第266話 ハロウィンの仮装と後輩ちゃん

 

 尻尾が二本ある妖怪猫又の女装コスプレをさせられた俺は、女性陣が着替えるからということで寝室を追い出され、リビングに居たマリージのコスプレをした裕也と格闘していた。


 コイツはコスプレした俺を見て笑いやがった。だから、復讐として油性ペンで髭を書いてやる!



「ちょっ! マジで止めろ、颯!」


「にゃはは! 抵抗するにゃ!」


「役になりきってやがる! それに女声!? 似合うな…」


「死ねぇ!」


つよっ!? 力つよっ!?」



 俺が手に持った黒ペンが徐々に裕也の口元に近づいていく。滅多に出さない全力を出し、裕也を追い詰めていく。


 あと少し…。あと少しで復讐と憂さ晴らしができる。あと少しなんだ…!


 その時、寝室から楓の声が聞こえてきた。



「おーい! 着替えたからお披露目するよー! 準備はいいー?」


「いいよいいよ! 待ってました! ほらっ、颯止めろ!」


「ちっ!」



 タイミングの悪い。あと少しだったのに。


 女性陣のコスプレは俺も楽しみだから、ここは大人しく止めてあげよう。裕也がホッと安堵の息を吐いている。


 僅かに開いた寝室のドアの隙間から声が聞こえてくる。



「ではではー! エントリナンバー1番。宅島楓。行きまーす!」



 ドアが開いて、着替えた楓がリビングに入ってきた。俺たちは拍手で出迎える。


 楓はミニスカポリスのコスプレをしていた。足には黒のパンストを穿いている。


 俺たちの前でクルリと一回転すると、両手で銃の形を作って決めポーズ。



「あなたの心と体を捕まえちゃうぞ♡」



 キメ台詞と共に、俺と裕也が撃ち抜かれた。実の妹だから俺は何にも思わなかったが、彼氏の裕也はドストライクだったようだ。


 ぐはっと胸を押さえて床に倒れ込んだ。ピクピク痙攣している。滅茶苦茶キモい。



「どうどう? 可愛いでしょ?」


「可愛いな。ほら裕也」


「楓ちゃんマジで可愛い! 俺を逮捕してください!」


「はーい。ユウくんを私に惚れちゃった罪で逮捕しまーす!」



 どこからともなく取り出した手錠で裕也の両手を拘束する。


 そう言えば、楓は何故か手錠を持っていたな。前に後輩ちゃんが借りてた。一体何の目的で手錠を持っているんだろう?


 ………これは聞いたらダメなやつだな。忘却の彼方に吹き飛ばそう。



「ユウくんも似合ってるよ。かっこいい! でも、髭がないね。よしっ! 私が書いてあげよう!」


「あっ、それは油性ペンだから! だ、だめぇ~!」



 隣でドタバタとイチャイチャしているバカップルは無視しておこう。


 ちなみに、俺が楓にペンを渡してあげました。


 寝室から桜先生の声が聞こえてくる。



「エントリーナンバー2番。桜美緒。行くわよー!」



 寝室から絶世の美女が現れた。


 桜先生が着ているのは黒のシスター服。服は全然派手ではないし、露出もしていないのに、桜先生の豊満な身体のラインで滅茶苦茶エロく感じる。背徳感が凄い。


 桜先生がシスター服を着ちゃダメだろ! これは破壊力抜群だ!


 軽く一回転した桜先生は、胸の前で両手を合わせ、厳かに言葉を紡ぐ。



「汝のお姉ちゃんを愛せよ。右の頬にキスする弟くんは左の頬にもキスせよ。情欲に身を委ねて下着を取ろうとする弟くんには、上着も差し出すわ。自分の可愛いお姉ちゃんを愛せよ」



 くっ! 珍しく良いことを言っていると一瞬でも思ってしまった俺が馬鹿だった。中身をよく聞くと残念でポンコツだな! 聖書の言葉を変な風に変えるな! 欲望駄々洩れじゃねぇか!


