第304話 ベッドに倒れ込んだ後輩ちゃん

 

 クラス全員で号泣するという、青春で恥ずかしい経験をした俺たちは、疲れきった体に鞭を打ち、文化祭の後片付けをを行った。


 明日は振り替え休日だけど、明後日からは普通に授業が再開される。だから、今日中に綺麗さっぱり片付けなければならないのだ。


 俺は嬉々として内装を片付けていく。ホラーの内装なんか消えてしまえ! 滅んでしまえ! やーいやーい!


 ………昨日寝てないからテンションがおかしくなっているらしい。



「みんなー! お片付け頑張って~! 先輩ファイトで~す!」



 後輩ちゃんは、どこぞの映画監督のように椅子に座ってメガホンで激励してくる。家事能力皆無な後輩ちゃんに片付けをさせてはいけない。逆に散らかってしまう。だから、監視役だ。


 超絶可愛い彼女である後輩ちゃんに応援されたら、ムクムクとやる気が出てくるから不思議だ。俺ってチョロいな。



「そうですよー! 先輩はチョロインですよ!」


「おいコラ! 俺の心を読むな! それに何でチョロインなんだ!?」


「そこのバカ夫! 手を止めるな! イチャつくなー!」


「そうだそうだー! あんまりイチャついてると夫を寝取ってやるぞ! 昨日徹夜したウチらの暴走テンションを甘くみるなー!」


「酔っ払いよりもたちが悪いぞ、私たちは!」



 自分たちで言うんですか。自覚してるんですか。本当にたちが悪い。それに、『ウチ』や『私』じゃなくて『ウチら』や『私たち』なんだね。複数形なんだね。


 助けて後輩ちゃん!


 俺の彼女である後輩ちゃんは、目を鋭くしてメガホンをバンバンと手に打ち付けて言い放つ。



「先輩の彼女である私が目を見張っていますからね、先輩の彼女である私が! 手は出させません。出させませんよー! 大事なことなので二度言いました」


「「「 ちっ! 」」」



 怖い。女性陣の舌打ちが滅茶苦茶怖い。悪い顔だったぞ。女性って恐ろしい。


 そんなこともありながら、順調に片付けが進んでいく。作るのは時間かかったけど、片付けはあっという間だ。すぐにいつも通りの教室に戻る。


 椅子や机も元通りに並べて片付け完了だ。


 ウチのクラスは結構早く終わったようだ。他のクラスはまだ片付けをしている。終わったところから帰宅となる。みんな手を振ったり、投げキッスをしたりして、次々に帰っていく。俺も後輩ちゃんと一緒に帰路についた。


 手を繋いでトボトボと帰っていると、スススッと見覚えのある車が近寄ってきて窓が開いた。運転していたのは絶世の美女。桜先生だ。



「へーい! そこの格好いい弟くんと可愛い妹ちゃん! 乗ってく?」


「「 乗ってく! 」」



 というわけで、桜先生の車に乗せてもらい、あっという間に家についた。


 いやー楽だった。疲れて歩きたくなかったから助かりました。


 玄関のドアを開けて部屋に入ると、帰ったという実感がわいてくる。同時に、疲れがどっと押し寄せてくる。今すぐ倒れ込みたいのを我慢して、ゾンビのようにゆっくりとリビングに入る。


 もう今日は面倒くさい。荷物や脱いだ制服はポイッ!



「おぉ…先輩がポイしました」


「じゃあ、お姉ちゃんも!」



 桜先生はブラまで脱ごうとしないでください。下もダメです。



「今日の夕食は簡単なものでいいよな? 作る元気がない」


「インスタントは却下ですよー」


「脂肪がついちゃう。またおっぱいが大きくなったら困るわ。最近は弟くんが揉むから女性ホルモンがドバドバ出てるの」


「はいはい。揉んでるのは俺じゃなくて後輩ちゃんだからな。ご飯と味噌汁と卵焼きでいいか?」


「「 異議なーし! 」」



 後輩ちゃんと桜先生は元気よく返事をした。まあ、桜先生は俺にスルーされてムスッとした顔だったけど。



「お姉ちゃんは目玉焼きがいいー! 二つの目玉焼きっておっぱいみたいでしょ? 欲情した弟くんが妹ちゃんとお姉ちゃんを……きゃー!」


「はっ!? なんという考えを!? 私も目玉焼きがいいでーす」


「そんな不純な理由なら当然却下です」



 昨日寝ていないから、二人の頭の中がピンク色のお花畑になっているらしい。ダメだこりゃ………って、普段からこんな感じか。何という残念さだ。


 残念でポンコツな姉妹は頬を膨らませてブーイングをする。



「えぇー! 二つの目玉焼きっておっぱいに見えるでしょ? ねえ? そこの健全な男子高校生くん! 頭の中はエロいことだらけなんでしょ?」


「それって全然健全じゃないんだが。そもそも、目玉焼きから連想しなくても、胸丸出しじゃねぇーか! さっさと服を着てくれ。風邪ひくぞ」


「おぉ! そうでしたそうでした。いや~ん! 弟くんのえっちぃ~!」



 桜先生のポンコツ残念さが五割増くらいになっている。桜先生の夕食は白ご飯だけにしてやろうか?


 何やら直感が反応したのか、ビクッと震えた桜先生は、スッと寝室に消えていった。着替えに行ったのだろう。勘だけは鋭いんだから。


 白ご飯だけは、今朝一度帰宅したときに予約していたので出来ている。あとは味噌汁と卵焼きだ。パパっと作りますか。


 味噌汁と卵焼きは簡単に作ることが出来る。30分もかからずに作り終えた。


 三人そろって仲良く食べて、仲良くごちそうさまをする。


 さくっと洗い物を済ませて、お風呂の準備を………もう今日はシャワーでいいや。取り敢えず、ちょっと休憩させて。


 ヨロヨロとベッドに向かう俺の後に続いて、後輩ちゃんと桜先生もついてきた。バタッと倒れ込むと、二人も隣に倒れ込む。皆でもぞもぞと動いていつも通りの体勢に。



「いろいろあったな…」


「ですね…」


「私もごちゃ混ぜ喫茶に行ったんだけど、二人がいなくて残念だったわ。お菓子は美味しかったけど!」



 そう…なんだ…。俺たちはずっとデートしながら宣伝してたからなぁ。


 昨日は楓が襲来してきて、ミスミスコンがあり、今日は両親が突撃してきてベストカップルコンテスト。死ぬかと思った。特に精神が。


 あぁ…体が重い。鉛のように重い。二人の柔らかさや温もり、甘い香りを感じていたら気持ちよくなってきた。


 ダメだ…。桜先生の声が良く聞こえない。意識が遠くなる。瞼が閉じていく…。


 俺は睡魔に抗えず、そのまま気を失うように寝てしまうのだった。


















「………それでねぇ、先生たちのお店にもたっくさんのお客さんが…。あれ? 二人とも寝てる? 余程疲れていたのね。すごく気持ちよさそう。お風呂や歯磨きは…まあいっか。弟くん、妹ちゃん、おやすみなさい」


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