第263話 ケーキを作る俺
桜先生の部屋のベッドで少し寝た俺は、完全ではないが復活した。
まだ身体は怠いし喉は痛いが、気にするほどでもない。後輩ちゃんと桜先生に抱きつかれて眠るだけでこんなに癒されて元気になるとは…。恐るべし!
寝る前はお肌がツヤッツヤで、元気溌剌としていた二人は、ベッドに横になって俺にくっつくと、ものの数秒で眠ってしまった。相変わらず寝つきが良い。
気持ちよさそうに寝ていたから、起こさず寝かせたままだ。
俺は自分の部屋に戻り、楓と裕也のバカップルイチャラブ空間をぶち壊すと、部屋の装飾を軽く片付けて寝室に放り込む。そして、片手間に摘まめるおにぎりを作って、食べながらケーキを作り始める。
「ふぉふぃいふぁん、ふぉおふぁふぁんのふぇーふぃ?」
「妹よ。食べるか喋るかどっちかにしてくれ。流石の俺も翻訳できない」
「もぐもぐ…」
俺の軽食を勝手にモグモグ食べていた楓は、俺の言葉に従い、食べるほうに専念する。
少しは残しておいてくれよ。後輩ちゃんと桜先生の分もあるんだから。
ごっくんと飲み込んだ楓が、おにぎりに手を伸ばして、一口齧ってから質問する。
「お兄ふぁん、今日ふぁなんのケーキ?」
モグモグと食べる前に質問してください。行儀が悪いですよ。食べながら料理している俺が言うのもなんですが。
「今日か? 今日はパンプキンケーキ。ハロウィンだからな」
「おぉー! でも、お兄ちゃんはハロウィンが大っ嫌いじゃなかったっけ?」
「大っ嫌いだぞ。後輩ちゃんのせいで。今は死ぬほど大っ嫌いだが。でも、ケーキはケーキ。ハロウィンのホラーとは別だろ」
「そうだねー。ケーキはケーキか。美味しければそれでいい! モグモグ…おにぎりウマウマ」
「そりゃどーも」
そんなにパクパク食べていいのか? 昼ご飯もケーキもあるんだぞ。ちゃんと食べられる余裕を残しとけ。それに、太るぞ!
言ったら怒られるから言わないけど。
「『トリック・アンド・トリート ~お菓子をくれたら悪戯するぞ♡~』をテーマにしてたけど、葉月ちゃんたちはどんな悪戯をしてくれるんだろうねぇ?」
「エロいことかもなぁ」
ニヤニヤ笑顔の楓がウザい。ご飯粒を付けた裕也のニヤニヤ笑顔もウザい。
ま、まあ、少しえっちな悪戯をしてくれるらしいんだけど、どうなんだろ? 少し楽しみではある。
「お前たちは何か悪戯すんのか?」
「しないよー。めんどい」
「俺たちは颯の料理と甘いものを食べに来ただけ」
「「ねー!」」
バカップルは仲良く目を合わせる。正直でよろしい。
「あっでも、コスプレはするから。ケーキを食べる前に着替えよっか」
「楓ちゃんのコスプレ楽しみ!」
「でしょでしょ! 待っててねユウくん♡」
バカップルが抱きしめ合ってイチャイチャし始めた。
実の妹と親友のイチャラブなんか見たくない。リア充爆発しろ!
