第257話 遊び尽くす後輩ちゃん

 

 やってきました! 街の中心部!


 昨日突然デートがしたいと言い出した後輩ちゃんと街に繰り出しております。


 普段の後輩ちゃんは超インドアだけど、珍しく張り切ってオシャレをして俺の腕に抱きついている。軽くお化粧もしている。見慣れている俺でさえもハッと見惚れるほどの可愛さと美しさと綺麗さ。ずっと心臓がバクバクしております。


 男女問わず後輩ちゃんに見惚れ、撃沈している。特に男性が胸を撃ち抜かれて倒れたり、硬直したりしている。屍累々。


 流石後輩ちゃん。魔性の女。一体どれだけの人を堕とせば気が済むのだろうか?



「私としては、先輩を堕とせれば、それでいいんですけどね」



 後輩ちゃんが自然ナチュラルに俺の心を読んだ。


 上目遣いで顔を覗き込んでくる後輩ちゃんがとても可愛い。心臓のバクバクが止まらない。



「俺はもう既に堕ちてるけどなぁ」


「知ってます。でも、底はないですよね?」


「ないな。底なし沼、いや、底なし愛かな?」


「一緒に堕ちるところまで堕ちましょう! 目指せ! 堕落と肉欲にまみれた世界へ!」



 後輩ちゃんよ。働かないつもりか? 別に言うだけは構わないけど、せめて家の中で言いましょう。公共の場所で言う言葉じゃありません! 淑女なんですから気をつけてください。


 俺と後輩ちゃんは仲良く手を繋いで街を歩く。


 昨日突然決まったから、目的地が決まっていない。一応いくつか頭の中にリストアップしてるけど、滅多にできない外でのデートだから、ただ歩くだけでも楽しい。



「先輩。どうしましょっか? 映画にします? 映画にします? それとも、映画にします?」


「その映画というのはホラーなやつかな?」


「はいっ!」



 後輩ちゃんが輝く笑顔で肯定した。一切誤魔化す気がないらしい。とても清々しい。



「却下だ却下! 俺はホラー映画は絶対に観ない!」



 俺が却下すると、可愛らしく頬を膨らませて、ぶぅ~、と不貞腐れる後輩ちゃん。とても可愛い。何この可愛い生き物は。


 このままだとホラー関連の場所に連れて行かれそう。そうならないためには、俺が何とかするしかない!


 リストアップしていたものを思い浮かべて、近くにあって楽しめる場所はというと…あれなんてどうだろう?



「後輩ちゃん。あそこはどうだ?」


「どこですか?」



 俺が指さした先を眺める後輩ちゃん。そこにあったのは、複合型アミューズメント施設『カウント・トゥー』だ。卓球、ビリヤード、カラオケ、ボウリングなど、いろいろな遊びをすることができる人気の施設だ。



「おぉ! カウント・トゥーですか。いいですね。行きましょう! インドアな私も偶には遊びますか!」


「決まりだな。レッツゴー!」


「おぉー!」



 俺たちはノリノリでカウント・トゥーに向かった。お金を払い、中に入る。


 やはり若者が多いが、意外と家族連れも多いみたい。知らなかった。


 テンションを上げた後輩ちゃんは、瞳を輝かせながら俺の腕をポンポン叩く。今にも腕を掴んで引っ張られそうだ。



「さて、どれから遊びましょうか?」


「無難に卓球かな?」


「良いでしょう! コテンパンにしてやります!」



 後輩ちゃんとの卓球勝負スタート!


 えいっ、やぁっ、とぉっ、と可愛らしい掛け声を上げながら、ラケットで球を打つ後輩ちゃん。地味に回転をかけてカーブさせてくる。上手いな。


 後輩ちゃんがその気なら、俺もやってやる!


 一進一退の攻防が繰り広げられる。お互いに譲らない。長いラリーが続く。



「ほりゃっ! 先輩!」


「ほいっ! 何だ?」


「あたっ! 賭けをしましょう」


「はいさっ! 内容は?」


「はいなっ! 負けた人は何でも命令を聞く」


「おりゃっ! いいだろう」


「とりゃぁああああああっ!」



 気合いっぱいの後輩ちゃんのスマッシュ。余程俺への命令権が欲しいのだろう。


 だが、残念ながら、本気を出した俺には効かない。


 俺はあっさりと打ち返して、俺のポイント。


 後輩ちゃんへの命令権を得るためだったら何でもしてやる! 愛しい彼女が相手でも容赦しない!


 少しドヤ顔をしてやったら、後輩ちゃんはぶくーっと頬を膨らませた。悔しそうに拗ねている。



「これくらいか?」


「むぅ~! 先輩。負けてください。超絶可愛い彼女からのおねだりです」


「ふっふっふ。こればかりは聞けないなぁ~」



 俺は煽ってみたけど後輩ちゃんには効かなかった。あっさりと気持ちを切り替える。後輩ちゃんの瞳が燃えている。



「まあいいです。最終的に勝てばいいんです。それに、私は卓球だけで勝負が決まるとは言っていません。あらゆるゲームで競います」



 なるほど。確かに卓球だけとは言っていない。あらゆるゲームで競い合うのか。そのほうが面白いな。



「いいだろう。今日の俺は本気で行くぞ」


「ふっふっふ。私だって本気で行きます」



 後輩ちゃんの燃える瞳と視線がぶつかって、バチバチと火花が散る。


 くっ! 妖艶な大人の色気を漂わせる後輩ちゃんが可愛すぎる。俺の集中力を乱すつもりか! なかなかやるな! でも、俺は負けない!


 俺と後輩ちゃんの戦いの火ぶたが切って落とされた。


 ………

 ……

 …


 ~勝負中~


 …

 ……

 ………


 アミューズメント施設カウント・トゥーで時間いっぱい遊び尽くした俺たちは、心地良い疲労感を感じながら、涼しくなった街を歩く。


 疲れた後輩ちゃんが俺の腕に抱きついている。



「あ~あ! 結局ドローですか。先輩への命令権欲しかったなぁ~」


「それはこっちのセリフだ。実に残念だ」



 俺たちの勝負の結果は引き分け。どちらも命令権を得ることはできなかった。


 勝負は次回に持ち越し。次こそは絶対に勝つ!


 今日のデートはとても楽しかった。またデートしてくれるといいけどなぁ。後輩ちゃんは超絶のインドアだから。


 いろいろと喋りながら家に帰る。桜先生が寂しさで泣いてないといいけど。


 家のドアの前に着いたら、後輩ちゃんが俺の背中に抱きついてきた。そして、手で俺の目を覆ってくる。真っ暗で何も見えない。



「後輩ちゃ~ん。危ないんですけど~」


「いいじゃないですか。私が案内してあげますから。耳元で囁きながら♡」



 ふむ。それならば囁いてもらおう。俺もお年頃の男なのだ。後輩ちゃんから囁かれるのは大好き。


 熱い吐息を吹きかけられながら、手探りで部屋の中に入る。



「ほらほら…そのまま真っ直ぐですよ…」


「お、おう」


「リビングにとうちゃーく。お姉ちゃんが微笑んでますね。というわけで、オープン!」



 後輩ちゃんの手が外された。視界が眩しく感じながら、瞼をパチパチさせる。


 そして―――



「ぴぎゃぁぁあああああああああああああああああああああああ!?」



 俺は絶叫した。

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