第269話 止めを刺す後輩ちゃん
ケーキを食べ終わった俺たちは、満足そうにお腹を撫で、余韻に浸っている。
今回作ったパンプキンケーキは絶品だった。後輩ちゃんと桜先生にあ~んしてもらったし、皆の幸せそうな顔を見ることができたので、作った甲斐がありました。
「はふぅ~。余は満足じゃ~」
「おふぅ~。
なんか後輩ちゃんと桜先生の一人称が変わっている。余とか妾とか、普段は言わないでしょうが! でも、可愛いのでもっと言ってください。
二人はぐて~っと俺にもたれかかっている。甘い香りが漂い、柔らかさと温もりが伝わってくる。
残り二人のバカップルは、裕也の太ももを枕にして楓が寝転んでいる。裕也は楓の頭を優しく撫でている。
目の前で親友と妹のイチャイチャなど見たくない。リア充爆発しろ!
「「お前が言うな!」」
俺は口に出してないのに、楓と裕也にツッコまれた。心を読むなよ!
後輩ちゃんと桜先生も俺にジト目を送ってくる。
「先輩。超特大のブーメランですよ」
「受け取れずに自分にぶつかっちゃうやつ」
ふむ。それは俺もリア充って言いたいのか?
超絶美少女の後輩ちゃんと付き合って、一つ屋根の下で生活する。同居人として、絶世の美女の桜先生がいる。二人とデートしたり、お風呂に入ったり、一緒のベッドで寝る。
……………おぉ! 俺はいつの間にかリア充だったのか!
「今さら気づいたんですか?」
「これで充実していないって言ったら、お姉ちゃんは泣いちゃったかも」
「お兄ちゃんは馬鹿なの? アホなの?」
「ヘタレだな。それも超絶の」
「うっさい! 全員俺の心を読むな!」
「先輩。全部顔に書いてありますよ。丸わかりです!」
桜先生と楓と裕也が、うんうん、と深く頷いた。
えっ? 嘘っ? 全部書いてあった? そんなにわかりやすいの、俺? これから気をつけよう。
楓がミニスカポリスの格好のまま、ゴロ~ンと寝返りを打った。俺からはギリギリ見えないけど、スカートが短いからどうにかしてほしい。別に妹の下着なんか見ても何も思わないけど。
「おい楓。スカート気をつけろ」
「いや~ん! お兄ちゃんのえっち♡」
ムカッ! 何故だろう。後輩ちゃんと桜先生に同じ格好で同じセリフを言われたらグッときそうなのに、楓に言われるとイラッとする。
「食べてすぐ寝ると牛になるぞ」
「なれるもんならなりたいよ! おっぱいバインバインの乳牛になりたいよぉ!」
楓が血の涙を流しながら慟哭した。地雷を踏み抜いてしまったらしい。
そう言えば楓は胸を気にしていたな。後輩ちゃんと桜先生は全く気にしないからすっかり忘れていた。それに、以前にも同じやり取りをした気がする。
「お母さん…なぜ私はおっぱいが小さいの…?」
「遺伝だろ。母さんはロリだし」
高校生の子供を二人も持つ母親でありながら、見た目は完全にランドセルが似合う小学生のロリ。ウチの母親は妖怪かなにかか? 美魔女というレベルじゃないぞ。
「くっ! 残酷な現実を思い出させてくれたお兄ちゃんには、お仕置きが必要だと思います!」
「完全に八つ当たりだと思うんだがっ!?」
「葉月ちゃん!」
「ほーい! アレをプリーズ!」
「ほーい! 受け取って、葉月ちゃん! 美緒お姉ちゃん!」
楓が何かを後輩ちゃんと桜先生に投げた。受け取った二人は、美しいニッコリ笑顔で俺の手首に装着する。ガチャリ、ガチャリ、という金属製の音がした。
俺の両手が後輩ちゃんと桜先生の手と手錠で繋がっている。
「て、手錠だと!? 外せ!」
「ふっふっふ! 嫌で~す! 鍵は渡しませ~ん!」
手錠の鍵をクルクルと回しながら、楓は何かを準備し始める。楽しそうに鼻歌も歌っている。なのに、何故俺は恐怖を感じるのだろう? 直感が盛大に警報を発している。これは嫌な予感がする。
「お、俺、トイレに行きたいんだけど…」
「もう遅いですよ、先輩」
「お姉ちゃんたちも付いて行きましょうか? 手錠に繋がれて離れられないし、手伝ってあげるわよ?」
「や、やっぱり止めておきます」
桜先生は冗談じゃなくて本気で思っているからたちが悪い。俺がトイレに行ったら本当に手伝ってくるだろう。
手錠を外してくれればそれでいいのに!
「もうちょっとしたら私とユウくんは帰らないといけないし、そろそろハロウィンの締めをしよっか!」
「ハロウィンの締め!? 初めて聞いたぞ!」
「初めて言ったもん。というわけで、最後にホラーで絶叫しようか」
「や、止めろぉ~!」
「止めませ~ん! 計画したのは葉月ちゃんで~す。文句はお兄ちゃんのお嫁さんに言ってくださ~い」
「ぶいっ!」
「ぶいっ、じゃねぇーよ! 俺を殺す気かっ!?」
ピースサインをした後輩ちゃんはとても可愛かったけど、今の俺には愛でる余裕はない。バタバタと暴れるが、手錠のせいで上手く動けない。楓はスムーズに操作して、ホラー映画の準備をする。
「ではでは~上映しま~す。ポチっとな!」
「いやぁぁぁああああああああああああああああああああああ!」
ホラー映画の画面が突いた途端、俺は恐怖で絶叫する。もう既に怖い。何も起きていないのに怖い。ホラー嫌。嫌い。大っ嫌い。後輩ちゃんのばかぁ~!
でも、画面は真っ暗なまま変化しない。全員が首をかしげ、楓がリモコンをポチポチ押したりバシバシ叩いたりしている。昭和のテレビかっ!?
壊れたかな、と一瞬喜んだ瞬間、いきなり画面が切り替わって髪を振り乱した幽霊が…!?
「きゃぁぁああああああああああああああああああああああ!」
その後のことはよく覚えていない。俺の記憶はそこで途切れた。
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