第300話 二度目の戦争と後輩ちゃん

 

祝! 300話!


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『ベストカップルコンテストもいよいよ最後のカップルだぁ~! 最後の最後まで盛り上がっていこうぜぇ~!』


『『『 いえぇ~! 』』』



 ここはライブ会場かっ!


 思わずツッコミを入れたくなるくらいのテンションの司会者と大盛り上がりの観客たち。体育館の熱気が凄い。暑苦しく感じるのは気のせいではないだろう。


 今までで生徒のカップル四組と、サプライズ参加のウチの両親の時間が終わった。最後は俺と後輩ちゃんの組だ。正直本当に嫌です。今すぐ帰りたいくらい。


 ただでさえ実の両親のバカ夫婦っぷりを学校中の生徒たちの前で晒されたのだ。俺の心と意識は限界寸前。何かあれば蝋燭の炎よりもあっさりと儚く消え去るだろう。


 もう心が限界を迎えたほうが楽かもしれない…。意識を失って倒れてしまいたい…。



「颯ちゃ~ん! 葉月ちゃ~ん! 頑張ってね~!」



 呑気に笑顔で手を振っている幼女の母さん。俺の疲労がズズーンと体全体にのしかかってくる。そんなことに一切気付かない母さんは、ただただニパァ~と笑っている。


 あぁ…もう帰りたい…。



『ではではぁ~! 時折素が出てしまっている雪女さんと吸血鬼さんのカップルを問い詰めていきましょう!』



 素が出てもいいじゃないか! 俺の心労を理解してくれ!



『馴れ初めを教えてプリ~ズ!』



 なんだその言い方、と思ったけど、ツッコむ元気もない。俺はただいつ消えてもおかしくない儚い笑みを浮かべているに違いない。


 俺の代わりに後輩ちゃんが答えてくれる。



『あれは吹雪が舞い散る日の出来事でした。私と雪女さんは出会い、お互いに恋に落ちたのです』


『『『 きゃー! 』』』



 女性陣の爆発的な黄色い歓声。あまりの大歓声に体育館が揺れている。騒音で警察を呼ばれないといいけど。


 後輩ちゃんの説明は間違ってはいない。吹雪は吹雪でも桜の花吹雪だし。


 興味津々のキラッキラとした眼差しが向けられる。司会者も身を乗り出しながらマイクに向かって質問をする。



『それでそれで? 出会った初日に熱い夜を過ごしたとか!?』


『いえいえ。全くありませんでしたね。数年間は先輩後輩以上恋人未満の関係でした』


『さてはヘタレかっ!?』


『ええ。ヘタレでした』



 会場に巻き起こるヘタレコール。俺の心がちょっぴり傷つく。


 ええ、そうですよ。過去の俺はヘタレでしたよ。現在進行形でもヘタレてますよ! 悪いか!?


 ロリとダンディも腕を組んで深く頷いている。



「あれはヘタレだね」


「うん、ヘタレだね」



 うるさいぞ! というか、中学生で付き合うって早すぎると俺は思うのですよ!


 出会った当時の後輩ちゃんは、小学校を卒業したばかりだぞ。中学の入学式だったからな。付き合うって発想があるわけが……ないとは言えない。入学式でとっても仲良くなった後輩ちゃんの親友はウチの愚妹だし…。