 キメ台詞を言い終わった桜先生が俺の腕に抱きついてきた。



「ねぇねぇ弟くん! お姉ちゃんどう? 可愛い? 綺麗? エロい?」


「そうだな、可愛くて綺麗でエロい……って、なにを言わせてるんだ!?」


「やったぁー! エロいのね! 弟くん、お姉ちゃんを好きにしていいのよ」



 その豊満でエロティックな身体で誘惑するな! 理性が削られていくから!


 神に仕えるはずのシスターが、欲望にまみれている。



「大丈夫よ、弟くん! 私は『お姉ちゃん教』のシスターだから! あっ、これは修道女シスターでありシスターね」


「誰が上手いこと言えと? それに、なんだその怪しい宗教は…」



 あまりのポンコツっぷりに頭が痛くなってきた。桜先生は得意げに胸を張る。バインと胸が弾んだ。



「お姉ちゃんが教祖なのです! 教義は、弟くんと妹ちゃんを愛でること。そして、弟くんの愛を全て受け止めること! こういう服を着ると背徳感で興奮して燃えるわよねぇ。だから弟くん! 弟くんの愛でお姉ちゃんをドロドロに…」



 俺は無言かつ無表情で、エロ本を読みすぎたポンコツ姉の頭にチョップを落とした。


 ズドンッというあり得ない音が響き、桜先生はあまりの痛みで声も上げられず蹲る。ピクピクと小刻みに震えている。



「颯、お前容赦ないな…」


「女性には優しくしないとダメじゃん! って、あれ? 美緒お姉ちゃんは嬉しそう? 気持ちよさそうじゃない?」



 まさかそんな訳……俺は見なかったことにしよう。これ以上この話題に触れてはいけない。


 さてさて。残念でポンコツな姉は放っておいて、後輩ちゃんに登場してもらいましょうか!



「後輩ちゃ~ん! お願いしま~す!」


「はーい! では、エントリーナンバー3番! 宅島葉月! 行きま~す!」



 寝室から後輩ちゃんの声が聞こえ、ドアが開き始める。


 後輩ちゃん? 誰一人ツッコまなかったけど、君の苗字は山田だからね? 宅島は俺と楓だけだよ? ちゃんとわかってる?


 わざと言ったのかわからない後輩ちゃんがリビングに入ってきた。


 後輩ちゃんが着ていたのは、純白のナース服。それも、少し前のスカートタイプのナース服だ。ナースキャップも頭に乗っている。最近のナース服はズボンだからな。


 ナース服は超絶美少女の後輩ちゃんによく似合っていた。とても可愛い。今にも理性が崩壊しそう。


 クルッと一回転した後輩ちゃんは、俺に向かって輝く笑顔を浮かべる。


 天使だ。天使がここに降臨した!



「せんぱぁ~い♡ 人工呼吸してあげましょうかぁ~?」


「ああ、頼む」


「ふぇっ!?」



 まさか俺がして欲しいなんて言うとは思わなかっただろう。後輩ちゃんがキョトンと目を丸くして、爆発的に顔を赤らめた。あわあわとわかりやすく慌てている。


 少しはやり返すことができたかな? 慌てる後輩ちゃんはとても可愛いです。


 揶揄うことができた俺は、ニヤリと笑う。



「冗談だ。揶揄っただけ」


「むぅ!」



 後輩ちゃんが拗ねてしまった。頬をぷくーっと膨らませて拗ねている。拗ねた後輩ちゃんもとても可愛い。


 拗ねた後輩ちゃんが足音を立てて俺に近づき、乱暴に腕に抱きついてきた。潤んだ瞳で上目遣い。


 俺は思わずボーっと見惚れてしまう。後輩ちゃんが悪戯っぽく微笑んだ。



「先輩のお口が悪くなっています。治療しますね」



 そう言うと、後輩ちゃんは俺の口に治療キスした。

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