第310話 11月11日と後輩ちゃん

 

「先輩! 今日は何日でしょうか!?」


「でしょうか!?」



 後輩ちゃんと桜先生が腰に手を当てて仁王立ちしている。ドヤ顔をしながら得意げに胸を張る。平均よりも大きな胸がポヨンと跳ね、凶器にもなる大きな胸がバインと跳ねる。


 またか。今度は一体何を思いついたんだ? あるアニメの学園長並みに迷惑な突然の思い付き。いつも巻き込まれる俺の身にもなって欲しい。別に嫌ではないが。



「今日か。11日だな。11月の」


「そのとぉ~り! 今日は11月11日なのです!」


「なのですなのです!」


「もうそんな時期か。だんだん寒くなって冬仕様だな。そのモコモコパジャマ可愛いぞ」


「わーい! ありがとうございまーす」


「見て見て! 妹ちゃんと色違いなの!」



 まだ結構気温の差は激しいが、着実に冬服の出番が多くなっている。寝るときは厚手のパジャマだ。パジャマが温かいと、少しくらい毛布を着なくても大丈夫だからな。それにくっついて寝るし。


 お風呂上りは暑くて汗かくからって薄着でうろつく女性もいるけど。桜先生とか桜先生とか後輩ちゃんとか桜先生とか。


 パジャマ姿を褒められて、むふふ~、とご機嫌な二人が、頭を撫でて撫でて~、と無言のおねだりをしてきたので、俺はお望み通りナデナデしてあげた。気持ちよさそうに目を瞑る二人。まるで子猫と子犬だな。


 よし。このまま忘れさせて……。



「はっ!? 危ない危ない! すっかり忘れるところでした!」


「はっ!? そうだったわ! 弟くんったらイケナイ子ね!」



 えぇー。俺が悪いんですか? ナデナデを要求してきて勝手に忘れかけたのはお二人だと思うのですが……。



「それで? 今日がどうしたんだ? 何かあったっけ?」


「先輩、本当にわからないんですか?」


「11月11日よ!」


「さっぱりわからん」



 顔を見合わせた後輩ちゃんと桜先生。頷き合って、せーのっ、と声をそろえて答えを言う。



「「 今日はポキポッキーの日です! 」」


「さぁ~て、歯を磨いて寝るかなぁ~」


「「 ちょっと待つのだ、そこの少年! 」」


「ぐえっ!?」



 歯を磨きに行こうかと思ったら、後輩ちゃんと桜先生によって後ろ襟を掴まれて阻止された。首が締まるぅ~! 苦しい…くるじいよぉ…。助けて…。



「ポキポッキーゲームをしましょう!」


「この折れやすいポキポッキーを両端から食べ、折らずにお互いの唇に触れ合ったカップルは結ばれて永遠に幸せになる、というあの伝説のゲームをしましょうよ!」


「それ、絶対にお菓子メーカーが作ったやつだぞ。バレンタインデーのチョコみたいに」


「いいんですよ。楽しければいいんです! 先輩しましょうよ~! キスして結ばれて永遠に幸せになりましょうよぉ~」


「弟くん! 妹ちゃんにここまで言わせたのよ! 男を見せなさ~い! そして、お姉ちゃんともしなさ~い!」


「後輩ちゃんは彼女だからいいとして、姉さんはダメだろ」


「何で? これくらい姉弟なら普通よ?」



 素で言ってるからたちが悪い。うんうん、と後輩ちゃんも肯定してるのがなおさら…。何故姉弟に関することだけぶっ壊れているんだろうか? 本当にどうにかしてほしい。


 二人は左右からゆっさゆっさと揺らしてくる。気持ち悪くなるから止めてくれぇ~。



「「 ポキポッキーゲームをしましょうよぉ~! 」」


「わかった。わかったから! ちょっとだけだぞ」


「「 わーい! 」」



 両手を上げて喜んだ二人は、ポキポッキーの袋を開ける。おいおい。二人で一袋ずつ開けたら合計二袋も開くことになるんだが…。味違うから良しとするか。後輩ちゃんがイチゴ味で、桜先生はレモン味か。スタンダードなチョコ味はないのか?



「では私から。ほれ、どうぞぉ~」



 後輩ちゃんがイチゴ味のポキポッキーを咥えた。覚悟を決めて反対側を咥える。


 思ったよりもポキポッキーが短い。後輩ちゃんの顔が近い。


 パッチリ二重とか、大きな瞳とか、スラリとした鼻とか、潤んで艶やかな唇とか、細かいところまで見えてしまう。あぁ…可愛い。後輩ちゃんが可愛すぎる!


