。異性に、というか後輩ちゃんに興味津々だ。後輩ちゃんの裸……じゃなくて学術的見地に基づく知的好奇心もわんさかとある。性欲だって人並みに。
「先輩が人並み!? ないですないです! だって、先輩は18禁小説の主人公並みにぜ……」
「何を言おうとしているのかな、後輩ちゃん?」
「な、何でもないですよー(棒読み)」
ニコッと微笑みかけたら、後輩ちゃんはビクッと身体を震わせて、スゥっと顔を逸らした。何かやましいことでも言おうとしたに違いない。
毎度毎度のことなんだが、
『みんなー! あと五分よー!』
桜先生のクールな大声が聞こえた。最近忘れつつあるけど、桜先生は現役の女教師。それも、体育教師だ。お仕事モードの桜先生は、生徒たちに混ざってゆっくりとランニングしている。
家ではポンコツで残念な姉だからな。教師とは全然思えない。別人のようだ。
桜先生の人気はすごい。周りは女子たちに囲まれてお喋りしながら走っている。そして、それを眺める男子たち。僅かな隙間から見える桜先生のお尻や弾む大きな胸をだらしない顔で凝視している。男は馬鹿な生き物だ。
なんかイラッとするな。俺の姉に変な視線を向けないで欲しい。
「お姉ちゃん。お仕事お疲れ様です!」
走っていなかったら、後輩ちゃんは敬礼していただろう。俺もしていただろう。本当にお疲れ様です!
「先輩やお姉ちゃんとどこかに行きたいなぁ。そろそろ紅葉を観に行くのはどうでしょう?」
その時、俺の時間が止まった。
今、なんて言った? 後輩ちゃんはなんて言った? どこかに行きたいと言わなかったか? 紅葉を観に行きたいと言わなかったか?
あの超絶インドア派の後輩ちゃんが!? お外デートにも渋るような後輩ちゃんが!?
あり得ない。あり得ないあり得ないあり得ないあり得なーい!
もしかして、後輩ちゃんは熱がある? 風邪ひいた? それとも、明日は大雪か!?
「……なんか先輩が失礼なことを考えている気がします」
「何のことだい? ちょっと幻聴が聞こえただけさ」
「幻聴? どんな内容でした? なんか言葉遣いがおかしいです」
「内容ねぇ。後輩ちゃんが紅葉を観に行きたいって。あはは! あり得ないよな!」
「えっ? 言いましたけど」
「……今度は聞き間違いか」
「ちゃんと言いましたけど! 紅葉を観に行きましょう!」
「不味いぞ。本格的に俺の頭がおかしくなったようだ。いや、後輩ちゃんの頭がおかしいのか? あっ、なるほど!」
「……なに納得してるんですか?」
後輩ちゃんの梅雨よりもじっとり濡れたジト目攻撃。俺は顔を逸らして躱した。
「だ、だって仕方がないだろ? あの超絶インドア派の後輩ちゃんが自ら紅葉を観に行きたいって言ったんだぞ! すぐに信じられるわけないだろ!」
「そうですか? まあ、先輩が私のことを『今すぐ抱きたい』と言ったら、私も疑いますけどね。『あの人類史上類を見ない超絶ヘタレの先輩が!?』って」
その例えはちょっと違う気が……しなくもないな。似たようなことだ。『人類史上類を見ない超絶ヘタレ』ってところが釈然としないけど。
「私が珍しくやる気を出したので、行きましょうよ!」
「そうだな。行くか。帰ったら相談しよう」
「ほーい!」
話がまとまったところで、十五分間走の終了を告げる桜先生の大声が聞こえた。
『ランニングは終了よー! みんなお疲れ様ー!』
体が温まった俺たちは、男女に分かれて球技を行った。
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