第305話 振り替え休日の朝と後輩ちゃん

 

 心地良い甘い香りを感じて俺は目が覚めた。ちょっと苦しくて動けない。温かくて柔らかいものに挟まれている。


 俺はボーっと寝ぼけた頭を働かせ、現状把握に全神経を集中させる。


 甘い香りは二種類。具体的な香りは思いつかないが、可愛らしい香りと綺麗で大人っぽい香りだ。後輩ちゃんと桜先生の匂い。


 身体のほとんどが重い。はっきりと見え始めた目をパチパチすると、俺の胸を枕にしている後輩ちゃんと桜先生がいた。肋骨が当たってるけど痛くないのか?


 あぁもう! 涎を垂らして! 子供かっ!? 可愛いから許すけど。


 足まで絡めているな。どうしよう。動かせない。


 そして、大きな問題が一つ。朝の生理現象で活性化している場所の近くに二人の手が…。落ち着けぇ~俺。何度もこんな状況はあったぞ。落ち着いて深呼吸すれば治まるから。頑張れ、俺の理性!



「そう言えば、なんで俺はベッドに?」



 昨日の記憶があまり思い出せない。夜の記憶が綺麗さっぱり消えている。


 文化祭のことは覚えている。桜先生の車に途中で乗せてもらって帰宅したことも覚えている。夕飯は………そう! 味噌汁と卵焼き。その後、お皿を洗って、一旦休憩するためにベッドに倒れ込んで………それ以降の記憶がない。


 ということは、つまりそういうことだ。



「あぁ…そのまま寝ちゃったのか。後輩ちゃんと桜先生も服装が変わっていないということは、そのまま寝たな。うわぁ。歯磨きしてない。シャワーも浴びてない。俺、臭くないよね?」



 身体は二人のせいで動かないので顔だけ辛うじて動かして匂いを嗅ぐ。でも、後輩ちゃんと桜先生の匂いで全然わからない。


 ちなみに、同じくシャワーを浴びていない二人の香りは、いつもと変わらず良い香りです。ちょっと匂いが強いかな? でも、誘われるくらい甘い。思わず喰らいつきたくなる…。


 はっ!? これはまさか、食虫植物のように俺を誘うフェロモンが放出されているのか!?


 寝ていても俺を誘う超絶美少女と絶世の美女。危険だ。とても危険だ。


 俺は湧き上がる情欲を抑え込み、絡みつく二人の身体を丁寧に引き剥がして起き上がった。


 二人を見ていると、本当に襲い掛かりたくなるので、目を逸らして寝室から出る。


 リビングのカーテンを開けると、眩しい太陽光線が突き刺さった。とても眩しい。


 現在の時刻はもう9時半じゃないか。寝過ぎてしまった。まあ、偶にはいいだろう。疲れきっていたし。



「制服も脱ぎっぱなしだったな。これは姉さんの下着…。ふむ、紫ですか。ちゃんと洗濯籠に入れろよ」



 俺もお年頃の男だ。絶世の美女の下着に興味を持つのは仕方がないことだ。


 洗濯してない美女の下着で………何もするわけがなく、洗濯籠に放り込んで、俺は顔を洗う。冷たい水が気持ちいい。眠気が完全に吹き飛んだ。


 キッチンに行って水を飲みながら考える。


 朝食は何にしよう? 食パンがあったな。チーズもある。チーズパンにしよう。お湯を注ぐだけのカップスープもあるな。リンゴもある。よし、今日はこれくらいでいいだろう。


 でも、もうちょっと後にするか。二人はまだ起きないだろうから。



「二人が起きる前にシャワーを浴びるか」



 静かなリビングで独り言ちて、着替えを準備して浴室に向かった。


 服をスポーンと脱ぎ、お湯を頭からかぶる。ふぅ。気持ちいい。シャワーもいいけど、俺はやっぱり浴室に浸かりたいなぁ。夜はちゃんと入るか。


 身体や頭を丁寧に念入りに隅々まで洗い流す。これで完璧。


 さっぱりしたので、浴室で身体をタオルで拭き、水が床に垂れないようにしてドアを開けた。



「えっ?」



 俺は目を見開いて固まった。


 脱衣所は洗面所でもある。だから、顔を洗いに来た他の人と鉢合わせする可能性がある。この部屋には俺以外に二人の住人がいる。それも女性二人だ。


 浴室のドアを開けると、そこには寝ぼけた顔で服を脱ごうとしていた美少女と美女がいた。お年頃の俺は、状況がわからないこともあって、二人の女性を凝視してしまう。


 桜先生は下の下着しかつけていない。胸は丸見え。まあ、これはよく見る光景だ。でも、後輩ちゃんは違う。下着姿なんだけど、丁度ブラのホックを外したところで、肩ひもがずり落ちた。際どいところまで見えそうになっている。



「あぁ…しぇんぱい…おはようごじゃい…ましゅ」


「ふぁ~あ。弟くぅ~んおはよ~。ふぁ~」



 半分目を閉じた後輩ちゃんが首だけぺこりと頭を下げる。手で押さえたブラが更にズレる。桜先生は手で口を覆いながら欠伸をしている。



「私もお風呂に入りましゅ…」


「お姉ちゃんも…」



 とろ~んとした二人の瞳。まだ半分夢の中らしい。時々舟をこいでいる。


 ようやく状況が理解し始めた俺は、この強烈な光景を記憶に留めながら、甲高い悲鳴をあげた。



「きゃぁぁああああああああああああああああ!」



 二人は耳を押さえてうるさそうに目を閉じ、不機嫌そうに俺を睨んだ。そして、後輩ちゃんと桜先生は目を見開いた。眠気が一気に吹き飛んだらしい。


 熱い眼差しが、とある一点に集中する。俺の身体の下のほう。



「「 おぉ… 」」


「って、見るな!」


「朝から元気ですね!」


「若い証拠よ!」



 サムズアップがムカッとする。ちょっとは恥ずかしがれよ! ガン見するな! それでも淑女か!? 乙女だよな!?



「うっさい! 早く出ていけ! 服を着ろ!」


「でも、今からシャワーを浴びようかと…。先輩も一緒にどうですか?」


「お姉ちゃんは大歓迎よ!」


「俺はもう浴びたから! それと後輩ちゃん。自分の状況を理解しような?」



 俺の言葉に、後輩ちゃんは首をかしげながら自分の身体を見下ろした。そして、後輩ちゃんの時が止まる。徐々に真っ赤になった後輩ちゃんがプルプルと震え出した。



「なぁ……なぁっ!?」



 後輩ちゃんは今現在、ほぼ手ブラ状態だ。眠気が吹き飛んでやっと気づいたらしい。ポフンと頭から蒸気を噴き出して、限界を超えた後輩ちゃんの身体から力が抜ける。



「あわわ…なんて格好を…あわわわわ…」


「い、妹ちゃ~ん! しっかりしてぇ~!」



 桜先生が慌てて抱き寄せたことで後輩ちゃんは倒れることはなかった。頬を叩かれても目を回した後輩ちゃんは反応しない。


 俺はそのまま静かに浴室のドアを閉めて閉じこもった。



「朝から刺激が強すぎる…」



 後輩ちゃんが目を回したことで胸が露わになった光景が目にしっかりと焼き付いている。平均よりも大きな美しい胸だ。



「ぐはっ!?」



 俺は後輩ちゃんの介抱を桜先生に任せ、鼻から噴き出した鮮血を、再燃した情欲と一緒にシャワーで洗い流すのだった。

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