 俺と後輩ちゃんは視線で合図し合って、ゆっくりと食べ始める。


 しかし、一齧りしたところで、ポキポッキーは半ばからポキッと折れてしまった。



「あぁ……どうしましょう! 私と先輩との幸せな夫婦生活がぁ~」



 ガビーン、と絶望して顔が青くなる後輩ちゃん。ぶわっと涙が溢れ出して、縋りついて泣きはじめた。


 こんなことで泣かなくても…。俺は後輩ちゃんの泣き顔とかに弱いんだよ…。



「後輩ちゃん。一回だけで止めてもいいのか? チャンスはまだここに沢山あるぞ」



 俺は後輩ちゃんが開けたイチゴ味のポキポッキーの袋の中身を見せる。まだ一本しか手につけていない。可能性はまだたくさんある。


 さっきはいい加減にしてたけど、次から本気でやりますか。俺は後輩ちゃんの笑顔が見たい。



「そう…ですね。先輩。幸せな将来のために頑張りましょう! もう既に幸せ絶頂期ですけど!」



 ポキポッキーゲームの二度目。今度はゆっくり慎重に食べる。


 後輩ちゃんの顔が近い。近い近い近い近い! 普段から顔を近づけることは多いけど、何故か猛烈に緊張する。ポキポッキーを咥えている後輩ちゃんがなんかエロく感じるのは、俺が思春期の男子高校生だからかっ!?


 お互いに四分の一ほど食べ進めたところで、またもやポキッと折れてしまった。難しいな、このゲーム。



「次です!」


「おう!」



 三度目、四度目、五度目、と着実に食べ進めることが出来ているのだが、あと少しというところで折れてしまう。


 六度目の挑戦。こうなったら何としてでもポキポッキーゲームをクリアして後輩ちゃんとキスしてやる!



ふぇんふぁいせんぱい



 後輩ちゃんもやる気だな。反対側を咥えて、視線で合図して食べ始める。


 ゆっくり慎重に。振動を伝えないように優しく。後輩ちゃんと食べるスピードを合わせる。


 着実に距離が近づいて行く。後輩ちゃんの甘い香りが漂う。鼻息がぶつかり合う。相手の心臓の音までも聞こえてきそう。


 鼻と鼻がぶつかり合った。あと一口…あと一口で…!



「んぅ…」



 触れた。後輩ちゃんの唇に確かに触れた。ポキポッキーを折ることなく二人で食べきることが出来た。俺たちはとうとうやったぞ!


 唇を合わせたまま、僅かな残りを後輩ちゃんと奪い合う。そして気付けば、ただ相手の唇を貪っていた。いつの間にか口の中のポキポッキーは消えている。



「んぅ…ぷはぁ! やりましたね、先輩。とってもドキドキしました」


「俺もだ。これで満足したか?」



 後輩ちゃんは恥ずかしそうに微笑み、まだ残っているポキポッキーの袋を差し出す。



「………まだです。もっとしたいです」



 なんだこの可愛い生き物は! 俺の彼女が可愛すぎるんだが!?



「わかったよ。その袋のポキポッキーが無くなるまでだからな」


「はい!」



 俺たちは再びポキポッキーを楽しむ。


 その後何度か行われた後輩ちゃんとのキスは、ポキポッキーのイチゴ味がしました。
















<おまけ>



「ぷはぁ! はぁ…♡ 私、大満足です…♡」


「そ、それは良かった…」


「では先輩! 次はお姉ちゃんとですね!」


「はいっ!? って、姉さんいたのか!?」


「いたわよ。ずっと二人のキスを眺めていたわよ~。ついでに動画も録りました。この動画を楓ちゃんに拡散してほしくなければ、お姉ちゃんともキス…もといゲームをするのだぁ~」


「うぐっ! し、仕方がない…。楓に渡ったら大変な目にあってしまう。それよりも、姉さんとキスのほうがいい………のか? えっ? あれっ? 俺って大丈夫か!? これって大丈夫なのかっ!?」


「さあ! やるわよぉ~!」


「お、おう」


「「 はむっ! 」」 (両端を咥える)


 ポリポリポリポリポリポリポリッ!


「は、早い! 姉さん食べるの早っ!?」


「あぁもう! 口を離しちゃダメじゃない! 次よ次!」


「「 はむっ! 」」 (両端を咥える:二度目)


 ポリポリポリポリポリポリポリッ!


「早い早い早い! ちょっと怖い! 猛然と迫ってくるのが怖いんですけど!」


「もう仕方がないわねぇ。次はゆっくり食べるわ」


「「 はむっ! 」」 (両端を咥える:三度目)


 ポリ、ポリ、ポリ、ポリ、ポリ、ポリ、ポリ……ちゅっ♡


「きゃー! 弟くんとキスしちゃった~! レモン味がしたわぁ~!」


「そりゃレモン味のポキポッキーだからな」


「レモン味のキス……お姉ちゃんやるね! 私もした~い!」


「もう少し後でね! もうちょっとお姉ちゃんのタ~ン!」


「は~い!」


「……もういいよ! どうとでもなれ! こうなったらヤケクソだぁ~!」



 ということがあったとかなかったとか。


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