 楓の奴が後輩ちゃんを唆すなんて普通にあり得る。


 後輩ちゃんが悪戯っぽい笑みを浮かべる。



『それはそれで楽しめましたけどね。揶揄って遊べましたし。可愛かったですよ』


『はいはい。そうですか』



 投げやりになって、ぶっきらぼうに答える俺。後輩ちゃんは付き合った後も揶揄って遊んでいるではありませんか。



『おぉ~! 仲がいいって感じがしますねぇ~! 尊い! グヘヘ~! もっとイチャラブを披露するのだぁ~!』



 なんだろうこの感じ。司会者がウチの愚妹に似ている感じがする。性格がって意味で。今日は楓は用事で来れなかったはずだ。


 身の危険を感じる。関わってはいけない奴だ。絶対に面倒くさいことになる。


 後輩ちゃんも察したのか、司会者を見る顔が強張っている。


 楓もだがこうなると誰にも止められない。



『次々質問にいってみよぉ~!』



 繰り出される質問に、後輩ちゃんが答えていく。嘘も交えながら当たり障りのない返答をしていく。立っているだけで限界ギリギリの俺は時々口出す程度だ。


 本当に何でもないことを喋っているだけなのに、体育館の観客たちが、胃の辺りを撫で、口元を手で覆っている。まるで何かを吐きたい様子だ。大丈夫だろうか?



『……それでですねぇ、カップルストローを使わずに、新しいストローを1本貰って雪女さんと二人でジュースを……って皆さんどうしたんですか?』



 文化祭デートの思い出を聞かれたので、少し前の出来事であるフルーツジュースを飲んだエピソードを話していた後輩ちゃんが、静まり返った体育館に気づいて、キョトンと首をかしげた。


 説明を求めるために俺を見つめられても、俺も理解してないからわからないぞ。



『うぅ…甘い…超甘い…無自覚なのが更に甘さを引き立てる…ごちそっさん!』



 いや、手を合わせられても…。理由を説明してほしいのだが?



「思ったよりイチャラブしてたよ、隆弘くん! 私、安心した!」


「そうだね、風花さん。僕も安心したよ」


「でも、私たちのほうがラブラブだよ! 息子夫婦に負けないんだからぁ~!」



 母さんよ。張り合う気満々にならないでください。それに、息子夫婦って何だよ! 俺たちはまだ結婚してないから! 父さんも母さんを止めろ!


 俺と後輩ちゃんが困惑していると、司会者がマイクを手に取る。瞳がキラ~ンと輝いた気がした。



『では、名残惜しいですが、最後の質問に参りましょう! ズバリ! 好きな気持ちが大きいのはどっちですか?』


『私です』


『わたくしです』



 質問に即答する俺と後輩ちゃん。一応俺は雪女だから女声で答えた。今さらな気もするが。


 答え終わった俺たちは、パチパチと目を瞬かせ、キョトンと見つめ合う。



『何を言っているの? わたくしのほうが好きに決まっているわ』


『雪女さんこそ何を言っているんですか? 私のほうがもっと好きに決まっています』



 俺たちの視線がバチッと火花を散らした。それをきっかけに、お互い詰め寄って意見をぶつけ合う。



『はぁ? 俺に決まっているだろ?』


『私です。私に決まっています。どこかのヘタレさんは大人しく負けを認めてください』


『前も同じようなことがあったな? 今度こそ決着をつけてやる!』


『いいでしょう! 望むところです! いい加減認めさせてやりますよ!』


『俺のほう好きだ』


『私のほうが好きです』


『『 あ゛ぁ? 』』



 以前行われた戦いに再び火がついた。あの時は、実は引き分けになった。でも、今回こそはっきりさせてやる! 俺のほうがより好きに決まっている!


 後輩ちゃん! いざ尋常に勝負!


















『いやぁ~盛り上がってまいりました! 私、この展開を観たかったんです! いいぞやれやれ~! もっとラブラブしろぉ~!』





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こんにちは! 作者のクローン人間です!


とうとう300話に到達してしまいました!

これも読者の皆様のおかげです。

本当にありがとうございます。

200話に到達したのが2020/1/11らしく、内容もちょうどどっちが好きかで争っていました。

300話もいかないだろうと思っていたら、あっさりと超えてしまいました。

しかし、クリスマスにお正月、修学旅行にバレンタインデー&ホワイトデーなど、まだまだカップルイベントは盛りだくさんです。

まだしばらく終わらなさそうです。

頑張って二人のイチャイチャを書き続けますね。

これからも本作品をよろしくお願いします。   (2020/4/20)


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