第256話 何かを企む後輩ちゃん
後輩ちゃんが突然仁王立ちして俺を見下ろしてきた。短パンから覗く素足がとても眩しい。
平均より大きな胸をポヨンと弾ませる。
「先輩! 明日、デートに行きましょう!」
俺は、俺のお腹を枕にしていた桜先生を丁寧に退かすと、後輩ちゃんに近づき、前髪をかき上げ、おでことおでこをくっつける。
ふむ。熱はないようだ。だとしたら、頭のねじが緩んだか?
熱い吐息が混じり合う至近距離の後輩ちゃんが、ムスッと唇を尖らせた。俺の唇に僅かに触れる。
「先輩。どうして私の熱を測っているんですか?」
「後輩ちゃんが突然変なことを言い出したから」
「酷いです! お鼻スリスリの刑に処します! スリスリ~」
後輩ちゃんが可愛らしいお鼻をスリスリしてくる。ちょっと楽しい。
でも、超インドアで、家でゴロゴロするのが大好きな後輩ちゃんだぞ。お外にデートに行ったのも数えるくらいだぞ。そんな後輩ちゃんが突然デートに行きたいって言ったら疑うだろうが。
明日、雨じゃないよね? 槍が降らないよね?
俺は後輩ちゃんの両頬を手で包み込む。そして、至近距離で目を合わせる。
「後輩ちゃん。何を企んでいる?」
「何も企んでませんよ」
後輩ちゃんが俺の瞳をじーっと見つめてくる。嘘をついたり誤魔化すときにする後輩ちゃんの癖だ。ということは、何かを企んでいるらしい。
「一体何を企んでいる? 白状しろ!」
「だ、だから、何も企んでいませんって!」
「ま、まさか! ホラー映画を観に行くとか言わないよな!?」
後輩ちゃんがキョトンと目を瞬かせて、目を泳がせながら頷いた。
「そ、そうですよ~。バレてしまいましたかぁ~」
んっ? 何かがおかしい。何故棒読み口調なのだろうか? 違ったのか?
俺が悩んでいると、枕がいなくなったことで不機嫌そうな桜先生がパンパンと手を叩いた。
「はいはーい。そこまでー。弟くん! 彼女の妹ちゃんがデートをしたいって言ったのよ。ここは彼氏として行くべきだとお姉ちゃんは思います!」
た、確かに。ポンコツの姉の言う通りだ。珍しくまともなことを言ったな。驚いた。
心の中だけだったのに、桜先生はムスッと頬を膨らませる。
「弟くん! 失礼なことを考えたでしょ!」
「い、いや別に…」
「弟くん。ここに寝なさい」
「はい…」
珍しく、本当に珍しくお叱りモードの桜先生だ。俺は大人しく従って横になる。
桜先生も横になって、顔を近づけてきた。
「罰として、ほっぺすりすりの刑に処します! すりすり~」
「あぁ! お姉ちゃんズルい! 私もする~!」
俺は両頬を美女と美少女にスリスリされ始めた。
何この状況。いや、最近よくあるけどさ!
二人の頬はモチモチで柔らかい。甘い香りも漂ってくる。熱い吐息がくすぐったい。
俺は二人が満足するまでほっぺすりすりをされていた。
十分満足して肌がツヤツヤになった二人が、ふぅ、と一息ついて額を拭う。まるで一仕事が終わった感じだ。
そのまま俺を枕にしてゴロゴロし始める。
「んで、先輩。明日デートに行くのでよろしくです」
「へいへい。どこ行くか決めてんのか?」
「ノープランです! どやぁ!」
後輩ちゃんがドヤ顔している。ムカつくほど可愛いドヤ顔だ。
全く考えていないとか、後輩ちゃんは何を企んでいるんだろう? ちょっと怖いな。
怖い? はっ!? まさか!?
「ハロウィンが明後日の日曜日だから、明日街に繰り出して、ハロウィンイベントで俺を怖がらせようと!? お、俺は行かないからな! 絶対に行かないからな!」
「もう! そんな気は9割9分9厘ありましたけど、折角のデートなので楽しみましょうよ!」
「俺を怖がらせて楽しむつもりか?」
「はい!」
もう隠す気ないな。輝く笑顔ではっきりと肯定しちゃったよ。
マジかぁ。嫌だなぁ。行きたくないなぁ。怖いの嫌だぁ。でも、後輩ちゃんのためだ。頑張るしかない。俺は後輩ちゃんの彼氏なんだ。
「はぁ…わかりました。行きますよ。ただ、あんまり怖いのは止めてください…」
「任せてくださーい! 私基準でいいですか?」
「……俺基準でお願いします」
「了解でーす!」
後輩ちゃんが俺の身体をポンポン叩いて了承した。
絶対に疲れるから癒してもらおう。そうしないと割に合わない。たくさん甘えてもいいはずだ。俺たち付き合ってるし。
「(お姉ちゃん…手筈通りに!)」
「(任せて!)」
「んっ? 何か言ったか?」
「「何でもないです!」」
何でもないならいいや。囁き声が聞こえた気がするけど、後輩ちゃんが明日のことを考えて、笑い声を上げたのかなぁ? あり得そう。うぅ…後輩ちゃんがイジメる…。
あれっ? でも、俺と後輩ちゃんがデートするってことは、寂しがり屋の桜先生はどうするんだ?
「姉さんはどうするんだ?」
「お姉ちゃんは、偶には一人でのんびり羽を伸ばさせてもらうわ」
ずっと羽を伸ばしているのに? これ以上伸びるの?
「一人っきりの時間を覗いちゃダメよ!」
「鶴になって飛んで行っちゃうのか?」
「淫魔になって、弟くんを無理やり襲っちゃう」
「絶対に覗きません!」
桜先生なら本当にしそうで怖い。覗かなくても襲ってきそうだな…。本当にこのポンコツ姉をどうにかしてほしい。
こうして、ハロウィン直前に、突然後輩ちゃんとのデートが決定した。
明日は無事に生きて帰れますように!
この時、葉月と美緒がコソッとサムズアップをしていたことに颯は気付かなかった。
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