第276話 お菓子作りと後輩ちゃん

 

 俺と後輩ちゃんは家に帰りついた。まだ午前中。一度学校に登校して、すぐに家に帰ることになった。何故かと言うと、文化祭で売るお菓子を今から俺の家で作るからだ。


 俺たちの後ろには、お菓子作りのメンバーが6人ほどいる。それと、監視役としてクラスの文化祭実行委員。全員女子だ。


 ガチャリとドアを開け、中に入るように促す。



「「「 おっじゃましま~す! 」」」



 とてもとても興味津々で中に入る女子たち。リビングに入ったところで、クンクンと部屋の空気を嗅ぎ始める。



「くんくん…おぉ…」


「くんかくんか…なるほどぉ…」


「くんくん…くんくん…くんくん…」


「………何やってるんだ?」


「「「 匂い調査! 」」」



 匂い調査ってなんだよ! そんなにクンクンして犬かよ!


 女子たちは鼻をクンクンさせたまま、興味深そうに部屋の中を見渡す。



「初めての異性の部屋。ちょっと緊張するかも」


「ほうほう。生活感がしますなぁ」


「何この同棲感…いや、もう夫婦だよ…結婚してる夫婦の家だよ…!」


「ベランダには洗濯物が干してあるし! 女性ものの下着も普通に干してあるよ! あっ…颯くんのボクサーパンツ…」


「「「 どれどれっ!? 」」」


「おいコラ見るな!」



 俺は慌てて女子が開けたカーテンを閉めた。折角閉めてたんだから開けないでくれ。それに、俺の下着に一番興味を持ってなかったか? 家に連れてきて大丈夫だったかなぁ…?


 俺は呆れながらも、女子たちは後輩ちゃんに任せ、着替えようと寝室のドアを開けた。でも、それが大間違いだった。


 女子たちの瞳がキラ~ンと光る。まるで、獲物を狙う肉食獣のよう。



「寝室はこっちかぁ~?」


「突撃~!」


「行け行け~! 攻め込むのだぁ~!」


「おいっ! ちょっと待て!」



 慌てて止めたが、時すでに遅し。猛然と突進してきた女子たちは、もう既に寝室に突入していた。キョロキョロと楽しそうに寝室を見渡している。


 そして、ベッドの下やマットレスの間を隈なく探し始める。



「お宝! お宝はどこだ!」


「思春期の男が必ず持つというえっちな本はどこだ!?」


「隊長! ベッドにはどこにもありません!」


「エロ本はどこかに必ずある! 探せ! 探すんだ!」


「「「 イエスマム! 」」」



 いやいや。本当に何やってんの? 敬礼までしちゃって。なんか燃え上がってるんだけど。ここに何しに来たかわかってる? お菓子を作るためだよね? 目的忘れてない? 絶対に忘れてるよね!?



「いや、フツーに本棚にあるけど」


「「「 はっ!? 盲点だった! 」」」



 制服を脱ぎ脱ぎしている後輩ちゃんが、あっさりと暴露した。


 堂々と本棚に並べてあるエロ本は、俺のじゃなくて後輩ちゃんと桜先生のものだけどね。俺は残念ながら持っていません。持つ必要がないから…。おっと。ついお口が…。


 って、後輩ちゃん!? 後輩ちゃんこそ何やってるのっ!? 何故平然に着替えているんだ!? 確かに、汚れるから着替える予定だったけれども! まだ俺いるんですけど…。


 俺の前で下着姿になっても気絶しなくなったとは、後輩ちゃんも成長したなぁ。


 驚きを通り越して感心していると、女子たちは本棚に突撃し、普通に並べてあったエロ本を見つけてあっさりと開く。



「おほぉ~! はっけ~ん! なかなかに過激」


「エロいなぁ。エロいですなぁ。けしからん。実にけしからん!」


「あぁっ…ダメッ…颯くんダメぇったらぁ…葉月がいるでしょ…」


「きょ、今日…勝負下着つけてきたの…見る?」


「コラァー! 私の先輩で何を妄想してるんだー! 戦争だぁー!」



 下着姿の後輩ちゃんが、エッロい声を出し始めた女子たちに飛び掛かっていった。そして始まる女子たちの乳繰り合い。


 楽しそうだから放っておこう。俺は静かに寝室から出て行くのだった。


 ちゃんと手洗いなどをして、エプロンを付けて、一人で作業を始める。


 クッキー系から作っていこうかな。そして、焼いている間にスコーンの準備をしよう。


 寝室のドタバタを聞きながら、テキパキとお菓子を作る。


 しばらくすると、ヨロヨロと弱りきった女子たちが、寝室から這い出すように出てきた。


 疲れきった後輩ちゃんが、ゆっくりとガッツポーズをした。



「しょ、勝者…」


「はーい。後輩ちゃんお疲れ様。皆もお疲れ。お茶用意したから飲んでくれ」


「「「 あ、ありがと… 」」」



 女子たちは、俺が用意したお茶をグビグビと飲み干した。プハーッとお酒を飲んだおっさんみたいな声を出す。


 いや、まあ、俺は気にしないけどね。でも、男の俺もいるんだし、もうちょっと気にしましょうよ。淑女らしく。



「戦争は後輩ちゃんの勝ちか」


「はい…辛勝ですが…。お姉ちゃんで鍛えた技術テクがなかったら負けるところでした…」


「危うくお姉様と禁断の道に進むところだった…」


「はぁ…お姉様ぁ…」


「妄想くらい許されると思うの! 憲法でも保障してるでしょ! 思想の自由は!」


「この家では私が憲法です! というか、お姉様って言うの止めて!」



 この女子たちは何しに来たんだろう? ゆっくりまったりしてるし。ただの女子会か? サボるために集まったのか?


 一人でも作れるし、疲れきっているようなので、そこでしばらく大人しくしていてくださいね。


 あっ、後輩ちゃんはそのままでお願いします。ポイズンクッキングをされると困るので。味見係はゆっくりしていてください。



「………先輩? 今、何か失礼なことを考えませんでしたか?」


「いいえ! 別に何も!」



 背中に後輩ちゃんの視線がブスブスと突きささる。俺はお菓子を作りながら、ブンブンと激しく首を横に振った。


 相変わらず勘が鋭い。その鋭さを俺にも分けて欲しい。


 俺は、お菓子作りのメンバーが復活するまで、一人黙々とお菓子を作るのであった。

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