「「お前が言うな!」」
びっくりしたぁ。俺は何も言ってないのに、二人が同時に大声を上げたからびっくりしただろ。手元が狂う所だった。危ない危ない。
ジトーっとする視線が背中に突き刺さりながら俺はお菓子の準備をする。
オーブンに入れてスイッチをポチっとな。
「へーい! お兄ちゃ~ん! 何作ってんの~?」
「パンプキンクッキー」
「ケーキじゃないの!?」
「ケーキも作るぞ。ついでにクッキーも作ろうかと思って。多めに作ってクラスメイトにもお裾分けしようかと」
「俺たちの分はあるのか!?」
「あるぞー」
「「よっしゃ!」」
楓と裕也がそろってガッツポーズをする。仲が良いことで。
二人と喋りながら俺はお菓子を作っていく。
これを取り出して、今度はこっちをオーブンに突っ込んで、あとは待つだけっと。
いい香りが漂う焼きたてのクッキーを、裕也と楓の視線が瞬きせず見つめている。口からは涎が溢れ出す。
「食べていい? 食べていいの!?」
「俺、待てない…」
「ちょっと待ってろ! 今から後輩ちゃんと姉さんを起こしてくるから。皆で食べたほうが美味しいだろ? 食べたらケーキは無しな」
「「えぇー! じゃあ、さっさと起こして!」」
「へーい」
鬼気迫る瞳で睨まれ、俺はさっさと真下の桜先生の部屋へと移動する。渡されている合鍵で鍵を開け、中に入って寝室に向かう。
ベッドには、服がはだけてお腹や胸の谷間が丸見えになっている姉妹が、気持ちよさそうに寝ていた。
二人を優しく撫でると、くすぐったそうに口元が緩む。むにゃむにゃしているのが可愛い。
まずは後輩ちゃんを起こすとしようか。
俺は後輩ちゃんの耳元で優しく囁く。
「葉月起きろ。クッキーがあるぞ」
「ふぇっ? くっき…?」
後輩ちゃんは目を半開きにする。まだ半分眠っているらしい。瞳がトロ~ンと蕩けている。
俺の顔をボヤ―っと見つめると、突然俺の首に手を回して、ベッドの中に引きずり込んだ。
「しぇんぱいのくっき…いただきましゅ…はむはむ」
「んぅっ!?」
寝ぼけた後輩ちゃんは俺の唇に吸い付き、ハムハムと甘噛みしてくる。歯ではなく唇でハムハムしてくれるから痛くはない。むしろ気持ちいい。
キスを堪能したいところだが、俺は後輩ちゃんを起こさねばならない。離れようともがくが、力が強くて離れられない。一体どこからこんな力が!?
揺さぶっても効かず、叩いても無理。後輩ちゃんに好きなように唇を貪られる。
寝ぼけた後輩ちゃんは下まで強引にねじ込んできた。口の中まで蹂躙される。
もう諦めて、後輩ちゃんが気が済むまでキスをされていた。
涎でベットベトなるまで貪られ、数分してからやっと離された。
「ごちそうしゃま…くっき…」
「ふぇっ? くっき…?」
今度は桜先生が半分目覚めた。薄っすら開いた瞼の奥の瞳が、ぼけーっと俺を見つめる。
何やら嫌な予感が…。
「弟くんがちゅくってくれたくっき…わーい…」
「うおっ!?」
寝ぼけた桜先生に抱きしめられた。クンクンと匂いを嗅がれる。
起きてないよね!? 起きてないなら起きてください! お願いします!
「弟くんの匂いのくっき…美味しそう…」
「えっ? なんで美味しそうなのっ!?」
「いただきましゅ…」
「むぐっ!?」
今度は桜先生に唇を奪われた。後輩ちゃんと同じようにハムハムされる。
キスの経験がほとんどない桜先生は、お世辞にも上手いキスとは言えない。ハムハムと唇を甘噛みされ、ペロペロと舐められる。
必死に抵抗するが、何という力! 全く動けない。どこからこんな力が!?
「ふふ…おいちぃ」
「俺は食べ物じゃ…んぅっ!?」
万力のような力で掴まれ、為す術なく唇を甘噛みされ、舐め続けられる。
「あぁ…じゅるい…おねえしゃんだけ…もっとくっき…食べりゅ…」
「うおっ! んっ!?」
再び後輩ちゃんに抱きつかれ、唇を蹂躙される。
どうやっても抜け出せない。
俺は抵抗を諦めて、二人が完全に目覚めるまで、唇を貪られ続けるのだった。
<おまけ>
「せ、先輩!」
「お、弟くん!」
「「お願いだから忘れてください! あっ、やっぱり忘れないで欲しいかも…」」
「どっちだよ…」
ベッドの上で土下座する二人を眺め、精神的に疲労した俺はベッドに倒れ込むのだった。
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