第268話 パンプキンケーキと後輩ちゃん

 

 ハロウィンコスプレの撮影会がひと段落したところで、ケーキを食べることになった。


 俺は尻尾をフリフリさせながら、冷やしていたケーキを取りに行く。



「「「「ケーキ! ケーキ! ケーキ! ケーキ!」」」」



 後輩ちゃんと桜先生と楓と裕也は大盛り上がり。テーブルをバンバン叩いたり、拍手をしている。口からは涎が…。ちゃんと拭いなさい!


 今回作ったのはハロウィンということでパンプキンケーキだ。ジャック・オー・ランタン風に仕上げてみました。渾身の出来。どやぁ!


 テーブルに乗せると、うおぉ~、と歓声が上がる。俺はますます得意げになる。どやどやぁ!



「おぉー! ジャック・オー・ランタン! 可愛いです!」


「でも、弟くん? 作ってる時は大丈夫だった? 怖くなかった?」


「ホラーが嫌いだとしても、これは流石に怖くないよね、お兄ちゃん?」


「あり得ないだろ!」



 まさかぁ、という楓と裕也には答えず、俺は無言で顔を逸らす。


 はい。正直に言えば滅茶苦茶怖かったです。俺はジャック・オー・ランタンもダメでした。最近は、ホラー関係のものはちょっとしたものでも無理になった。原因は、もちろん後輩ちゃんと桜先生。


 うそぉ、とドン引きするバカップル。仕方がないだろ。怖いものは怖いんだから。



「しゃ、写真撮らなくていいのか? 切っちゃうぞ」


「撮る撮る! ちょっと待って!」



 楓が慌てて写真を撮り始めた。それに続いて裕也も撮り始める。


 後輩ちゃんと桜先生? 二人はもう既に撮り始めているぞ。


 バシャバシャと写真を撮り、俺たちもケーキと一緒に写る。再び写真撮影会が行われた。


 各々が十分満足したところで、ケーキを切り分ける。五人いるから五等分だ。切り分けるのが面倒だな。裕也はいらないかな? そしたら四等分になるのに。



「おい颯。なんか考えなかったか?」


「何のことだ?」



 ちっ! 勘が鋭い。ジト目もイケメンだからムカつく。イケメン滅ぶべし!


 仕方なく五等分にすることにする。ケーキに包丁を入れると、女性陣から、あぁ…、と残念そうな声が漏れた。ジャック・オー・ランタンが切り裂かれる。


 切り分けがケーキをお皿に移し、全員に渡す。四人はお皿のケーキから目を離さず、涎を垂れ流しながら凝視している。ちょっと怖い。


 それじゃあ、食べますか。それじゃあ皆で…。



「「「「「ハッピーハロウィン! いただきま~す!」」」」」



 ケーキを一口ぱくり。うん、美味しい。完璧な仕上がりだ。ちゃんとカボチャの味も感じられる。甘さもちょうどいい。最高の出来だ。どやぁ!


 他の皆はどうかな、と思って見渡すと、全員が頬に手を当てて幸せそうにうっとりとしていた。


 頬が落ちそうなのを手で支えてるって感じだ。夢見心地って感じもする。


 人ってこんなに幸せそうな顔ができるのか。



「はふぅ…もう蕩けちゃいそうです」



 後輩ちゃん。顔はトロットロに蕩けておりますよ。思わずドキッとしてしまったではないか。とても可愛すぎる。



「毎日ハロウィンでもいいわ…」



 止めてください。俺は絶対に嫌。ハロウィンなんて滅べばいいと思ってるから。



「はぁ…これは言葉が出ないね…」


「だな…」



 楓と裕也よ。思いっきり言葉が出てるぞ。


 皆美味しそうに食べてくれている。作った甲斐がありました。やっぱり美味しそうに食べてくれるのが一番うれしいな。


 ケーキの二口目を食べ、再び顔がトロットロに蕩ける。見ているだけでこっちまで幸せになる笑顔だ。


 ワイワイと食べるのかと思っていたのだが、とても静かだ。ふぅ、とか、はぁ、とか吐息が漏れるけど、それくらいだ。ゆっくりと味わうように無言で食べ続ける。


 やっと喋るようになったのは、ケーキを半分食べ終わった時だった。



「あぁ…とうとう半分になってしまいました…」


「あっという間ね…」



 名残惜しそうに自分のお皿のケーキを見つめていた後輩ちゃんと桜先生。二人は何を思ったのか、俺のケーキをじっと見つめ、スゥっと一口分掬った。


 まさかっ! 俺の分を食べる気かっ!?


 慌てて取り返そうと思ったら、二人はニッコリと微笑んだ。



「ほらほら先輩! お口を開けてくださいな」


「あ~んしてあげるわ!」



 あ~んですか。それならば許します。本気で取られたかと思った。



「先輩、あ~ん♡」


「はむっ! もぐもぐ…」


「弟くん、あ~ん♡」


「はむっ! もぐもぐ…」



 俺は後輩ちゃんと桜先生からあ~んしてもらった。


 うん、美味しい。やっぱりあ~んしてもらった方が美味しく感じるな。何故だろうか? 本当に不思議だ。


 あ~んしてくれたから、俺も二人にあ~んをする。二人同時は無理だから順番だ。



「後輩ちゃん、あ~ん」


「はむっ! んぅ~♡ 幸せ…」


「姉さん、あ~ん♡」


「はむっ! んふぅ~♡ 最高…」



 大変満足してくれたみたいだ。更にトロットロに蕩けて幸せそう。やっぱりあ~んされるともっと美味しくなるよね!



「なぁなぁ楓ちゃん。何故かケーキが突如甘さ控えめになったんだけど、俺の気のせいかな?」


「それは私もだよ、ユウくん。三人のやり取りがあっまいわぁ~。甘すぎる!」



 何故か対面に座っているバカップルからじーっと見つめられる。


 あ~んなんて普通のことだろ? ご飯の時はほぼ毎回やってるぞ。


 ………………んっ? これって普通のことか? まあいっか!



「くっ! こうなったら私たちも対抗するよ、ユウくん!」


「おうとも! カップルの先輩として負けてられん! 俺たちの愛を見せつけてやろう!」



 バカップルがあ~んを始め、徐々にエスカレートして口移しに移行する。


 目の前でイチャラブするのは本当に止めて欲しい。俺はお前たちのイチャラブなんか見たくないから。



「おぉ! その手がありましたか!」


「口移し…ゴクリ…! お姉ちゃんたちも負けてられないわ!」



 何故か対抗心を燃やすポンコツ姉妹。ケーキをパクっと咥え、ゆっくりと俺に顔を近づけてくる。瞳が期待でキラッキラと輝いている。


 えぇ……あいつらの真似をして口移しをしたいと? 俺にそれをやれって? 結構難易度が高いぞ……。やってみたい気持ちはわかるけど。


 俺は理性と欲望の間で揺れ動き、葛藤の末、天秤が片方に傾いた。


 その後、俺が口移しをしたかどうかは秘密である。







 ふぅ……ケーキ美味しかったです!

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